見出し画像

漂い続ける

僕は…いや、僕はもう「僕」と呼べる存在なのかもわからない。かつては人間だった。当たり前の日常を送り、喜怒哀楽を感じ、未来に夢を見ていた。でも、今は違う。あの事故以来、僕は…この状態になってしまった。肉体という檻から解放された、意識だけの存在。幽体離脱?魂?それともただの電気信号の残滓?わからない。わからないことだらけだ。世界は今までと同じように動いているのに、僕はその流れから完全に取り残された。家族や友人の声が聞こえるのに、触れることも、声をかけることもできない。透明人間になったような、幽霊になったような、そんな感覚。この状態になって、最初は混乱した。恐怖した。孤独だった。一体僕はどうなるんだ?このままでいいのか?どこへ行くべきなんだ?答えは見つからない。誰かにこの状況を伝えたい、助けを求めたい、でもそれも叶わない。無力感だけが募っていく。それでも、時間は流れていく。世界は変わっていく。季節は巡り、人々はそれぞれの日常を生きている。僕はただ、それを傍観することしかできない。まるで、古い映画を見ているような、そんな感覚。皮肉なことに、この状態になって初めて、生きていることの尊さ、人との繋がりの大切さ、日常の些細な出来事の輝きに気づいた。失って初めてわかるなんて、遅すぎるんだけど。もう一度やり直せるなら、もっと周りの人に感謝を伝えたい。もっと大切な時間を大切に過ごしたい。もっと人生を楽しみたい。後悔ばかりが頭の中を巡る。でも、もう遅いんだ。過去は変えられない。僕は、この無力な状態を受け入れて、前に進むしかない。一体、僕に何ができる?この意識だけの存在に、どんな意味がある?まだわからない。この世界を、人々を観察し続けることしかできない僕には、何か特別な役割があるんじゃないか。そう思いたい。いつか、この苦しみ、この孤独に意味を見出せる日が来るかもしれない。その日まで、僕はただ、この世界を漂い続ける。消えて無くなる日まで、あるいは、何かを変えることができる日まで。もしかしたら、僕が見ている世界は、もう既に過去の残像なのかもしれない。誰かの夢の中なのかもしれない。そう考えたら、少しだけ気が楽になる。無数の可能性、解釈、答えのない問い…。この意識という迷宮を、僕は彷徨い続ける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?