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ウェルビーイング企業の先駆者 、フランシラ [フィンランド]

コロナ禍で加速したメンタルヘルスの不調、バーンアウト、疎外感や社会との交流の欠如等による幸福度の低下への対策として、
近年「ウェルビーイング」向上への取り組みが注目を浴びています。
その市場規模はグローバルで約1兆5千億ドルという巨大産業(出典: マッキンゼー・アンド・カンパニー)。

そのパイオニアとも言える企業が、
幸福度で世界ランキングトップのフィンランドにあります。
1980年初旬頃から、同社の代表商品であるオーガニック・コスメを始め、
ウェルネスセンターやヨガ・指圧のクラス・スクール、さらには、
ベジタリアン レストランまで開設していた、Frantsila(フランシラです。

創業時からこれらの商品・サービスを通して「自然との調和を保ちつつ、
人間の身体的・精神的・社会的なウェルビーイングを促進すること
」というミッションを掲げ、実現に向け邁進してきました。
消費者の健康やウェルネスに対する感度がまだまだ低い時期から、
40年間も一貫してミッションドリブンで成長できた源泉は何か。
前CEOで創業者の息子である Jupiter Cormier氏に直接伺いました。

植物の持つ力に夢中となった幼少期

フィンランド第2の都市であり、サウナで有名なタンペレ市から約40キロ離れたHämeenkyröという土地にフランシラは創業時より根を置いています。
祖先代々から300年続くこの土地で、創業者Virpi Raipala-Cormier氏は育ち、幼い頃から大自然に囲まれた生活を送っていました。

Virpi氏の記憶に強く残っているのが祖母との体験。
Virpi氏が森林や草地からカモミール等を摘んでくると、祖母はそれを頭皮コスメとして使用したり、馬や鶏に栄養として与えていました。
その光景を見てVirpi氏は、「自然には植物の力が満ち溢れている」と感じ、
植物の持つ、まるで魔法のような力に強く惹きつけられます。

フランシラ創業者のVirpi Raipala-Cormier氏。
幼い頃から植物に魅了され、14歳の時には自身で摘んだハーブから
ハーブティー("Friendship"と命名)を創作。
(写真提供:Frantsila)

Virpi氏の中に芽生えた植物への探求心は日に日に増し、ヘルシンキ大学では農学を専攻。博士号を取得するまでに。
Virpi氏は植物への飽きなく研鑽を通じ、植物と土壌、そして人間の
ウェルビーイングには深い繋がりがあることを知ります。

「フランシラの製品のストーリーは土壌に根ざしています。」

植物をオーガニックで育てることで空気中から二酸化炭素を取り出し、土壌の健康は改善され、植物はまた育ちやすくなります。また、オーガニックで育てられた植物は環境だけでなく、皮膚の若返り、代謝の促進、さらには炎症を軽減等、人間への効能も期待できます。

Frantsilaでは再生可能な有機農業を利用して、摂取する以上に自然に還元しています。
これは持続可能であるだけでなく、植物、動物、人間が真に繁栄できる
エコシステムを作り出す方法であると考えています。(写真提供:Frantsila)

街にピザ屋が出来る前にベジタリアンレストランをオープン

転機が訪れたのは、カナダからVirpi氏と同じく農学博士である夫とフィンランドの自実家に訪れた時。300年続く、Virpi氏の代々から続くこの土地でオーガニック農業や指圧・ヨガのクラス、ベジタリアンレストランを始めれないかと考えました。

「夫のジェームスと私は農学者であり、植物と真に相互的な関係を築く方法の例を示したいと考えていました。具体的には、私たち人間が環境とどのような健全な関係を築くことができるかを示したかったのです。自然は私たちに、私たち自身の幸福のために利用できる素晴らしい癒しの植物をたくさん与えてくれます。そして私たちは、多数の多様な種を維持し、人間や他の動物が繁栄する環境を作り出すことができるのです。」

しかし、当時は1980年頃。
「当時は周りで誰もオーガニック農業やベジタリアンレストランをやっていませんでした。まだKoti Pizza (フィンランド最大ピザチェーン)でさえタンペレに一号店をオープンする前の時代です 笑 周りからはかなり”Strange”に見られました。」と、息子のJupiter氏は言います。

さらに、Virpi氏も夫のジェームス氏も本格的な起業やビジネス経験があるわけではありません。しかし、オーガニックへの拘りに一切妥協せず、日々ミッションの実現に没頭しました。
追い風が来たのは1990年代、思いの外フィンランドが不況に陥った頃です。
人は暗澹たる思いに見舞われているときこそ、より癒しを求めるものです。フランシラのアロマを使用すると、五感が呼び覚まされ、大自然の中で生き生きして育った植物の香りに包まれます。

オーガニックで丁寧に育てたラベンダーを使ったエッセンシャルオイル。
(写真提供:Frantsila)
ウェルビーイングセンターでは、ベジタリアンミールやマッサージなどのトリートメントに加え、外には本格的なサウナや大自然の中を歩くコースもあり、極めて質の高い癒しを体感できる。
滞在時には室内に置かれているオーガニックコスメも使用可能。
(写真:著者撮影)
1980年代にオープンしたベジタリアンカフェ・レストランは、
今日も地元の方々を中心に人気を博している
(写真提供:Frantsila)

ミッションの根底にある「愛」

2020年、Virpi氏の一貫した啓蒙活動が評価され、
フィンランドの「Woman of the Year」に選ばれます。

フランシラ創業から40年以上たった今では経営の第一線からは離れつつも、Virpi氏は毎朝ヨガをし、自然と触れ合い、オーガニック農業を自らが模範となりつつ推進し、人間がどのようにして自然と良好な関係を築けるかを説いています。

40年間揺るぐことなくミッションに誠実で入れる根底には、
深い「愛」があるとのことです。
私たちが行うことはすべて愛から生まれます。
自然を含めたすべての生き物に対する愛です。
愛は希望に火をつけ、より良い世界を実現するために私たちに行動を起こさせます。

会社のミッションを体現し墨守するという点において、Virpi氏に並ぶ人間はなかなかいないのではないでしょうか。

最後に、人類がどう生きていくか。どう生きていくと幸せか。
それが人類単体だけではなく、土壌・地球との共同体としての幸せ・豊かさとは何か。
Virpi氏の軌跡を伺い、同社のウェルビーイングセンターも訪れたことで、
そのヒントを得れた気がします。

インタビューにご対応いただいた、Virpi氏の息子でフランシラ前CEOのJupiter氏。
自身も時折子どもたちと海を見ながら10回深呼吸し、清々しい空気と自然の有難みに感謝する等、
普段の生活に自然との接点を積極的に取り込むことで、自然に対する愛情や敬意を深めているそうです。(写真:著者撮影)

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