読書男

琴線に触れた小説たちをひとりでも多くの人にオススメできれば、なんてことを考えながら書い…

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琴線に触れた小説たちをひとりでも多くの人にオススメできれば、なんてことを考えながら書いてみようかなと思っています。

最近の記事

「名探偵の掟」東野圭吾(1996)―探偵もつらいのよ。―

今回読んだ本東野圭吾(1996)「名探偵の掟」  事件あるところに颯爽と現れ、難解な謎もトリックも名探偵にとっては朝飯前。どんなトリックも看破し、犯人の動機も論理的に推察していく。ああ、なんて名探偵はすごいんだろうか。  普段ミステリーを読まれる方は名探偵の推理による清涼感を求めてあらゆるミステリーものを読んでいるのでしょう。  本作はミステリー小説における掟―ルールーを材料としてコミカルに、そして、皮肉的に小説家にも読者にも問いを投げかけていく作品である。  というのも

    • 「われら闇より天を見る」クリス・ウィタカー(2022)―From End To End―

      今回読んだ本クリス・ウィタカー(2022) 「われら闇より天を見る」  原題は、「We begin at the end」。終わりからすべてが始まるのさと本書の中でも主要な人物が繰り返しこの言葉を述べている。  人生お先真っ暗などん底の生活の中でもがき苦しみながらも一筋の光を求めて手を伸ばすという本書の本筋にも通じる部分とみると、本書のタイトルは良くできているなと思う。  直訳するのではなく本筋をバシッと一言でカッコよく示すならまさにこれであろう。  本書のあらすじは、ア

      • 「点と線」松本清張(1958)―アリバイ崩しは時刻表で―

        今回読んだ本松本清張(1958) 点と線  時刻表という文字を見て、ふと日常生活の中でほとんど目にする機会がなくなってしまったなと感じる。時々乗るバスの停留所に立っている時刻表を眺めるくらいだろうか。  一昔前は、ポケット時刻表などあり、行きたい場所に向かうために何時にどのように乗り継いでいけばよいかページをめくりながらたどっていったものだ。  現在は、マップアプリなどを使えば一瞬のうちに、行きたい場所への経路が弾き出され、その通りに動けば時間通りに着くようになっている。便

        • 「イクサガミ 天」今村祥吾(2022)―東海道中死闘栗毛―

          今回読んだ本今村翔吾(2022) イクサガミ 天  バジリスクで知られる山田風太郎の甲賀忍法帖、誰もが知っている荒木飛呂彦のジョジョシリーズ第七部SBR(スティール・ボール・ラン)。  この2つが組み合わさったとしたら面白くないわけがないでしょう。  本書はまさにその2作が合体したような作品である。  時は、明治十一年(1817年)。嘘か真か豊国新聞なる文書に載せられた金十万を得る機会をもとに、武芸を極めしものたちが京都は天龍寺に集められる。  集まった二百九十余名の武人

        「名探偵の掟」東野圭吾(1996)―探偵もつらいのよ。―

          「令和元年の人生ゲーム」―生存戦略しましょうか―

          今回読んだ本麻布競馬場(2024) 令和元年の人生ゲーム  あなたは、人生ゲームのコマを正しく進めていますか?他人からどう見えるかに意識を集中し、ステータスに磨きをかけるがごとく成長し、前進していっていますか?  就活、恋愛、出世、結婚、育児、社外活動。人生のスナップショットに映えを加えてスケジュール表もびっしり。仕事はほどほど。ワークライフバランスという信条を掲げて、アフター5(死語でしょ?)に色めきだってSNSにはたくさんのサムズアップ。  正しいことをするのは、自分の

          「令和元年の人生ゲーム」―生存戦略しましょうか―

          「娼年」―内側にある欲求。ほとばしる性―

          今回読んだ本石田衣良(2001) 娼年  物欲。承認欲求。自己顕示欲。睡眠欲。食欲。様々な欲求があるなかで、人前でおおっぴらに話すことがはばかられる欲求。その一つが、性欲であると思う。  人間誰しもが大小あれど持つ三大欲求の一つであるそれは、そのほかのものと異なり、内側に秘められしものである。  本書は、リョウという20歳の大学生を主人公が、コールボーイとなり、様々な女性に買われ、その内側に秘める欲求を紐解いていく話である。  リョウは、少年のころに失った母親の面影を自分

          「娼年」―内側にある欲求。ほとばしる性―

          「4TEEN」―4人。14歳。青春グラフィティ―

          今回読んだ本石田衣良(2003) 4TEEN  人生で楽しかった時っていったいいつなんだろうか。14歳のころを思い返すと、早く大人になりたくてそれでいて子供のままでもいたいそんなことを二律背反的に持っていたことを思いだす。  14歳。中学二年生。すっかり死語に近づきつつある「中二病」どんぴしゃな年齢である。小学生よりも行動範囲が広く、高校生より大人びていない中学二年生というのは、自分の人生が拡張されて何だか世界のことを知った気になれるものなんだと思う。  本書は、4人の

          「4TEEN」―4人。14歳。青春グラフィティ―

          24年4月読了したオススメ本たち―3選―

          4月読了したオススメな本たち4月は小説含めると25冊ほど読了した。珍しく読書熱が自身の中で高まってきている中で読んで自分の中に印象を強く残した以下の3冊をオススメします。 宇佐美りん(2020) 推し、燃ゆ 昨今の推し活ブームの良し悪しを生きづらさを持つ主人公の視点から鮮明に描いた作品。著者自身の感性により込められた時代性とその描写のざらつきは、本書をめくる原動力になっている。 以下の記事でも感想文を書いたのでよければ、どうぞ。 佐藤究(2018) QJKJQ ザ・バ

          24年4月読了したオススメ本たち―3選―

          「推し、燃ゆ」推すことは尊く。辛く。

          今回読んだ本宇佐美りん(2020).「推し、燃ゆ」 A- 世知辛さを感じて生きている少女が推している「推し」が炎上した。 少女が、現実逃避が如く人生を賭けて推しを推していたところ、どんどん「人」に落ちていく推し。 推しが「人」に落ちていくとき、推しに人生をかけた少女はどうなっていくのか。 本書は、今では老若男女問わず使う「推し」にまつわる小説である。 自分が好きなアイドルを「推し」として人生を賭けて推し活を行う少女を描いている。 SNS社会で他者との比較が、強烈になった昨

          「推し、燃ゆ」推すことは尊く。辛く。