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全裸の呼び声 -25- #ppslgr

「ほぅほぅほぅ、ほーおぅ?」

 二人を煽った老人はアゴをさすりながら、一切の容赦が無い駆除活動を観察する。彼がまばたきするたびに、四、五体のネズミが肉片へと分解されていった。

 一体仕留めるたびに、黒ずくめの奇怪ネズミへの構造理解は増していき、今やひと撫で刃先が触れるだけで的確に生命を奪っていく。奇怪ネズミの骨格は柔らかく、苦もなく切っ先が心臓、あるいは脳をえぐった。

 一方で教授の暴れっぷりたるや、微塵もその外見にそぐわぬ暴威だ。彼の左手に虚無から銀の透かし彫りが入ったショットガンが振り出されると、至近距離に迫ったネズミ数体が四肢をちぎれさせて弾け飛ぶ。返す右腕が振り抜かれれば、息絶えたコンクリ柱ごと逃げ惑うネズミを刈り取った。

 路上を覆うほどに暴走していた奇怪ネズミの群れは、物の数分待つこと無く残らず物言わぬ物体と慣れはてる。建物の隙間の暗がりから、様子を見ていた住人達は危険が去った途端這い出して、ネズミ達の遺骸を奪い取り合う。ハイエナでももう少し奥ゆかしく行動する、そんな旺盛さだ。

「無駄な労働をしてしまった」
「意外とそうでもないかもしれない、よ?」
「む……」

 訝しむ黒ずくめ。二人の元に、空中回転を決めてあの老人が舞い降りる。間近に見ると、いよいよ年経た山賊の亡霊めいていて、この異界都市の中でも油断ならぬアトモスフィアをまとっている。

「ようよう、お前さん達中々のもんだが、見ない顔だなぁ。よそ者か?」
「まあその通り、だ」
「ほおん、物好きなヤツ」
「そういうアンタは?」
「おおっと、聞かれたからには名乗るほかねぇ。オレサマはドブ沼の次郎長、いわゆるこの新ドブヶ丘商店街の顔役ってとこよ」
「顔役。ということはドブヶ丘に顔が効く?」
「ひっひ、あたぼうよ。その様子だとテメェら、ちょいとここらに難儀してるな?」

 まるで大昔からそうであったかのように名乗る次郎長。だが、彼も本来は登戸周辺の無辜の民であったはずだった。しかしてそのことはおくびにも出さず、交渉にうつる。

「害獣を駆除したんだ、こっちの頼みも聞いてもらいたいが」
「ハーッハッハ!お前らが勝手に殺したんだろ!だーが良いぜ、オレサマはこころが広いからなっ」
「二人探しているんだ。一人は光る全裸の男性」
「はぁん?全裸なら最近そこかしこにいるだろうが」
「その良く見るのじゃなくて、光っている全裸」
「ハハ、まあ良いだろう。もうひとりは?」
「白い帽子に、白いワンピース、長い黒髪の少女。見たことないか?」
「ブハハハハハハハハ!おかしなこと言うなオメェ!自慢じゃないがここらで白服なんざ着てりゃモノの数分でどどめ色よ!」
「たぶんそいつは汚れることがない、だからひと目でわかる」
「ッハ、随分ヤッカイなモン探してるじゃねぇか。こいつはネズミ駆除じゃワリにあわんねぇ」
「そんなこと言って、最初から追加で面倒押し付ける気だったろう」
「クク、その通りさぁ」

 ドブ沼の次郎長が狡猾に笑う背後で、山程あったネズミの死骸は毛の一本も残らず回収されていた。残った血溜まりは、バケツの濁った溜め水に押し流されていく。

【全裸の呼び声 -25-:終わり|-26-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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