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LINE社長 出澤剛氏 「ビジネスモデルの賞味期限は短くなっている」 “飽くなき挑戦と座右の書”

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。日本最大級のユーザ数を持つメッセンジャーアプリ「LINE」のLINE株式会社代表取締役社長の出澤剛氏。出澤氏がLINEの歩みと自身の人生を本とともに振り返る。【Professional Library】

長野県出身。長野県野沢北高校、早稲田大学卒業。
2001年ライブドアの前身オン・ザ・エッヂに入社。2007年ライブドア社長、12年同社を買収したNHNジャパン(現在のLINE)取締役。2015年4月よりLINE株式会社代表取締役社長に就任(現職)。

「CLOSING THE DISTANCE」

CLOSING THE DISTANCE。つまり「世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮めること」が、LINEが始まってから利用者の皆さまに提供し続けてきた価値であり、現在のLINE株式会社のコーポレートミッションです。
コミュニケーションアプリ「LINE」は、2019年9月末時点で月間利用者数が国内で8200万人と、現在日本最大のプラットフォームと言えます。メッセンジャーだけにとどまらず発展していくLINEの原点と現在の挑戦を知っていただけたら幸いです。

LINEは「感情」を伝えるコミュニケーションアプリ

LINEのサービスの原点は2011年3月に起きた東日本大震災です。震災直後からTwitterなどを通して「ここに救援物資が足りていない」のような情報発信にウェブサービスが活用されました。
ですが一方で、携帯回線が使えなくなると親しい人や身近な人との一対一の連絡がとれず、インターネットやスマホを使ってまだまだできることは多いと痛感もしました。スマホ関連でサービスを作ると決めていた私たちは、ただ「情報」を発信し得ることのできるニュースやオープンなSNSではなく、親しい人クローズドに「感情」を共有することのできるサービスを作る決心をしました。

2011年4月に本格的な開発をはじめ、2011年6月23日にアプリリリースとなりました。2〜3ヶ月間の開発期間は今でも信じられませんね。震災の後、「やらなければ」という切迫感の中でチームのみんなが必死に開発に取り組んでいたことは今でも覚えています。

スタンプと無料通話が起爆剤

今では当たり前になっている「スタンプ」「無料通話」の機能ですが、リリース当初のLINEにはない機能でした。
ある日、デザイナーの1人が自信満々にスマホにあった大型の絵文字(今のスタンプ)の導入の提案をしてきたのですが、周囲には抵抗感を示す人もいました。今やおなじみのムーンやブラウンのデザインだったのですが、今までの絵文字の感覚からすると、ちょっと不思議なキャラに違和感があったのです。

ただ、あまりにもデザイナーが確信を持っていたので、半信半疑ながらいろいろな種類のデザインのデモ版をつくって、いろいろな属性の利用者に集まってもらい実際にヒアリングを行なったのです。
すると、ガラケー時代の流行を踏襲したクール系、かわいい系などの他の案は平均点くらいの結果をたんたんと残す中、デザイナー案のスタンプだけは大人たちに全く受け入れられない一方で、女子高校生たちだけには抜群に受けました。ヒアリング中にスタンプの使い方を中心に話がどんどん盛り上がっていく女子高生たちを見て、結局デザイナーの最初の案がLINEに導入されることとなりました。

2011年10月にiPhone4sが発売され、爆発的にスマホが普及した時期とこの2つの機能のリリースが重なったことで、ユーザ数がそれ以降は指数関数的に伸びていきました。ユーザがユーザを呼ぶ好循環が起こり、私たちがこの月を「黄金の一ヶ月」と呼ぶこともあるほどにLINEにとって大きな変化の時期だったと思います。

「スマートポータル」を目指す

そもそも私たちLINEがスマホに着目したのは、スマホがこれまでにないデバイスであると考えたことに由来します。

スマホは人間がはじめて直感的に身につけることができるようになったデバイスです。例えば、これまでのテレビやPCでは情報にアクセスするために、そのディスプレイの前に行き操作する必要がありました。ですが、スマホは身につけて行動することができる上に、指で直接触って操作できます。

そこにLINEはコミュニケーションという人間の根幹とも言える行動を可能にする、メッセンジャーアプリを作ったことでLINEのサービスの根幹が出来上がったと言えます。

それからLINEはただのコミュニケーションツールにとどまらない、「スマートポータル」という存在を目指すことにしました。簡単に言えば、「LINEが生活すべての入り口になる」ということです。

友達と競いながら遊ぶことのできるゲーム「LINE ディズニーツムツム」やプロフィール画面にBGMをつけることができる「LINE Music」、友達間で送金できる「LINE pay」など、コミュニケーションの基点であるLINEだからこその価値を提供できるようにしています。

ビジネスモデルの賞味期限が短くなっている

LINEは多くの分野に積極的な投資をしている印象があると思います。これはある種、GAFAをはじめとしたテクノロジー業界のトレンドとも言えますが、その背景には「ビジネスモデルの消費期間が短くなっている」ことが挙げられると思います。

そのような考え方の上でLINEはモバイルペイメントやAI、ブロックチェーン分野などへ大胆な多岐にわたる投資を行なっています。ただその中でも一貫して「コミュニケーション」を軸に価値提供を行なうことが、LINEが挑戦する意味だと信じています。

私はいまだに変化がすくなく、参入障壁の高い分野として、医療・金融・行政の3つがあると思います。人の命、お金、国家とそれぞれ非常に大事な分野だからこそ、技術革新よりも安定が求められ、利用者が得られるサービスが時代遅れだったり、不合理の塊であったりする場合が多いのです。

LINEが現在フォーカスしているのが、「お金」の分野です。「お財布を持ち歩きたくない」「バイト代がその日のうちに振り込まれたらいいのに」「お店の決算を簡単にできたらいいのに」など、電子決済によって解決できるニーズは山ほどあります。テクノロジーが解決できる問題を見つけ出し、そのソリューションの入り口となれるようにLINEは日々挑戦しています。

失敗は歴史から学ぶ

投資に積極的な企業であることで、当然社長の責任は大きいです。ただ、プレッシャーを感じるのは当たり前ですが、「自分の中でベストを尽くすことができたのか」「もう一度同じ状況になった場合に同じ判断を下すか」と自分に問うことで、判断に自信を持つようにしています。
特に、技術に投資を行なう際には、失敗を恐れてコンサーバティブにならないようにすることを意識しています。失敗をすることは誰にでもあると思うのですが、歴史から学ぶことで避けることのできる失敗も多くあり、過去から学ぶのを意識しています。

失敗に関する本でオススメなのが『失敗の本質』と『昭和16年夏の敗戦』の2冊です。どちらも第二次大戦中の日本を描いた本で非常に学ぶところが多いですが、『失敗の本質』の方がレポートのようでカチッとしていて、『昭和16年夏の敗戦』は物語調で読みやすい作品でした。
意思決定に至るまでの日本的な雰囲気や、失敗が既に見えはじめている時にも「なんとかなるでしょ」みたいな楽観的に考えて問題を先送りにする様子など、現在の組織にも通じる部分も多いと思うので、知っておくべき失敗の歴史だと思います。


社長とは高度な雑用係である

現在私はLINE株式会社の代表取締役社長というポジションに就いています。私はボスとしてふんぞりかえっているのではなく、リーダーのように一緒に走る者であれるように意識しています。

会社の将来に関わる議論には積極的に自分から入っていきますし、国籍や職種などダイバーシティのあるオフィスの中でいろんな意見がある社内を1つの方向にまとめていくということの先頭に立ちます。

そういった意味では、社長に「高度な雑用係」という側面もあると私は認識しています。組織マネジメントから事務的な仕事、イベントでの登壇など、オールジャンルに取り組んできました。

難しい局面にぶつかったときも、時にはある種のゲームだと思って物事を俯瞰的、客観的に捉えることで、的確な判断をくだす。会社のためにできることはすべて行なうことこそが社長としての役割だと私は考えています。

1ギブして1テイクできると思うな

社会人入ってすぐ、私は生命保険会社に入社しました。そこで組織マネジメントの真髄を仕事の中で学びました。

70人くらいのいわゆるセールスレディのみなさんを一人の上司と共にマネジメントするという仕事でした。新卒社員で知識も経験もない中で、自分より年上の数十人ものベテランセールスをまとめるのは、かなり苦労しました。

1,2年くらい取り組んでいると、まずは信頼を勝ち取れるかどうかが大事であると気づきました。上から目線で偉そうに振舞うのはもってのほかで、とにかく相手との関係性をまず良くするのがどのマネジメントにおいても重要です。

その頃からのテーマで「ギブ&テイク」ではなく、「ギブ&ギブ&ギブ」。信頼関係はいっときの何かではなく、積み重ねがすべてで、1ギブして1テイクできると思ったら大間違いということですね(笑)。

信頼関係を作ることができれば、上司と部下が自然と同じ方向を向くことができるようになると思いますし、お話したようにボスではなくリーダーでありたいと考える現在にも通じる部分だと思います。

組織の「成長痛」もあった

ホリエモン率いるオンザエッジ(後のライブドア)に転職してから、会社は急成長して注目を浴びたものの、ライブドア事件があって一気にライブドア社は逆境に立たされることになりました。

でも、実はそこまでの逆境に立たされた時の組織のマネジメントは、みなさんが想像するほど難しくはないというのが経験してみての実感です。生きるか死ぬかの瀬戸際では、「生き残る」という明確な目標があり、それを達成しようとみんなが同じ方向を向くからです。

例えばライブドアでは、赤字だった会社を「なんとか黒字化しよう」とシンプルな感じです。優秀な仲間がたくさんいて、今振り返ればとても充実して楽しいかった時期でした。

その後ライブドアはネイバー(現LINE親会社)とNHN Japanの傘下に入り、その後LINEが生まれます。LINEがはじまってからは、さらに楽しくもあり、今まで以上の困難も経験をしてきました。特に前にも話したように、LINEが急速に成長し、様々な国籍や職種の人が集まってくる中で、事業の舵取りやマネジメントの難しさを感じさせられたことは数えきれないほどあります。

私自身もLINEの公式アカウントやスタンプ広告などの、to Bのビジネス展開をハンズオンで進めていたので、成長速度の速さを感じつつ、マネジメントの難しさを感じていました。人間の成長痛のように、成長しているからこそ直面する問題も多くありましたね。

情報のパッケージ化が進んでいる

今回、本のインタビューを受けるということで読書について少し考えてみたのですが、最近は読書の優先順位が下がりつつあるかもしれません。

大学の頃は本屋でバイトをするほど本を読んでいたので、最近は話題になっている本で気になる本を選んで読んでいるイメージです。ここ数年では、『これからの「正義」の話をしよう』と『ファクトフルネス』の2冊は、現在に対するインサイトを得るという点で良い本だと思いました。

小学校・中学校・高校・大学と教育を受けるわけですが、現在のように変化の多い時代では、10年もすれば知識は古くなってしまいます。なので、次の時代のスタンダードを考える機会を与えてくれる本については忙しくても読むべきだと思います。

ここ10年くらいで情報のパッケージ化がとても進んでいる印象を受けます。ネットメディアしかり、友人のSNSへのポストしかり、「わかりやすい」内容を「短い」時間でインプットできる機会が増えてきていますね。

常識を見つめ直す

私は漫画も好きで、『AKIRA』や『風の谷のナウシカ』はとても好きな作品です。どちらも近未来以降の世界を描いた作品で、とても没入感があります。

小説にしてもマンガにしても良い作品に出合うと、残りページが少なくなってくると、「このままずっと終わらないで欲しい」と思いますよね(笑)。そんな物語のグルーブ感が感じられる作品が好きです。私が読書が好きになったきっかけの司馬遼太郎の『国盗り物語』も、そんな作品のひとつで、そこから司馬遼太郎の作品が好きになり、歴史に限らずいろんなジャンルの本を読むようになりました。

フィクションの物語には「常識を揺さぶる」力があります。自分の存在さえも保証されないような世界観の中で、没入していく自分とそこで見つめ直される現在の自分。その揺らぎが本を読むことの醍醐味だと思います。堅い文章が好きな方も一度試してみると良いかもしれません。

本だけではなく、常識を見つめ直す機会は本当に重要です。ビジネスモデルの消費期間が短くなっていることも話しましたが、身近な生活でも大きな変化を感じる日々。この中で、次のスタンダードを考えずに行動してしまうと、次の時代に置いていかれてしまいます。

日本国内最大級のプラットフォームとなったLINEも、次の時代でも大きな成長をし続ける企業であるために、「CLOSING THE DISTANCE」をミッションに、技術とコミュニケーションを軸に挑戦していきたいと考えています。

※インタビューをもとに作成
インタビュー・文章:高井涼史

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