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プレゼンの神様『澤円』が薦める5冊。”読書は物事の解像度と捉え方を変える”

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?日本マイクロソフトで“プレゼンの神様”の異名を持つ澤円氏。澤氏がビジネスマンにお薦めする5冊をご紹介する。プレゼンターやマネージャーを務める人は必見。

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手IT企業に転職。 ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。
幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。 現在は、数多くのスタートアップの顧問やアドバイザを兼任し、グローバル人材育成に注力している。 また、美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。 テレビ・ラジオ等の出演多数。 Voicyパーソナリティ 琉球大学客員教授。Twitter:@madoka510

時代の流れに自分の強みが活きた

僕が社会人になったのは1992年で、コンピューターが今のように一人一台ない時代です。社会にコンピューターが浸透しきっていない時代から、僕はコンピューターを始めました。その3年後、Windows95が発売された1995年を境に、世の中に一気にコンピューターが浸透した。これにより、とんでもない数のコンピューターの初心者が表れました。それまでコンピューターを使ってなかった人が、使わないといけない状況になったんです。
僕は、IT業界ではポンコツエンジニアのポジションでした。しかし、結果的に重宝される環境が自分の外側にできました。そこで活きた能力が、プレゼンテーションによるテクノロジーの啓蒙です。この時、プレゼンとテクノロジーが両方共ワークした、僕にとってはありがたい時代でした。コンピュータが世の中に浸透していく中で、専門家ではなく、初心者にもわかる形で伝えられる人が求められた。そうなると僕はうってつけだったんです。

初心者でもわかるように伝える

まず、日本の大企業のエグゼクティブはITのバックグラウンドがない方が圧倒的多数です。ITバックグラウンドを持っていて企業のトップレベルまで上り詰める人はものすごく少ない。結果的にテクノロジーをあまりわかっていない方々が経営をしている状態です。その中で、その現実を課題だと思っている人たちも一定数います。しかし、その人たちがプログラミングスクールにいく時間はない。だから、本質的なところを理解してもらう必要がある。
経営の中でITが果たす役割やそのリスクを知ってもらう必要があります。それらを言語化してわかりやすく伝えるのが僕の役割です。抽象的な言葉に落として、なぜテクノロジーが重要なのかを言語化します。結果として本質的な事を理解してもらい、「わかる」、「語れる」という状態に持っていく。ここで気をつけている事は、抽象化でエラーを起こさないということですね。誰にでもわかる言葉が大切なんですけど、誰にでもわかるがゆえに本質的なところが抜けたら本末転倒です。

質問をプレゼンへのフィードバックとして改善に活かす

本質的な部分をぶらさないためには、常に考え続けることが大切です。自分で考えて、人に問いかけて、フィードバックを受けて改善していく。ありがたいのはプレゼンをした後の質問です。質問は自分が話したことの足りない点を明らかにしてくれます。そこをすくい上げて、次回のプレゼンに生かしていく。
日本人はあまり質問をしてくれないので、心理的安全性を作り、恥をかかせないことを意識しています。知らないのが恥ずかしいと思ったら萎縮してしまうので、知らないことが当然で、それは情報提供者の問題だと思ってもらうことが重要です。
プレゼンテーションを行う人にはぜひ『新エバンジェリスト養成講座』を読んで欲しいです。著者の西脇さんは、マイクロソフトの人間なんですけど、同い年で仲良しなんです。この本の内容を実践して成功している人が真横にいるので、間違いないということが、僕はわかります(笑)。

スライドの作り方だったり、立ち方だったり、視線の向け方が書いてありますが、西脇さんはこれを本当に行なっています。それを間近で見ていた僕は、ここで書かれていることは効果があると確信しています。だから、騙されたと思ってやってみるといいと思います。西脇さんがイベントで喋っているのを見ると、毎回さすがだなと思わされます。


現代のビジネスマンには江戸時代の武士の心得が生きる

現代のビジネスマンには、『葉隠』がオススメです。江戸時代の中期頃に書かれた、武士の心得を述べた書物です。江戸時代という平和な時代に、侍として振る舞うためにはどうあるべきか書かれています。江戸時代の武士は、争いがないため命をかける必要がなく、多くの課題はほとんど解決されているし、飲み食いにも困りません。
これは現代のビジネスマンそのものです。武士はもともと剣術を磨いて、戦乱の世で戦うことが存在意義だったのが、戦わなくてよくなったので、暇になりました。その中で、士農工商で一番上にいるから、振る舞いを磨くことに重きがおかれました。その状況における、生き方や在り方は、現代を生きるビジネスマンにも役立つことが多いと思います。


マネージャーは人間の根本的な部分を知ることが重要

マネージャーなどのリーダーとなる人に、ぜひ読んで欲しいのが『リーダーを目指す人の心得』です。この本は僕自身がマネージャーをする時にも大いに役立っています。

これはコリン・パウエルの自伝的な本です。パウエルは軍人としては陸軍大将、政治家としては国務長官を務め、就任中に戦争も経験している異色の経歴の持ち主です。ストーリーとしてかなりユニークなので、読み物として面白いです。

この本には、リーダーとしての心得や考え方、すぐにマネができるようなエピソードが書かれています。例えば、パウエルは駐車場のスタッフに常に敬意を払って、丁寧な対応をしていたことで、駐車場内の良い場所に駐めさせてもらってました。駐車場のスタッフに「もし態度が悪かったら?」と言ったら、「ちょっと取りに行きにくいところに車が駐車される可能性がありますよね」と言われたそうです(笑)。

このように、僕達人間は、相手の偉さに関係なく、好きな人にはサービスします。だから、あらゆる取り組みにおいて、人間として好かれていると物事をプラスに運びやすくなる。つまり、優秀さやスキルはもちろんだけど、人間としての根本的な部分が大事だということです。この本はそれを教えてくれます。特に新しくリーダーになったばかりの人、リーダーとして息詰まっている人に読んで欲しいですね。

僕は日本のマネージャーという職に対して、強い問題意識を持っているんです。英語の”Manager”は日本語で管理職と言いますが、それはおかしいと思っています。管理は、”Administration”という意味で、タスクの一個なんです。

マネージャーはもっとやることがたくさんあります。人を成長させるという責任があるので、人間の本質的なところに踏み込まないといけないこともある。それにも関わらず、日本には”Manager”の対訳がないんです。要するに定義する言葉がない。だから管理職は、管理することが仕事になってしまいます。つまり、AIにできることを仕事にしているんです。言葉がないということは、必要とされてなかったということなので、これは相当な問題だと思います。

今までは、たまたま向いてるマネージャーに依存していたかもしれない。ですが、本当に底上げをしていく場合、誰もがマネジメントのメソッドやナレッジを身につけることが大切です。マネージャーを育成していくことは日本が絶対避けては通れない事だと思っています。

未来を見通すヒントを得る

あと、『ITビジネスの原理』と『ネクストソサエティ』もオススメしている本です。『ITビジネスの原理』は、僕がテクノロジーをやっているからというのと、著者の尾原さんと仲良しなので、オススメです(笑)。原理と言っているだけあって、押さえておくべきキーワードが沢山入っています。日本のITビジネスや、グローバルのITビジネスの仕組みが書かれており、コンピューターがよくわからないような人でも理解できます。これからエンジニアになる人はもちろん、ITは苦手だけど、どんなものなのか知っておきたい人にはオススメです。ITに対して危機感がある企業は課題図書にしてもいいくらいの本ですね。

ネクストソサエティ』はドラッカーの本です。この本は、ある意味予言なんです。古い本で、第1刷は17年前です。これはインタビューを中心にしているんですけど、コンピューターリテラシーから情報リテラシーへの変化を、ドラッカーは90年代には指摘しています。この時は、インターネットを知っている人がいないような時代です。Amazonが出るか出ないかくらいの時代に、イーコマースは消費を根底から変える事を予言しているんです。経済がある程度わかる人たちは未来を読み解いていたことが感じられます。

本質的なところに向けてアンテナを張っている人たちは、いつの世にもいます。だから今の時点でもそういった人はいるはずです。この本が正しい情報なのかどうかではなく、当時の情報でこういったことが書けることを知ることで、未来を見通すヒントを得られると思います。起業する人やアントレプレナーシップを持ちたいと思っている人にオススメです。

本は物事の解像度と捉え方を変える

本は言葉で全てが表現されているものなので、どのようなつながりや言葉遣いで物事を表現できるのかを学べます。特に小説などは、ありふれたものをかなり解像度高く表現していて、世の中の事象を普段と違う解像度で見ることができます。
僕が好きな作家に片岡義男さんという方がいます。片岡さんは非常に多くの本を出版されていましたが、そこに書かれているのは無機質で淡々と表現されたものです。誰か一人に肩入れすることもなく、ドラマティックに書くこともない。空中にカメラが浮いていて、カメラが撮影しているものを説明するような作品です。しかし、ひとつひとつを見ると例えば一杯のコーヒーがとても美味しそうに感じられるたり、リンゴがすごく美味しそうに描かれている。
小説は日常的に目に入るものに対してかなり役に立ち、ビジネス書は世の中で起きている事を細かく見るときにすごく役に立つ。身の回りにあるものにアンテナを立てて、興味を持って情報を収集するといろんな学びがあります。コミュニケーションや仕事など、世の中に対する解像度を上げると、興味の範囲が変わったり、納得感が上がってきたりする。これはプレゼンにも繋がります。プレゼンテーションというものは当たり前に思っていたけど、実は知らなかったというものが一番ウケるので。
例えば、泥棒の捉え方次第で防犯に対する考え方が全く変わります。一般的には泥棒に入られたことない方が多いと思いますが、泥棒に入られると思ってて入られる人はいません。もう一歩踏み込んだ表現をすると、盗まれる事は、入られる側ではなく、泥棒側に理由があるんですね。そのため、盗まれるものはないだろうという自分の視点で見ていてはダメです。自分はわからないけど、盗まれる理由がどこかにあるかもしれないから、防犯は必要だというマインドセットにすることが大切です。あなたの判断で「盗まれるものがない」というのは理由になりません。
これは全員が防犯やセキュリティに当事者意識を持ってもらうために有効です。この話はセキュリティの話をするときに必ず使うテクニックです。うちには盗まれるデータはないから大丈夫だという人いますよね。自分のパソコンには機密データは入ってないから大丈夫と。でもそれを決めるのはみなさんではなく、泥棒です。そして、盗まれたらどういう使われ方をするかはわからない。
例えば、パソコンがハッキングされた時に、この中には大したデータはないからいいやと思うかもしれない。でも、あなたのアドレスを使って、大事な友達の銀行口座が空っぽになるかもしれないんです。それも100人以上。みんな、あなたのメールアドレスからきてそうなったとしたら、自分は関係ないと言い切れますか? 100人の人は「何やってんだよ」となります。泥棒への捉え方を変える必要があるんです。
この泥棒の話のように、本を読むと物事の解像度や物事を捉えるスコープが広がり、エピソードとして話せる引き出しが増えます。

自分をもっと解放していい

私の著書『あたりまえを疑え。』では、もっと自分を解放していいというのと、ほとんどのルールは意味がないということを語っています。
例えば、会社に勤めると、毎朝出勤しないといけない。僕はそもそもなんで出勤するのかわかりません。出勤すると会社は儲かるんですか?出勤と売上は直結してないですよね。いろんな企業で朝9時に出勤しろっていいますけど、電車混むし、疲れます。生産性は下がります。出勤する意味が、どこにあるかわかりません。朝9時に行かない程度でガチャガチャいわれる会社なんてやめた方がいいです。

もっと自由になっていいと思うんです。日本は同一性を求めて、その中で何かをしろというのが多い。しかし、もっと各々が個として、自由に生きていいと思います。僕も日本企業出身ですが、その中でのルールはほぼ意味がありません。
最近、学生さんと会うと、「紙の履歴書を提出させてくる企業に行くな」とよく言っています。なぜかというと、入った後に同じことやらされるからです。つまり、非効率な作業を気合いとか根性とか言われてやらされます。あれには意味がない。「おっさん」はそれを押し付けてきます。
若い人にも、女性にも「おっさん」はいます。僕は年齢ではなく、何も考えていない生き物を総称して「おっさん」と呼んでいる。「おっさん」は新しく変わりたいなと思っている人の邪魔になっている状態なので、アンチテーゼとして強めのメッセージを出したいです。おっさんばかりだと誰も元気にならないですからね。もっと自分を解放していいというのと、ほとんどのルールは意味がないということを伝えていきたいです。

※インタビューをもとに作成
インタビュー:青木郷師、文章:石井弦


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