全裸の呼び声 -32- #ppslgr
玉虫色の光彩まとったシャボン玉が、汚濁極まる処分場に吹き出した。一瞬速くレイヴンが鍛冶師をかっさらった後の、そこに残されていた奇怪な遺体にあぶくが殺到すると、湯気となって溶け落ち瓦解する。
「しゃれならないじゃないか!?なんなんだいアレは?」
「露出狂だとよ!」
レイヴンが飛び回っているさなか、アノートは手にした狩猟ナタを振り投げ、銀の決闘銃より水銀弾を撃ちなはなつ!青紫のカニ甲殻が火花を散らし、身じろぎするも微塵のダメージも見受けられない。カニハサミ強襲!アノートは身長差を活かして懐飛び込み前転からの、カニの股をくぐり背後ショットガン射!やはりわずかに傾いだのみで、決定打にはならない。
「あの強度、そして曲線甲殻、最新鋭の戦車なみの防御力……!自信のほどは根拠があったということか」
「アンタら、勝てるのかい?」
「俺たちが死んでもそっちには危害は及ばない、今すぐには、だが」
「だったらなんとかおし!」
「脇差の一本でもあればな!」
悪態をつきつつ鍛冶師を放り出すと、コートより銃を振りだし9mm弾の洗礼を見舞う。硝煙と共によどみを裂いて飛んだ弾丸は、過たずカニ関節部へと突き刺さったが、あっさりひしゃげて止まった。続いてアノートが放ったグレネード弾がカニ頭頂部で炸裂、鮮やかなオレンジ爆発を放出するも、カニオストロはやはりかぶりを振った程度で何の痛痒も見せない。
「シューハッハッハッハ!やはり非脱衣者は弱く!脆く!儚い!我らヒトの限界を脱ぎ捨てし限界突破露出者こそが、この星の真なる覇者!哀れな着衣者はここで滅びるがいい!」
鋼鉄をも切り裂く蟹鋏が、教授に掲げられた石槌を真横一文字に両断。かと思えば教授自身は器械体操パルクールにてカニ腕に飛び上がり、カニオストロの脳天を突く!またも弾かれる一撃!
二人の攻め手どれ一つとってもまるで通用しない苦境の中、レイヴンの視界を何かがかすめた。白い影。期待の視線。
続いて、自身が今戦っている相手を観る。ともすれば強引に汚染世界の演者として作り変えられるこの異界で、何故このカニは自分の都合の良いように自己の存在を維持し、あまつさえ変質させられるのか。
殺人大型シカめいた殺傷速度で繰り出されるカニバサミを柳のごとく流しながら、敵を、状況を、己を観る。敵を倒すとは、解にほかならない。そして、その解は、出た。
「教授!」
「なにかな!」
「アレを抜く!」
「香典は出さないね!」
言うが早いか、黒ずくめはドブヶ丘のそこ、最終処分場のど真ん中へ。飛び出た廃棄物を八艘飛びの要領で飛び渡り、わずかに盛り上がった小島へ。
「シューッ!?正気か貴様!」
カニオストロの突き出したカニバサミから、噴射された圧縮水レーザーがわずかにレイヴンから逸れて、向こう岸を貫いた。アノートの水銀弾が一手早くカニバサミを揺るがしたのだ。
目の前にしたドブヶ丘の汚濁の真髄は、魔剣妖刀などという表現はまったくもって的外れといえるくらい、冒涜的な雰囲気をまとっていた。
【全裸の呼び声 -31-:終わり|-32-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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