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卒業設計 Graduation Design

東海大学 工学部 建築学科 卒業設計の内容についてまとめました。ご意見等ございましたら、気軽にコメント下さい。

私の所属していた研究室(東海大学 野口直人研究室)では、「自身の興味の共通点からその構造(成り立ち)を分析し、建築設計を通じて如何に社会に対して価値創造する事ができるのか」を研究室理念として活動しています。私の卒業設計もこの理念に沿って、興味の分析を通して設計に落とし込んでいます。

Title: 新宿ケモノマチ -人の軌跡から生まれる街のかたち-
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卒業研究のコンセプトは、「都市計画によって矮小化した人々の活動領域について、けもの道という視点から多様な動線関係(ベクトル)を構築し、街のあるべき姿を考察する事」です。

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[設計概要]
都市計画によって作られた既存の街路空間に対し、人々の活動範囲はその範疇に矮小化してしまっている。そこで人々の欲望や動きの蓄積によって生まれる、「けもの道」の特徴や成り立ちを設計手法として応用し、既存の街区・建物に捉われない街のあるべき形を考察する。

本計画地は多くの人々が訪れる「新宿駅東口~歌舞伎町の中間地(現ALTA含む5街区)」とする。

設計手法:
a)既存建物の1~3層部分、柱、EV、階段、一部壁を減築もしくは移築し、人々の移動軌跡を操作する。それにより普段干渉しない動線関係を構築し、人々の活動を誘発する。
b)既存の建物に内在していた機能(プログラム)は、下層部の減築により外部化され人々に開放する。また「売り場」などの商業機能が下層へ、プライバシーの高い機能(倉庫など)が上層へとテナントを移動する。
c)敷地調査の際発見した人々の縦動線を基に、スロープやスキップフロアによって建築化する。これらは目的地への動線的機能を持つと共に、人々の溜まり場など他の用途としても応用される。

これらのように街で描かれる単調で大きな軌跡ではなく、微細な視点で多様な軌跡をデザインしていくことで、人々の活動をより誘発させ街と人との関係を緩やかに紡いでいく。

制作内容:模型1/100 1点, 1/50 1点,A1プレゼンシート 12枚
制作期間:2019年4月〜2020年1月

毎週行われるゼミでは、先生含め全員でスタディー模型を囲み議論を繰り返してきました。研究室の仲間と意見を共有しながら案を育んだ時間は、忘れられない経験となりました。野口直人先生、野口研究室のメンバーには心から感謝しています。

以下では目次にもあるように、興味のきっかけから、計画敷地の選定、設計手法、実際に計画した物を模型写真と共に記しています。

0.興味のきっかけ(物の動き・人の動き)

-物や人の動き「軌跡」を追いかける事-

私はテニスやサッカー、野球などの試合を見る時、ドライブ回転やシュート回転などの想像を超えた物の動きや、それに対応した人々のイレギュラーな動きなど、マニアックな視点で人や物の動きを観察する事に興味があります。

物の動き・人の動き

これら「物の動き・人の動きの観察」という自身の趣向を深掘りする事で、どのように社会に対して価値を創造できるのかを考察します。


-様々な人・物の動きを平面上に記述(ビジュアル化)-

下記の4枚の画像は何を示しているかわかりますか?
これらの画像は建築に落とし込む前段階として、自身の興味を何かしらの形にする上で、様々な物や人の動きを平面上に記述したものです。
これら写真は左上から、「野球試合におけるボールの動き」「テニス試合におけるボールの動き」「ゲルマン民族の大移動の軌跡」「サッカー試合におけるボールの動き」となっています。

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このように様々な物や人の動きを記述していくと「けもの道」(人々が歩いた蓄積によって作られた道)のように「動きの蓄積」「過去の情景」が可視化できる事がわかりました。そこで、けもの道と自身の興味を関連付けながら卒業設計を推考していきます。


1.けもの道について

-身近に存在するけもの道-

下記の左の画像は自然の中で見られるけもの道、右の画像は街の中でよく見られるけもの道です。

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けもの道とは、人々の欲望や動きの蓄積から生まれる経路のことであり、自然の中だけでなく街の中にも多く見られます。
皆さんも目的地に早く辿り着きたい時、舗装されていない道(原っぱなど)を通った経験はありませんか?


2.都市の現状(問題提起)

-既存の街区・建物に押し止められてしまった人々の活動-

けもの道の作られ方に反し、現在の街は予め計画的に作られることで、人々の活動範囲は既存の街区・建物に押し留められてしまっていると感じました。

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そこでけもの道の特徴や成り立ちを設計手法として応用し、既存街区・建物に捉われない街のあるべき形を考察していきます。

3.敷地調査

-調査対象エリアの選定-

敷地調査として多くの人々が訪れる新宿区の中でも、特に人の移動が活発な「新宿駅東口-歌舞伎町間」を調査対象エリアとし、人々の移動軌跡を調査しました。(下記画像左:世界の乗降客数,右:調査対象エリア)

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-人々の「移動軌跡」の調査-

対象エリアにおいて地図データが入ったipadを持ち、3日間に分けてひたすら人々の移動軌跡を矢印として記述しました。(下記画像左:対象エリア全体図)

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対象エリアにおける人々の軌跡を記述していくと、多くの軌跡に囲まれたある敷地が浮かび上がりました。(上記画像右)
これらの調査の上、計画地を「新宿駅東口~歌舞伎町の中間地(現ALTA含む5街区)」と選定します。


4.設計手法

計画するにあたり、下記の3つの手法(a,b,c)により設計に落とし込みます。

a)既存建物の減築

既存建物の1-3部分、柱,一部壁,EV,階段を残して「減築」、また既存の壁の「拡張」や部分的に「移築」するなど、既存のエレメントを再構築する事で、計画敷地内の人々の移動軌跡を操作します。

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・壁の操作 1
既存建物の壁を一部拡張し、隣接する建物と壁を兼用します。それにより建物に内在していた既存の動線を解体し、人々を誘導していきます。

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・壁の操作 2
ブレースに材に沿った三角形状の壁にする事で、壁の圧迫感を減衰し、「視線の抜け」「動線」を操作します。またルートを視認する事で目的地を明確にする人間の習性をここでは応用しています。

note 三角形上の壁


・柱の操作
既存の柱に対しては、「間隔」、「密度」、「太さ」に変化を与える事で、建物へのアプローチ部分や溜まり場を作りました。
例えば多くの人々が通る場所に対しては柱間を拡幅するなど、通過する人数(需要)に応答して、操作を加えていきます。

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b)既存の機能(プログラム)の変化

既存の建物に内在していた機能(プログラム)は、下層部の減築により外部化され人々に開放されます。また既存の「売り場」などの商業機能が下層へ、プライバシーの高い機能(倉庫など)が上層へとテナント移動が起こります。

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現在の新宿は一つの大きな建築物に対し、複数のテナントが集積する事で成り立っています。しかしこの機能性を求めた建築により、街を歩く人々とテナントとの関係性が薄れていると感じました。

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そこで減築によって下層が外部に開放されるにあたり、プライバシーの高いテナントは上層へ、売り場などの商業機能は下層へと移動させます。それにより人々が商業機能に触れる機会を増やし、テナントの利益に繋げていきます。

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c)軌跡の縦方向への建築化(断面操作)

敷地調査の際発見した人々の縦動線を基に、下記のようにスロープやスキップフロアによって建築化します。これらは目的地への動線的機能を持つと共に、人々の溜まり場など他の用途としても応用されます。

軌跡の建築化



またスロープから建物へのアクセス部分を削る(画像左記)事で、部分的に外部化される(下記画像右)など、建物の上層部の形も変化します。

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5.全体構成

全体構成です。
基本的に既存の建築物を「減築」、「移築」する事で全体を計画しています。

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6.平面計画

下記の図面が平面図となります。算出された人々の移動軌跡と訪れる主要な目的地を基に、複数の動線関係を仮定(計画)し形に落とし込みました。
例えば既存の壁を拡張する事で「軌跡の溜まり場(集積地)」や、建築に内在した機能(プログラム)の領域を街路に拡張したり、新宿駅東口と歌舞伎町間を動線的に結んだ「軌跡のメイン通り」などを計画しました。このように普段干渉する事のない動線関係を構築(軌跡の多様化)し、街のあるべきかたちを考察していきます。

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-軌跡の溜まり場(集積地)-

下記の画像は先述した「軌跡の溜まり場(集積地)」となる場所です。
既存の建物の壁を一部拡張し、街路を跨いで他の建物と接続する事で、交わる事のない動線が集積する場所として計画しています。

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-建物に内在した機能が街路空間に領域を拡張する-

「減築」や「移築」する事で瓦解した建物に内在する機能群は、既存の街路空間に対して領域を拡張します。

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-軌跡のメイン通り-

新宿駅東口方面の交差点から歌舞伎町方面の交差点を結ぶ、軌跡のメイン通りを計画しました。通り沿いの柱を間引いたり壁を部分的に配置する事で緩やかに人々を誘導していきます。

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また下記の画像左が新宿駅東口から、右の画像が歌舞伎町から見た軌跡のメイン通りとなっています。先述した柱を間引く操作により、駅東口から歌舞伎町までの視線が抜け、多くの人々が通るルートとして計画しています。

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7.断面計画

下記では、断面図、立面図それぞれ2枚を用いて断面的な操作について記しています。


断面図 1 (軌跡のメイン通り沿いに切る)

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-既存の建物のスケールを継承し、スラブを掘り下げる-

大規模な建物が密集する区画では、そのスケールを継承しスキップフロアとして地下に掘り下げます。この時のスラブは、既存柱を点とした「面」により形成しています。
大きなスラブver3 copy


また小さな建物が密集する場所では、そのスケールによってスラブが構成されています。
小さなスラブver2


断面図 2 (ALTAを中心に切る)


断面図2 copy


-スロープと建物の接続部分を削る-

設計手法 c) で記したように、スロープから建物へのアクセス部分を削る事で、部分的に外部化されるなど建物の上層部の形も変化します。
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立面図 1 新宿駅東口方面

立面図1 copy

-隣接する建物同士で兼用する三角形状の壁-

ブレース材に沿った三角形状の壁により隣接する建物同士を接続し、建物に内在する動線を解体しながらも、交差点から訪れる人々を引き込みます。
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立面図 2 歌舞伎町方面

立面図2 copy

-上層へと繋ぐスロープ-

下記の画像は、交差点からALTA3階層部分までアクセスするスロープです。これにより、普段干渉する事のない交差点からの動線とALTA3階が機能的に接続されます。
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8.終わりに

-まとめ-

このように既存街区・建物により単調化した軌跡を、「既存建物の減築・移築」という行為を通して多様化し、人々の活動の拡がりを受容する街のあるべきかたちを考察しました。

矢印の変化 copy


また「けもの道」とは人々の内なる欲望によって生まれるもので、計画的に作るのは不可能ではないかと思うかもしれません。

しかしこの提案は、「街のコンテクストを人々の移動軌跡といった視座から俯瞰し、建築家としてそれを自身の主観によって計画的に制御する事で、多様な動線関係を開拓した作品」となります。

あくまでも「けもの道の特徴や成り立ち」を設計手法として応用したという解釈で把握して頂ければと思います。

-最後に-

図面などnoteの仕様上、画像が荒く見えにくい箇所があると思います。現在自身の作品をまとめたwebsiteを作成しており、見やすい形で掲載しますので機会があれば是非。
またJIA神奈川2020及び赤レンガ卒業設計展2020の作品集、東海大学建築会website等ににも掲載しています。

https://tokai-arch.org/report/2020/03/3418.html(東海大学建築会)

最後に、ここまで読んでいただいた皆様ありがとうございました。
私の卒業設計はまだまだ発展途上です。作られた空間に対する魅力やプレゼンデーションの表現技法など、これからもブラシュアップしていきたいと考えています。

今後もよろしくお願い致します。

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