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【ライヴ原稿&動画】マイナンバーを入れ墨する


忘れないようにマイナンバーを入れ墨した これで忘れない
忘れないように子供をひもでつないだ これで忘れない
忘れないように死んだ人の墓を作った これで忘れない 自分も死ぬってことを
忘れないように結婚した日を結婚記念日にした。これで忘れない 自分が結婚してることを
忘れないように自分が生まれた日を誕生日にした これで忘れない 自分が生まれたってことを。
忘れないように365人にひとりいる3月11日が誕生日の人を無視して、その日は国全体で湿っぽくなることにしている

これで忘れない。

メモをとるのは覚えるため? いいえ、忘れるためです。

殿様が女を集めて作ったハーレムは、昔ながらのしがらみで、忌み日や先代の王の命日など、まぐわいを禁じられている日が多かった。
代が下るにつれて先代の王の命日も増えていき、したがって、まぐあいを禁じられる日も増えていき、
末代の王の頃にはまぐわえる日がほとんどなくなり、ついにその一族の血は絶えてしまった。

とある死刑囚は、長い長い独房での時間を、あやまちだらけだった己の過去を振り返るために使うことにしました。
振り返っても振り返っても長い過去は振り返り切れず、悔やんでも悔やんでもあやまちは悔やみきれず、そして、彼は長い長い日記を書き始めました。幼少期から罪を犯す現在に至るまでの、長い長い日記を。
しかし、彼の刑期はもっと長いのでした。大臣がハンコを押さないから、彼の刑はいつまでも執行されないのです。
やがて、彼の日記は今日にたどりつきました。

「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」
「今日は一日中牢屋に入り日記を書いていた」

何百行もそれが続き、彼はやっと、これこそ己の刑なのだと気づいたのでした。

この話を聞いたとある老人は、それまでは昔のことを思い出すのが大好きな懐古趣味の老人だったにもかかわらず、その日からぱったり、昔のことを思い出すのをやめました。
それ以後、彼の日記は「今日も晴れてる」「今日も晴れてる」それだけ。
彼が死ぬと、遺書には、「遺産は知人の出版社へ。あの死刑囚の日記の出版費用に充ててほしい」と。

その話を聞いた私は思いました。

その本読むの、時間の無駄じゃね?

バックアップばっかじゃ身重になっちゃうよ 
ラップトップパソコンにバックアップとって 更新 復元? 更新を選んだiPhone 

“こんにちは 言語を選んでください” ニーハオ? オラ? ボンジュール?
もう二度と言語なんか覚えなくていいんだよiPhoneちゃん ただ私たちよりきれいにものを見ることができるカメラで、世界を見ていて。二度と記憶なんかしないで。二度と記録なんかしないで。

写真を撮るのは覚えるため? いいえ、忘れるためです。
動画を撮るのは覚えるため? いいえ、忘れるためです。

私達の記録は全て過去だ。
私達の言語は全て過去だ。
何を喋っても長めの遺書だ。何を喋っても、残像だ

iOSには形がない。iOSには保証書が無い。

むかしむかし、保証書まみれの家に住んでいる人がいました。いつか使うかもしれないと思って保証書を捨てられず、保証書にまみれて身動きがとれないほどに家の中で追い詰められ。
心配した友人がやってきても、
「大丈夫、もし水害が起きて保証書が全て水に流されても、もし火事が起きて保証書が全て焼けてしまっても、僕だけは絶対に幸せに、天国に行ける保証書があるんだから! はい、これ、免罪符」
思わず苦笑いした友人でしたが、彼を思い切り笑うことはできませんでした。保証書と免罪符、本質的に何が違うの? って。

あなたは神を信じてる 私はあなたを信じてる

「信じてる」から。
「ずっとずっと信じてる」から。
「絶対浮気しない」から。
「ずっとずっと大好きだよ」。
「ずっとずっと一緒にいようね」。

保証できねえくせに保証書なんか発行するなよ。

「ねえ私のこと、好き?」1秒後「ねえ、私の事好き?」2秒後「ねえ、私の事、好き?」3秒後「ねえ私のこと、好き?」4秒後「ねえ、私の事好き?」5秒後「ねえ、私の事、好き?」

あんまりこまめにバックアップとるとバックラッシュが起こるよ

「あんなに好きって言ってくれたじゃん!!」って。

(申し訳ございません、保証期間外です。)

全ての言葉は、保証書にならない。

(「君がいてくれたら安心」じゃないよ。)

全ての人間は保証書にならない。
誰も誰の保証書にはならない。
誰のどんな言葉もなんの保証にもならない。

2年間無料保証サポート? はあふざけんじゃねえよ? 2年後も私にかまってもらえると思ってんの?
1年間定期券がお得? あんたは1年後もそのふざけた満員電車に乗り続けてる気なんですか?


職業を聞かれ「水」とこたえたキャバクラ嬢は歌舞伎町に消えた。
職業を聞かれ「風」とこたえた風俗嬢は円山町に消えた。
職業を聞かれ「神」とこたえたアイドルは秋葉原に消えた。
職業を聞かれ「無色」とこたえた私、こと透明人間は、すでにどこにも消えている。


水にも風にも神にもなれる。


【解説】

エビデンシャリズムという言葉がある。哲学者の千葉雅也氏によれば、それは「たんに手続きにこだわる強迫神経症的態度」あるいは「トリビアル (些末に自明) 」なことも「データや文書といった原則として有形なエビデンスを要求する」所作を指す、いわば根拠重視主義である。Twitterに生息する細かいことに対していちいちケチつけるやつを想像すればよい。ふたたび氏の言葉を借りれば、私たちは「無限の「あら探し」のゲーム」を演じている。毎日バックアップをとり、更新を続け、かりそめの保証にすがるのは、いい加減さを廃絶し、回避したい気持ちの表れだ。
しかし、言葉はつねに偶然性に晒されている。「何を喋っても」、「遺書」であり、「残像」であるそれに保存は通用しない。記憶の問題と、恋愛の問題と、人生の問題について考えるとき、重要なのは証拠ではなく、むしろその曖昧な偶然性にほかならない。いくら積み重ねても全体を構成しない、断片の集積。そうして創られた世界には、バックアップをとることも、保証書を発行することもないだろう。そこには今しかないのだから。そして、人はそれを「ライヴ」という。

麻枝龍


【動画】6:40あたりからです。

https://www.youtube.com/watch?v=G3SNKa6pask

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