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人間関係モノローグ【猿と私】

50代前半。人生、折り返し地点を過ぎたあたりだろうか。仕事はそれなりに充実しているし、家族にも恵まれている。でも、最近、どこかで息苦しさを感じていた。毎日同じことの繰り返し、時間に追われる日々。自分の人生、これでいいのかと自問自答することもあった。

そんな折、山小屋に行くことにした。別荘と呼ぶにはあまりに質素な、山奥にある小さな小屋。夫は仕事で来られなかったけど、たまには一人でゆっくりするのもいいかなと思った。

レンタカーを借りて、山道をゆっくりと登っていく。窓を開けると、新鮮な空気と緑の香りが車内に流れ込んでくる。都会の喧騒から離れ、自然の中に身を置くと、心が解放されるような気がした。

しばらく走ると、前方に何か動くものが見えた。猿だ。二、三匹の猿が、道路脇で遊んでいた。一匹の猿は、橋の欄干に飛び乗ると、鉄製の円形の手すりにしがみつき、体を丸めて座り込んだ。まるで、人間がくつろいでいるみたいだった。

その姿を見て、私は思わず笑ってしまった。「人も猿も、そんなに違わないんだな」。そう思った瞬間、何かが腑に落ちた気がした。

私たちは、つい人間だけが特別な存在だと考えてしまいがちだ。言葉を話し、文明を築き、高度な技術を持っている。でも、生物学的には、猿も私たちも同じ霊長類だ。遺伝子レベルで見れば、ほとんど違いはない。

猿だって、私たちと同じように、遊び、笑い、悲しみ、怒る。仲間とコミュニケーションを取り、社会を形成する。生きるために、知恵を絞り、環境に適応していく。そう考えると、人間だけが特別だなんて傲慢な考えなのかもしれない。

自然の中に身を置き、他の生き物と触れ合うことで、私は大切なことを思い出した。私たちは、自然の一部であり、地球上の他の生物たちと共存しているということ。そして、人間もまた、動物の一種であるということ。

猿が手すりにしがみついている姿は、どこか滑稽で、ユーモラスだった。でも、同時に、生命の力強さ、自然の美しさを感じた。

自然から学ぶことはたくさんある。自然のリズム、自然の知恵、自然の多様性。自然と調和して生きていくことが、私たち人間にとっても幸せなことなのかもしれない。

山小屋に着くと、深い静寂に包まれた。鳥のさえずり、風の音、木の葉のざわめき。都会では決して味わえない、安らぎを感じた。デッキチェアに腰掛け、目を閉じた。猿の姿が、目に浮かぶ。人も猿も、そんなに違わない。そう考えると、心が軽くなるような気がした。

この山小屋での時間は、私にとって特別な時間になった。自然と触れ合い、自分自身と向き合うことができた。これからの人生を、もっと自由に、もっと自然体で生きていこうと思った。

猿が教えてくれた大切な教訓を胸に、私はまた、歩き始める。人生の後半戦は、きっともっと面白いはずだ。


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