「推し、燃ゆ」推すことは尊く。辛く。
今回読んだ本
宇佐美りん(2020).「推し、燃ゆ」 A-
世知辛さを感じて生きている少女が推している「推し」が炎上した。
少女が、現実逃避が如く人生を賭けて推しを推していたところ、どんどん「人」に落ちていく推し。
推しが「人」に落ちていくとき、推しに人生をかけた少女はどうなっていくのか。
本書は、今では老若男女問わず使う「推し」にまつわる小説である。
自分が好きなアイドルを「推し」として人生を賭けて推し活を行う少女を描いている。
SNS社会で他者との比較が、強烈になった昨今の若者たちの感性をまさにその世代の著者がリアルに描いているため、読者が異なる世代であってもわからされる描写が本書にはある。
一体なぜ人生を賭けてまでも人は推しを推すことをするのだろうか。
推し自身の幸せを願いながら、どれだけ推しても自分自身の人生への見返りは少ない。
そして、不祥事や卒業、人気低迷などあらゆる壁が、推しには立ちはだかる。その結果、消費期限のある推しに対して、「推しは推せるときに推せ」という言葉も生まれた。
本書の主人公は、おそらく精神的な病気を抱えている。(厳密な描写はなく診療、処方薬などの描写がある)
それは、他人が主人公を見て配慮できる類の病気ではないため、これまでの人生を経ていくつもの誤解や偏見を主人公は受けてきたのであった。
そんな生きづらさを抱えながら、自分の人生の空っぽを埋めたのは、やはり「推し」であった。
主人公の友達は、人気なアイドルから地下アイドルへと推し変をして、「繋がる」ことを目的に推し活をしている。
主人公の母や姉は、それぞれ子育てと仕事、受験勉強など人生の大変さを感じながら主人公の推し活を見下し、また病気のことから家族から切り離そうとしている。
どこまでいっても主人公自体の人生は空虚なままなのである。その穴を埋めるが如く、推しのライブ活動や配信を見たりなど推しで自身の器に水を注ぎこむのである。
そんな推しが、ファンを殴って炎上。そして解散からの結婚して芸能界引退という始末。主人公にとって、まさに、飛んで火にいる夏の虫状態である。
筆者は本書を読んで、夏目漱石の「それから」という作品を思いだした。かつて思いを馳せていた少女と主人公は、友人の妻、そして妻帯者という方で再開を果たす。かつての思いを呼び起こした二人のひと夏の愛の陽炎は、じりじりと主人公の人生を焦がし、目眩を起こさせるというような話ではあるのだが、まさにそのラストのこれから主人公はどう生きていくのだろうと思わされた読後感を、本書にも感じたのであった。
終わりに
現実の世界を見ると、推しが卒業して悲しいと言っていたそばから新たな推しを見つけて人生を謳歌している人たちがいたりするので、これほどまでに人生を賭けて推し活をしていた人の空いた穴はどのようにして埋まっていくのだろうかと気になったりはする。
一度でも何かを推したことがある人。推し活の陰を見てみたい人。そんな人に本書はオススメである。
楽しい推し活。楽しくない推し活。両A面を楽しめる作品となっている。
そう。推すこととは、尊いことであり、辛いことでもあるのだ。
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