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映画『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』感想 

予告編
 ↓ 


松ぼっくりと種


 基本的には誰もが知る『ピノキオ』の話と変わりない。だからネタバレも何も無い…… とはいえ、僕にとってはあまりにも昔に観た以来だったものでして。

「嘘をつくと鼻が伸びる」「クジラに飲み込まれる」「なんかサーカスみたいな場所に居たような…」程度の記憶しかなかったので笑、割と新鮮に楽しめました。



 本作はNetflix作品。新宿にあるEJアニメシアターにて鑑賞。

意外とあるあるだと思うんだけど、動画配信系のサブスクに加入しているのに「えっ、そんなの配信してんの?」と驚くことが稀にある。わざわざお金払ってんのにね笑。劇場に観に行ってから初めてネトフリ作品だって気付いたよ笑。

でもこれは劇場で観る価値が大いにある。観れば誰もが、ディティールにまで拘っているであろうことがわかるストップモーションアニメの素晴らしさは言わずもがな。

大きなスクリーンだからこそ隅々までよく観察でき、作り手の想いや仕掛けを充分に堪能することができる。画面に映るもの全てを支配できるというアニメーションならではの表現がいっぱい詰まった映画でした。




 序盤、松ぼっくりを拾って見せたカルロに対し
「松笠が欠けているから完璧じゃない」 と言うゼペット。

また、そのすぐ後に描かれるシーンでは、肉屋の呼び鈴を修理して正しく使える状態(ある種の小さな完璧?)にした直後のカットに、前片足が無い犬がさり気なく映っている。

その後も、特に触れられるわけでもないのに、やたらと痩せ細って肋骨が浮き出ている犬が映っていたりもする。どちらの犬も、ゼペットは見向きもしなければ気付きもしない。

実はゼペットは物語の序盤で(劇中で多分一度だけ)「完璧主義」だと呼ばれていたんだけど、そんなゼペットが関わるものだけが完璧な為に、他のものの不完全さがそれを浮き彫りにしているようにも見えてくる。

またそれは、最愛の子であるカルロさえいればゼペットの心は完璧なのだと言っているかのようでもある。だからこそ、悲劇が起こる直前にゼペットが作業を未完成のままにしてしまったことも、そのシーンの状況を色濃くする表現の一つだったと思えてくる。
他にも雨や雷鳴、落雷といった天候が登場人物の心情と重なっているなど、面白いところがたくさんある。

 一方で、 ホットチョコレートを飲む時に小指を立てるなど、良い意味での余計な動きが多くて、それが人形という見た目の枠を超えて、どこか人間味にも繋がるよう気がしてしまい、ストップモーションの動き一つ一つにも注目していくことで、何だかんだで目線が忙しい。

たしかにこれはネトフリ配信で然るべきというか、何度も観られる仕様になっているのは非常にありがたい。そもそも子供はこういうアニメに関して「もう一回観たい!」ってしつこいですもんね笑。



 冒頭、真っ暗な中から一つの松ぼっくりが浮かび上がる。実はラストカットも松ぼっくりで締め括られる本作。そしてそんな松の木から作られたピノッキオが主人公の物語。この松ぼっくり一つに注目して見るだけでも味わいが大きく変わるかもしれません。

ピノッキオは胸の部分が空洞で、文字通り、人間の心が欠けているような素振りが多く見られた。その空洞を住処にするクリケットがピノッキオの良心的な存在であるというのが、ビジュアルとして非常に有用なことは、誰もが思う所かもしれません。

ラスト、そんなクリケットを、大切にマッチ箱の中に入れ、そして胸の中——心の中——に収める。一人残されたピノッキオが前に歩き出し、そんな彼に対して「いずれ死ぬだろう」 「誰もがこの世を去る」というクリケットのモノローグに合わせるかのように、松ぼっくりが木から落ちる。ゼペットが松の木を切り倒した時ですら枝にしがみついていた松ぼっくりがだ。

それはピノッキオが、観客や語り手たちの知らぬところで “ちゃんと死ねた” ことを示しているとも取れる。

また一方で、松ぼっくりが枝から落ちたということは、松笠が開き、種を撒き終え、役目を果たしたということ。その撒いた種とは何なのか。ゼペッ トやクリケットやスパッツァトゥーラらのように、それこそピノッキオと出会う前までは持っていなかった、或いは失っていた大切な何かが心に芽生えたのは、ピノッキオが与えてくれたそんな素敵な種だったのかもしれない。

一人になった彼は、我々の見知らぬところでも、そんな素敵な心の種を与え続けていたのではないかと思わせてくれる。そしてそれは、劇中でも語られていた「与えれば与えられる」ように、彼も多くのものを与えられ、一生を終えることができた。借り物ではなく、本物の生命として。


 とまぁ、そんなしんみりしたラストかと思いきや、最期の最後に小粋な締め括りがあるのも好印象。他の『ピノッキオ』系の作品がどうこうは申しませんが、初めて出逢う『ピノッキオ』には本作が一番かもしれません。


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