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老舗企業がOKRを始めた話

今期から私がリードする管掌範囲でOKRでの目標設定を始めました。OKRを導入するというのはそこまで頻繁にある経験でもないので、今後のために記録しておきたいと思います。けっこう長いです(笑)けど、そこそこ生々しいです。

OKRの適用範囲はまず、B2Bサービスの契約後をサービス提供するPost sales関係者(カスタマーサクセス部門、品質保証部門、コンタクトセンター子会社)です。

本当はPost salesだけではなく、昨年から見始めたマーケティングや他部署など、個人的には全社などもっと広い範囲でやりかったですが、範囲を広げすぎるとなかなか始まらないと思い、それなりに回ってるところはあえて変えず、OKRがハマると成果が出そうな領域で私の意思決定できる範囲で始めました。

変革フェーズの会社は【会社の既存のルール】を変えなければ、歴史的に力強い慣性の法則があるわけなので、根本は変わらないことも多いです、少々力技で変えることも時にはあるかもしれませんが、あるべき姿に向けて、主語を会社の【既存のルール】ではなく、【市場】や【顧客】や【自社サービスの成長】などを主語にして、会社の既存のルールさえも変えていくことが変革の要素の一つだと思ってます。

OKRに関して、多くの論文や書籍が出ており、研修を提供している会社もありますので、ちゃんとOKRということを知っていただくにはその類を見ていただければですので、あくまで私の記事は原体験メインなのでご理解ください。

OKRとは?OKRと私の出会い

パイオニアはMBOで目標設定をする人事制度になっていますが、今回私の管掌組織は人事や役員ともアラインし、現存しているMBOとできる限り困惑の無いようOKR主体で運用することにしました。 OKRとMBOの違いは以下記事でざっとご参照ください。OKRに関する本は山ほど出ているので、まだご存じない方は数冊読んでいただくと良いかと思います。

私自身が最初のOKRの原体験は、2012年に入社したGoogleです。OKRの運用システムは内製でシンプルに使いやすく、OKRの社内研修も充実していました。OKRと聞くとGoogleが第一想起に出る方もいますが、インテルが生み出したと言われています。その後、イスラエルのAIスタートアップ「デートラマ」に在籍していた時は、Google会長エリック・シュミットのVCが出資していたのもありエリック・シュミットのアドバイスで、ここでもOKRをが使われていました(Googleスプレッドシートで運用してました)。

ちなみに、Salesforce時代はV2MOMでした。

  1. ビジョン(Vision)— 達成したいことは何か?

  2. 価値(Values) — 達成するうえで大切な信念は何か?

  3. 方法(Methods) — 達成するためにどうするか? 

  4. 障害(Obstacles) — 達成の妨げになるものは何か?

  5. 基準(Measures) — 成果をどう測定するか?

OKRとV2MOMは原理原則は非常に近い印象でしたが、同社のグループウェアとして使われているSalesforce Lightning上(通称Org62)でV2MOMも作成・更新でき、CEO含む全世界の社員のOKRが見え、人と人がハイパーリンクで有機的に繋がっており、インターフェースも個人的には運用しやすかったです。

V2MOMには障害(Obstacle)を明確にするという過程があり、障害が明確だと、成し遂げたい目的や目標を達成するために障害を無くせば達成できます。障害を明確にできるか、これが大事です。

上述3社とも運用プロセスもシステムもしっかりしていて、期初に設定し、四半期毎に振り返り、全社的透明性と更新性、公平性があるようなスキームで一年を通じて評価にも適用するというフレームを私自身は10年くらいやってきました。新卒で入社したサイバーエージェントの頃も目標設定は勿論ありましたが、当時は"透明性"のところは異なりました。この"透明性"がかなりポイントだと私は考えてます。

よく会社の組織図と目標設定・評価制度を見ると、その会社の状況が大体わかる、と言われますが、当たり前ですが目標設定、評価制度は本当に大事ですよね。

なぜOKRを始めることにしたのか?

上述しました、B2Bサービスの契約後のサービス提供するPost sales関係者である①カスタマーサクセス部門、②品質保証部門、③コンタクトセンター子会社は特定の共通のサービス成長がゴールであり、顧客起点のサービスであるはずですが、部門や会社を跨ぐと事業のゴールと個々人の目標が紐づいてなかったのです。
また個々人で立てる目標も「個人とその上司や組織内の物差し」で設定されており、それが本当に適切か?と問うと解釈や物差しがバラバラでした。

当社は営業であれば売上などの数字、開発であれば開発要件を進めること、売上と商売のタネであるモノ(端末)を開発するこれまでやってきた製造業の柱となる領域はとりわけ目標となる要素が事業と業務が紐づきやすいですが、パイオニアとして経験がまだ浅いサービス事業の契約後の領域(事業を継続させるには、成長を促すドライバーだと思ってます)は目標が曖昧、むしろまだ目標としてあるべきものが無い状態でした。

つまり、同じサービスに関わるメンバーの事業目標と個人の目標や活動が紐付き、同じベクトルを向いた目標設定にしたかったのでOKRを始めました。

今回OKR導入に至ったわけ、その際に大切にしたかったこと、以下私見で一部抜粋です。

  1. 認識の統一

    • 組織にとって何が重視されており、目標の達成がどのような基準で判定されるのかを全員が理解すると、各自の課題と組織の目標を結びつけたかった。つまり、人それぞれ判断基準や目指すべきゴールがバラバラしていた。

    • 言わずもがなではあるのですが、すべての従業員が同じ方向を向き、明確な優先順位を持ち、一定のペースで計画を進行したかった。つまり足並みが揃っていないことが多すぎた。

  2. ストレッチゴールがある

    • いかにストレッチをするかが鍵です。若干気後れするくらいの高いレベルの設定でもよいかと。私は幸いサイバーエージェント時代にストレッチ癖がついたので、ストレッチが気持ち良いです(体はかたいのですが)。達成率が常に 100% の場合、その OKR の設定レベルが低いと言えるので、もっと野心的な目標を立てる必要があります。つまり、ストレッチゴールを狙うという野心が組織の中になかった。

  3. 透明性&コミュニケーション

    • 組織全員または関係者全員で共有します。透明性のある状態にします。いつでも最新の状況で見れる状態にします(つまりExcelなどのローカルファイル運用であってはいけない)。組織の目標と成果指標をすべての社員に周知するため、社員間のコミュニケーションが活性化しやすくなります。つまり、透明性、公平性、納得性のある目標設定ではなく、そこに社員間のコミュニケーションが繋がっていなかった。

  4. 最低四半期に一度は四半期レビューを自ら行い、次の四半期にリカバリーするようなリプランを行う

    • 期初に立てた目標はいうても、不確定要素が多いのが世の常。そのため、できる限り頻度高く、PDCAを行い、最善の手法で前に進んでいく。つまり、適切な振り返り、そこからのリプランニングを、少なくとも四半期毎の単位で運用されるという仕組みや文化がほぼなかった。

  5. 目的(Objective)と目標(Key Result)が別である

    • よくない目標設定は手段を目的化してしまったり、それを仕組みとして回避できる。手段を目的化してしまう目標設定が散見されていた。

以下、Googleから具体的なガイドが公開されています。ツールも無料で提供されており、ありがたいですね。

目標設定をしていない会社はおそらくほとんどないと思いますが、OKRのようなフレームでやっていない会社は案外多いと思います。

そのようなフレームが無いと、個々人やチームのそれぞれの物差しで目標を設定して、評価の時に違和感が生じてしまう可能性がありますし、メンバーや組織のポテンシャルを最大限発揮できない成果や成長の機会損失が発生しまうことがあります。

目標設定や評価において「公平性」「透明性」「納得性」「更新性」が健全な状態であると、社員の能力やモチベーションを最大化することが可能になると思ってます。

どうやってOKRを策定したか?

正直結構時間がかかりました。OKRという言葉を初めて聞いた人も多く、本を読んだとしても原体験がなくイメージがつきづらいという意見も多く出ました。ただし、プロパーの幹部陣がOKRがやりやすそうというポジティブな意見も多く、私だけの意向だけではなく、OKRを使うことにしました。

まず、私が責任者として大上段のOKRのドラフトを作成しまして、その下のツリーの2段目まで仮のOKRを作成しました。
まず、責任者がOKRを策定することがスタート地点だと思います。なのでまず私が作成しました。

ちなみに以下Salesforceの創業者マークベニオフが最初に作ったV2MOMです。

Salesforce創業者マークベニオフが最初に作ったV2MOM

私の場合はMiroのOKRテンプレートの中の以下を使いました。

パワーポイントとかExcelとかNotionとかなんでも良いとは思うのですが、Miroにはテンプレートがいくつかプリセットされていて、すぐにOKR策定に取り掛かれる、関係者に共有やコラボレーションしやすいので、OKR策定時はMiroを使いました。運用となるとまた違いますが。
一回書いて、一晩寝かせて、再度見直して、を3回くらい繰り返して策定しました。

Miro内で「OKR」と検索すると、以下のようにいくつか出てきます。

Miro内でテンプレートからOKRで検索

今回は使いませんでしたが、プランニングをワークショップ形式で進めることができる以下のテンプレートも便利そうでした。

私が策定した大上段と2段目のOKRですが、まず関わる幹部メンバーがハラオチがあることが今回の肝だと思っていたので、私が策定したものを確定版とせず、上述3部門のマネジメント陣で隙間時間を使いながらですが1.5ヶ月くらいは議論をしました(週1-2回くらいの頻度ですが)。なかなか時間を使いましたが、ある一定の納得性がないと、運用されないし、結果も出ないので、ある一定の納得性が出るまでは、言葉の表現や意味にも拘り、粘り強く何度も打ち合わせを繰り返しました。
同じサービスの仕事をけっこう近い距離でやっていたにも関わらず、部門が変わると業務の不透明性、ベクトルが絶妙に同じ方向では無い、指標が共通ではない、認識・言葉がそれぞれ解釈が異なる、など前提の認識合わせにはそれなりに丁寧というか、共通認識を持つために時間をかけました。大事なところのボタンが掛け違うとそもそもスタート地点で噛み合わない状態になってしまいます。些細な掛け違いも特に初動は見過ごしてはいけないと思ってます。
つまり、一方的なものではなく、Assimilation(同化)を大切にしました。

上述3部門の統括部長、部長、課長レイヤーが私が作成した大上段を元に、二階層目のOKRをみんなで議論したり、手分けしなら作成し、人にはよりますが、第三階層以降からメンバーのOKRになります。

そもそもですが、長い歴史のある製造業の文化に、ここ数年で当社として強化し、中期では事業のポートフォリオの柱の1つにしていくサービス事業の目標設計になるので、製造業とサービス業は実は結構な違いがあると思います。文化、ビジネス構造、商売の流れ、役割、等々。何よりも長年やってきたという慣性の法則が強かったりします。
私としては上記OKRのメリットを組織としてもメンバー個々人としても享受して、成果を組織出すことが狙いの1つですが、長い歴史の製造業の文化にサービス事業も融合させるには、目標設定がそれを実現させる重要なファクターだとと思っていたので、今回OKR策定に取り掛かったというのもあります。

また、OKRを策定する時によくアルアルなのですが、手段が目的化(Objective)してしまうことです。特に製造業でモノを作る有形商材事業を長いことやってきたからか、手段を目的化しているのを散見しました。

例えば「システムを導入すること」といったを目的(Objective)にしたり、何某か「タスクをすること」自体を目的(Objective)してしまうのを散見したので、1つ1つ意味や言葉の認識あわせをしながら限りある時間でしたが丁寧に組み立ていきました。

手段が目的化すると、それをやること自体が止まらなくなり、時に成果や事業成長と関係のない作業となり、最悪の状態として無駄な投資だったり、後々メンテナンス含め弊害となるものが残り続けたりすることさえあります。特にシステム導入とか新規事業とかは要注意だと思ってます。

手段が目的化されないように、「それを実現したら、目的を成し遂げれるか?」と問うと、その先に定量性を持った答えがなければ手段が目的化していることがわかります。

どうやってメンバーにアナウンスするか?

今回は意識統一のため、一つ一つの言葉の意味を、解釈が分散しすぎないように、上述3部門のメンバーと管理職全員を集めてアナウンスしました。

アナウンスの前には関係する役員陣や他部門幹部、人事にも共有しアラインをしました。

私はOKRをそれなりに経験してきた側の人間ですが、実際にOKRを使っていくメンバーはほとんどOKR実践は初めてです。私が一人突っ走っても意味がないので、冒頭に私から背景、目的を伝えた後、OKRとは?や、具体的なOKRはプロパーの管理職から説明してもらいました。

メンバーに落とす時も、時間をかけて説明や質疑応答もしました。質問が出づらかったので、感想でも良いので発言してもらいました。会議で拾えなかった感想、言語化しずらいモヤモヤもあると思うので、会議後に各マネージャーにはメンバー個々人からの感想や質問を拾ってもらいました。

「OKR作ったから、1週間で考えて、上司と相談して決めておいて、よろしく。」では機能していきません。

以下のような工夫が必要だと思います。

  1. なぜ、OKRを始めることにしたのか?経営背景や目的の共有もすること。

  2. OKRとは何か?できれば、OKRにおける共通の本や記事を事前学習を最低限してもらうこと。

  3. OKRをメンバーに共有する際に、一つくらいOKRを策定する練習をして、誰かを例にして策定の際のマネージャーとのフィードバックや策定過程を公開して共有する(ここは当社もまだ工夫が必要です)

  4. 潜在的な疑問や違和感もできる限り解消する

時間とお金のある場合はその手の専門性のある研修会社もあるので依頼しても良いかもしれません。

どうやってOKRを運用するか?

先にもご紹介したOKR運用で有名なGoogleからこのような無料でのアセットが提供されているので、まずはミニマムで始めたい場合とか便利そうですね。ただしスプレッドシート運用だと誰かが運用しないといけないので、ちょっと手間だとは思いますが運用してくれる人がいれば無料ですぐに使えるので良いかと思います。

個人的には以下のような何か使いやすいOKRツールを活用することをお勧めします。利用費用を聞いてみるとわかりますが、ちゃんとしたOKR設定ができれば全然投資対効果の良い投資です。そもそも比較的リーズナブル提供されてますが。

他にも色々ありますね。

ツールの導入はその会社の他ツールの利用状況やコンディション次第でちょど良いものを選定する感じかと。ミニマムで始めたいのであればシンプルで使いやすいもので良いですし、プロジェクトやタスクまでマネジメントしたい、タレントマネジメントもやりたい、面談・1on1までそこで行いたい、人事系ERPと連携したい、等々の会社によって前提とニーズが異なるのでそれらを考慮して選定する感じかと思います。

当社はOKRを使って成果が出ました、と言えたわけでないのであれですが、目標設定の時点で手応えがあるか無いかで全然違うと思います。手応えはあるので、今期それなりに成果が出ると思います。あとはしっかり振り返り、改善を繰り返し、みんなで活性化・楽しみながら、前に進めるだけです。

そして一過性のものではなく、文化、仕組みに浸透し、再現性のある状態を目指したいと思います。

最後に、OKRを自ら導入するというのは、目的と目標を明確にすることですので、ある種、私自身のコミットメントでもあるとおもってます。

OKR運用初年度ですので、色々うまくいかないこともあると思うので、そのリアルも少し経過したらnoteに書いてみようかと思ってます。

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