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「読書での学びは“分からない”から」 面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤大輔が語る読書術。

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。学生時代の友人たちと面白法人カヤックを立ち上げ、「面白がる」を探究してきた柳澤大輔氏。読書を習慣としている柳澤氏が、価値観を変える読書を可能にする読書術を、自身の体験を交えながらご紹介する。

1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。
1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、鎌倉からオリジナリティのあるコンテンツをWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場に発信する。主要事業のほかにもカヤックが運営していた飲食店「DONBURI CAFE DINING bowls」の立上げや2009年、ビンボーゆすりを科学したプロダクト「YUREX」の開発のプロデュースにたずさわる。100以上のWebサービスのクリエイティブディレクターをつとめる傍ら、2012年カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル、2010年東京インタラクティブ・アド・アワード、2009~2015年Yahoo!インターネットクリエイティブアワードなどWeb広告賞で審査員をつとめ、著書に「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)、「アイデアは考えるな」(日経BP社)、「鎌倉資本主義」(プレジデント社)、「リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来」(KADOKAWA)などがある。ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給)や、ワークスタイル(旅する支社)を企画し、「面白法人」というキャッチコピーの名のもと新しい会社のスタイルに挑戦中。2015年株式会社TOWの社外取締役、2016年クックパッド株式会社の社外取締役に就任。

すべての起点は「面白がる」

カヤックは1998年の創業時から「面白法人」を名乗っています。これは大きく3段階の思いに分解されます。

1. まずは、自分たちが面白がろう。
2. つぎに、周囲からも面白い人と言われよう。
3. そして、誰かの人生を面白くしよう。
(面白法人カヤック「1. 面白法人に込めた思い」)

自分たちで「面白法人」を名乗る以上は、私たちがまず「面白がる」ことから始まります。現在カヤックでは、ゲーム関連事業や地域資本主義事業ほか、様々な事業に取り組んでいますが、その起点にあるのは常に「面白がる」です。
失敗することも少なくないし、時には誰かを怒らせてしまうことをもあります。ですが、私だけではなくチームのみんなが、「面白い」と感じたことを形にして発信してみる。そこでいただいたフィードバックやアイデアをさらに磨いていくことで、「世の中の人を面白がらせる」ことを目指しています。

発信することで加速する

2018年に出版した『鎌倉資本主義』は、地域の持続可能性を上げるための新しい「幸せの指標」を提案する、いわばマニフェストでした。
今までのカヤックでの実践の積み重ねを経て生まれた、「鎌倉資本主義」という概念が生まれた瞬間の考えを切り取った本です。この本にその時の考え方を凝縮して発信したことで、何も発信せずにただ考え込んでいた時よりも、アイデアや施策が磨かれる速度が速くなった感覚がありました。
これまでも、記事などで発信することによってこの感覚を得ていたので、本に限らず発信することの重要性は感じています。


50冊読めば業界が分かる

「面白がる」ためには、まず面白くなくなってしまう理由から考えることが重要です。そういう時には、同じ論点の本を何冊も読んで、多面的にそのテーマを捉えるようにしています。
昔から言われているのは「どこかの産業に参入する時には50冊くらい読めばいい」。これを実践してみると、様々な本で内容が重複している部分に気づき、大事なところが見えてきます。

この短期的なインプットの秘訣は「頭の処理速度を上げて読む」ことです。
目次を先に見て読む場所を選んで読むとか、具体例を飛ばして読むとか。様々な速読が世の中にありますが、そういった「読む量を削る」速読ではなく、単純に「読む速度を上げていく」速読ができると良いと思います。
実際、資本主義の限界について知ろうと思った時には、約40冊を短期間で読み、それらからの要点を抽出して「鎌倉資本主義」の検討に活かしました。

本のエッセンスとも呼ぶべき部分だけが印象に残っていくので、それぞれの本の主張を明確に覚えているわけではありませんが、『エンデの遺言』は参考になりました。「お金の支配」とそれに伴う問題意識・対する新たな通貨の形の提案が書かれていたので、「鎌倉資本主義」にご関心がある方は、一緒に読んでみると面白いと思います。


読書で時代の潮流を掴む

究極的には、本に書かれていることは全て過去のことです。そのため、何冊も読むことによって、普遍的なことを学べます。
その一方で、ビジネス書は時代の潮流を表すものとしての価値があります。ビジネス書大賞の審査員を2018年、2019年と務めさせていただいているのですが、たくさんのビジネス書を読むと、その時代のトレンドを感じることができます。

2019年に大賞を受賞した『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』はその象徴的なものです。AIに社会的な関心が集まっているという潮流に乗っていて、かつオリジナリティを持った実体験などを持った本です。ただ世の中にある断片的な情報を集めただけではなく、著者の経験も含めているため説得力を持っており、良い本だと思います。
テレビなどで見られるニュースほど細かい事柄を知ることはもちろんできないですが、本から1年スパンくらいの潮流を見るのはオススメです。


読書での“分からない”が価値観を変える

読書で得られることをお話ししてきましたが、何よりも大きいのは「考え方が変わる」ことです。
映画やテレビとは違って、本には文字情報だけしかないので自分の頭の中で整理する必要がありますよね。それが自分の思考に大きく影響が与えられる理由だと思っているのですが、これが誰しもに当てはまるかはわかりませんね(笑)。

私が本を読む時に最も大事にしているのは “分からない”に注目することです。よく書評などで、「ここに共感した!」みたいなものがありますが、これでは本から得られたものは何かと聞かれると何とも言えません。
でも、 “分からない”に注目しておけば、それが分かった瞬間には間違いなく変化できていることがわかる上、 “分からない”が次に自分が考えるべきことだと認識できます。これはぜひ実践してみてほしいです。

「面白がる人」であるために

面白い人の話は面白い。
私はよく、特殊な面白さをもった人の書いた本を読みます。経営者として、自分が好きな経営だなと思うような会社の社長の物語は、その人の頭の中を覗いているような気分になって、価値観を見直すきっかけになります。

経営に関係ない本でも、そのきっかけは得られます。馬券を偽造することをずっと続けた人の物語『馬券偽造師』はかなり刺激的でした。ノンフィクションで、自分の想像を遥かに上回るような物語に出会えると面白いですよね。
ただこういう類いの本は、本として面白いというよりも「人」が面白いという感じなので、人にはなかなか薦められません(笑)。
様々な本を読めば読むほど、「人」の心の在り方や「人」の弱いところ・強いところなどが見えてきます。そしてそれがないと、「面白い」を探求することができません。

「面白い」を生み出すのは「面白がる人」。「面白がる」ためには、「面白くない」をわかる必要がある。だからこそ、本を基点にした “分からない”で価値観を変えながら、私たちは「面白がる人」であり続けていこうと思っています。

※インタビューをもとに作成
インタビュー:青木郷師、文章:高井涼史


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