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プロデューサー『角田陽一郎』が選ぶプロデュースに活きる4冊。”読書は時空間の移動ができるもの”

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。数多くのバラエティ番組の制作を担当したテレビプロデューサー角田陽一郎氏が薦めるプロデュースに活きる4冊を紹介する。【Professional Library】

1970年千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業後、1994年 に東京放送(TBSテレビ)に入社。「さんまのスーパーからくりT V 「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXIL魂」「オトナの!」など、数多くのバラエティ番組を担当。 会社員の枠を超えて、映画監督やネット動画配信会社の設立、音楽フェスティバルの開催、アプリの制作、舞台演出など、多種多様なメディアビジネスにも携わる。
2016年12月にTBS退社。
現在は、テレビ番組のほか、YouTube動画、メディアブランディングなど、さまざまな革新的アイデアを基にビジネスを創造し続けながら、2019年4月からは東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻文化経営学修士課程の学業にも打ち込んでいる。
主な著書に『最速で身につく世界史』『人生が変わるすごい「地理」』『出世のススメ』『「本音で話す」は武器になる』『運の技術』『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』『「好きなことだけやって生きていく」という提案』などがある。

プロデューサーとは

多くの人は、番組を面白くすることがプロデューサーだと思ってるかもしれないけど、それは違くて、準備しなくてはいけない事はなにかを考えるのがプロデューサーなんです。だから面白いことを考えるのがプロデューサーではなく、お金、人、場所とかあらゆることを考えるのがプロデューサーなんですね。
華やかなイメージがあるかもしれないけど、それはプロデュースされる演者の方なんです。自分が演者になりたいのに、自分はプロデューサーだとか言っているクリエイター志望の人は多いです。僕にとってプロデュースとは、「思いついたことをどう実現するのか」という、真の意味でのプロデュースです。それは修行しないと無理だと思うんですよ。ところが、今は修行がブラックなものだと思われているじゃないですか。
例えば、動画を作ってYouTubeで有名になってしまえば、テレビの依頼が来るかもしれない。だから修行なんていらないと思ってる。だけど僕が言ったことは修行しないと身につかないと思っています。例えば「寿司屋の修行なんて意味ない、握るのを学校で教えてもらって、すぐデビューした方がいいと」言っている人がいました。でも寿司屋業界の中では「ちゃんと修行したやつじゃないと、市場では良い魚はおろしてくれないらしいよ」という側面がやっぱり現実としてあると思うんです。
つまり人は、技術があればやれるじゃんと思ってしまうけど、人間は感情の生き物なので、こいつ頑張ってるから俺も応えてやろうと思うんですよ。ただ、誤解があるんだけど、0.1%の本当の天才はいると思います。ポール・マッカートニーとか村上春樹とか、この人たちは何を作っても売れてしまう。みんな彼らと自分を重ねるけど、そんな天才は多くはそうではない。だから、そうじゃない99.9%の人は、環境との折り合いをつけるのが重要です。その自分を取り囲む環境の中でも自分は0.1%になれると信じて、PDCAを回しつづけることが修行だと思います。強い志を持って、修行していけば、突き抜けることが可能だと僕は思います。

テレビは社会の合わせ鏡

テレビといえば、リアクションワイプは日本で生まれたものです。僕が思っているのは、そんなワイプの中の人の目線を自分の人生に持て!ということですね。アメリカにナショナルジオグラフィックTVとかあって、シマウマをライオンが追ってるとこけたりするドキュメンタリー番組がありますけど、そこにリアクションワイプはない。日本では、そのライオンの映像をワイプの関根勤さんが見ていて、その爆笑している反応を面白がったりするじゃないですか。だから人に想いを伝えるときも、単に自分の感想を人に伝えるのではなくて、その自分の想いを客観的なワイプ目線で見たとして、どう感じたかまでを考えるべきだと思いますね。
最近、「テレビとかってくだらないですよね」、「つまらないですよね」と言われます。全くそうだと思いますけど、なんでくだらないかと言うと、僕ら日本人がくだらないからです。日本経済が10年前と比べて何割減になっているわけじゃないですか、なんであなたの会社が何割減になっているのに、テレビは100%を維持できると思うんですか?あなたの生活が20%減なら、テレビも20%減。テレビは、あなたやあなたの会社の合わせ鏡でしかないのに、なぜテレビがつまらないと文句言っているの?テレビをつまらないと言っているあなたがつまらないからでしょ。あるいは儲かっていないから、CMを出してくれないから、お金を出してくれないから、いつまでたってもくだらないワイドショーばっかりやってるんでしょ。
YouTubeやNetflix、AbemaTVが台頭する一方で、それらの人気番組は実はテレビ番組の制作スタッフが作っているものも多いです。だから実はテレビと一緒なんですよ。コンテンツがあって仕組みがある。多くの人は仕組みを作っている方が偉いと思っているけど。僕に言わせるとコンテンツ作れる人って限られているから、どんな仕組み作ろうと、面白いもの作れる方が大切だと思っています。現役のテレビマンなんて1000人くらいしかいないから、そのテクニックはレアなものなんです。テレビ局で作るより、Netflixの方がお金をもらえるから作っているんです。だから状況が悪いことを環境のせいにするのではなくて、自分というものがまずあって、その環境の中で、どう自分のテクニックを発揮するかを考え続けることが大事なんだと思っています。

プロデュースに活きる4冊

『仕事道楽』 鈴木敏夫/著 岩波書店

これはジブリのプロデューサーである著者の鈴木敏夫さんがジブリの成り立ちについて書いた本で、プロデューサーになりたいなら絶対読んだ方がいいですね。

鈴木敏夫さんは現在は日本一のアニメプロデューサーなのに、もともと週刊アサヒ芸能の芸能記者なんですよ。その後、徳間書店でアニメの雑誌を作るから編集長やれと言われて、全然アニメに詳しくない中で担当した。最初はどんなアニメが流行っているのかわからないから女子高生とかに聞くわけです。そうしたら、高畑勲さんの名前が出て、高畑さんにインタビューを申し込みました。すると電話で1時間くらいかけて、「なぜ僕があなたのインタビューを断るのか」を語られて、しまいには「横にいるこの男ならインタビューを受けるかもしれない」と言われて電話をかわったのが、宮崎駿さんだったんですよ。それが二人の出会いなんですよね。そこからスタジオジブリを作るまでのことなどが書いてあってかなり勉強になります。

あと、『風の谷のナウシカ』を映画化した時の話もあります。宮崎さんは『ルパン3世カリオストロの城』で映画デビューしました。その後、ナウシカを作るまで5年間空いていたんです。その期間、何をしていたのかというと、実は干されていたんです。あんな名作が興行が不入りで。カリオストロの時に鈴木さんと宮崎さんが出会って、鈴木さんは「宮崎さんは天才だ」と思ったそうです。絶対次回作を作らせたい!って。で、まずナウシカの原作を雑誌で連載させたんです。そして、映画会社やテレビ局の人に誇張して伝えたんです。「今この漫画が話題です。」と。そして、映画の企画が実現したのです。このように、天才だと思った人にどう映画を作らせるかという話が書いてあって、あらゆることのプロデュースに対して、重要な鈴木さんの哲学が学べます。専門家ではなくても頑張れば専門家になれてしまうのだと。

『ない仕事の作り方』 みうらじゅん/著 文藝春秋

「ゆるキャラ」とか「いやげもの」とか、ない仕事をどう作るかというプロデュース術が書いてあります。そうは言いながら、プロデュースは単純にアイデアをだすことではなく、みうらさんは、代理店とか出版社の人と飲んで関係性を作り、ゆるキャラとか仏像とかのような話を多くしていく中で、「見仏記」が実現できたりしています。アイデアを考えるだけではなく、それをいかに実行していくか。仕事をプロデュースしたいなら、みうらじゅんさんのこの本は絶対読んだ方がいいですね。

『文学部唯野教授』 筒井康隆/著 岩波書店

これは、僕が学生時代に読んで、テレビ局に入るきっかけになった本ですね。文学部の教授の小説なんですけど、1章はストーリーで2章は授業、3章はストーリーで4章は授業。授業は文学論になっています。一冊読むと文学論が全部わかる。つまりメタフィクション構造の小説なんですよ。その時メタフィクションというものを初めて知りましたが(笑)小説としても面白いけど、読むだけでソシュールの記号論とか全部わかる。哲学の用語とかも理解できて、すごいなと思いました。

『サルでも描けるマンガ教室』 相原コージ、竹熊健太郎/著 小学館

この本は略してサルマンと言います。バクマンはサルマンのオマージュですね。漫画家志望の若者が「これから漫画家として有名になるぜ」という時に、タイトルをどうするかとか、テーマ決めとか、漫画作りの講座になっている。つまりこれもメタフィクションになっている。タイトルを決めたら、どの出版社に持っていくかの話があり、ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオンなどの傾向と対策が書いてあり、その詳細な解説がすっごい面白いんですよね。

つまり、ただストーリーを進めていくのではなくその中にメソッドを入れるのは非常に面白いなと感じて、それを番組でやりたいと思って、テレビ局に入りました。もしクリエイターになりたいなら、文学部唯野教授とサルマンは絶対に読むべきですね.


読書は時空間の移動ができるもの

僕は読書を移動せずに時空間の移動ができるものだと思っています。人生とは様々な経験をなるべく多くした方がいいと思っていますが、「経験をたくさんしています!」と、渋谷のベンチャー企業の人が言っていても、そのほとんどを渋谷のオフィスで過ごし、飲みにいくとしても、渋谷で同じようなベンチャーとかIT企業の人がメインです。同じような人としか話さないと、アイデアはB’×Bの組み合わせになってしまう。本来アイディアはA×Bから生まれるものであり、AとBは違えば違うほど面白くなるじゃないですか。

そう考えると、読書って紀元前の人でも中世の考え方でもヨーロッパでもアフリカでもわかるものですよね。時空間を超えられる価値観の違いを経験できるのは読書しかないんですよね。僕はそれこそ価値があると思っていて、プロデューサーをしていると今の流行り物に詳しくないといけないと思われがちです。でも、そんな人はどこにでもいるわけなので、むしろシェイクスピアに詳しいとか孫子に詳しいとか、そういうことを現代の情報と組み合わせる方が、圧倒的な価値を生むことになる。だから僕は限られた時間しかないとしたら、古典だけしか読みたくないですね。

自分が社会にコミットしなければ社会もあなたにコミットしない

私の著書『人生が変わるすごい「地理」』では、環境と自分とはインタラクティブであるということを語っています。世界のインタラクティブ性を多くの人が忘れている気がします。インタラクティブはインター+アクティブですよね。両側がアクティブだから、その間がインタラクティブになる。ある有名人の著書を吸収しようとか、それは一方向なんですよね。それはビジネスにおけるプレゼンも同様で、聞く人もアクティブにしなくてはならない。そうしないと、言っている人の話も盛り上がらない。相手に投げて、相手が返してくるから、こっちも盛り上がる。

そういったインタラクティブ性は、あらゆるものごとにあると思います。自分が盛り上がると環境も盛り上がってくる。双方向のアクションによって、変わっていくことを全人類が気づかないと地球がもたないのではないかと僕は思います。あなたがゴミを捨てた事と、グリーンランドの氷が溶けそうなのは本当は繋がってるということ。

人間は川に似ていると思います。とりあえず上流からの情報を自分で受け止めて下流に受け流すことが重要だと思っています。まずはなんでもいいからやってみる!と。そしてやった上で自分に合わなきゃ捨てればいい。自分が社会にコミットしなければ社会もあなたにコミットしないということが、僕がこの本で一番伝えたいことですね。

※インタビューをもとに作成
インタビュー:青木郷師、文章:石井弦

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