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「イクサガミ 天」今村祥吾(2022)―東海道中死闘栗毛―

今回読んだ本

今村翔吾(2022) イクサガミ 天

 バジリスクで知られる山田風太郎の甲賀忍法帖、誰もが知っている荒木飛呂彦のジョジョシリーズ第七部SBR(スティール・ボール・ラン)。
 この2つが組み合わさったとしたら面白くないわけがないでしょう。

 本書はまさにその2作が合体したような作品である。
 時は、明治十一年(1817年)。嘘か真か豊国新聞なる文書に載せられた金十万を得る機会をもとに、武芸を極めしものたちが京都は天龍寺に集められる。
 集まった二百九十余名の武人たちに告げられたのは、東海道を経て東京を目指すということ。そしてどのような手段を使ってでも各関所を越えるための点数を稼ぐ必要があるということ。
 蠱毒(こどく)という名の通り、武人たちが命を賭けて血で血を洗う大死闘が繰り広げられる。
 主人公は、京八流継承者の一人である嵯峨愁二郎。時の流派とは大きく作法(スタイル)が異なる戦闘方式で超人じみた強さを誇る。
 愁二郎は蠱毒開始直後に襲われそうになった双葉という少女を守りながら東京を目指して死屍累々な東海道を進んでいくというのが、本書のあらすじである。

 ざっとしたあらすじではあるが、面白さの妙は伝わるのではないか。忍者、サイコパスな殺人狂、達人級の老人、主人公と同じ京八流の継承者たちと少年漫画さながらのキャラクターたちの戦いは、読んでいてありありと目に浮かんでくる。
 なぜ蠱毒が繰り広げられるのか、その開催者の意図とは何か。主人公たちの行く手を阻むものとの闘い。強者との共闘。果たして目的地に無事にたどり着けるのかというように、謎や主人公の目的達成が気になるというものになっている。
 昨今、鬼滅の刃や呪術廻戦など残虐な描写もあるアクションものが人気を博しているが、本書はまさに時流に乗った王道アクションものなのである。
 本筋の目的や謎も読み進める推進剤になっているが、テンポよく差し込まれるアクションシーンに、主人公の強さたらしめる流派の秘密を少しずつ紐解いていくのが、読ませる技術(テクニック)としてとても強いものがある。

 歴史小説・時代小説と呼ばれるジャンルに身を置き、いくつも歴史上の跡を描いてきた著者が贈る濃厚なアクションエンターテインメントと本書は言える。
 若者にとって歴史小説というと古めかしいだけで面白くないのではと遠慮がちなジャンルではあるが、鬼滅の刃も大正時代を舞台にしているし、キングダムはもっと以前の歴史物語である。
 誰もがその時代を体験したわけではないので、もはや明治大正やそれ以前の時代というのは、ある種のファンタジーなのだと思う。
 つまり、ファンタジー×アクションと見なせる。そう考えると、これはもう王道中の王道であり、誰しもが一度は通ってきた道なのである。
 だとすると、本書は若者こそ読んで楽しめる一冊であり、おそらくターゲットは鬼滅の刃などの読者層であろう。

 本書は、天・地・人の3部構想で、24年5月の現時点では第2作目までしか発刊されていない。3部作目がいつなのかは気になるし、完結編が出て一気読みしたい気持ちもやまやまである。

おわりに

 池波正太郎の鬼平シリーズ、佐伯泰英の居眠り磐音シリーズなど名作といわれる歴史小説は多々あるが、若者にとって歴史小説を手に取る機会はあまりないのではと思う。
 そんな中で、著者は意図的なのか少年漫画あるあるを持ち込むことでライトに読みやすく、歴史小説の面白さを味わえるという一石二鳥なものに昇華させていると感じる。
 Netflixでの映像化も進んでいるということもあるので、映像化の一足先に本書を読んでイメージを膨らませながら待つというのも一興ではなかろうか。

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