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全裸の呼び声 -30- #ppslgr

「うるさいよ」

 壁と思われた一角に光の切れ目が走り、軋み音と共に開かれた。どうやら、居住室と思しき空間から、小柄な影が姿を見せる。煤まみれで継ぎ接ぎの衣服は、如実にここの主であることを物語っていた。

「もう静かになった、のでこれで勘弁してほしい」
「ふぅん。でも売るものならないよ。特に人斬り包丁はね」
「ただの一振りも?」
「無いものはないね」

 鍛冶場の主はうっとうしげにかぶりを振ると、バサバサの髪から煤が舞い散った。性別もさだかではない風体だが、声色から辛うじて年若い女性であることが判別出来る。

「人づてには、ここの人は斬れる刃物を追求してるって聞いたんですが」
「それはウソじゃない、あては確かによぉく斬れるのを打ってるさぁ。だけどね」

 主が辺りを手振りで指し示すと、確かに鍛冶場には一本とてまともに仕上がっている刃物はなかった。鍛鉄途中か、途中でダメと見てへし折られたガラクタばかりが隅に山と積まれている。

「クック、ムキになって打ちまくったは良いが……斬れる刃物があったところで、斬る物と振るヤツがいないんじゃ、タダのお飾りってことに最近気づいてね。ましてやガキの脅し程度に使われるならまるでやる気が出ない」
「だが、武器は要る。それも今すぐにほしい」
「牛丼じゃないんだ、そんなパッと出てくるわけがないだろ!……ふん、おまえ、ちょっと手を見せろ」

 言うが早いか、鍛冶師は黒ずくめの手をとって品定めをはじめた。

「おい」
「ほう、ほぉーん……こいつは驚いた。このご時世にどれだけ斬ったってんだか。だが力の入れ方がまだずいぶんと偏ってる、ヘタクソめ。それにしても硬いものからろくでも無いものまで随分と斬ったな」
「わかるのか?」
「わかるに決まってるだろ!アンタが無茶なもんまで斬ろうとして、結局折ったり曲げた本数まで、当ててやろうか」
「俺のほうが覚えてない」
「チッ、使い手としちゃ全くもって可愛げがない。だがまあ良い、道具を恋人扱いして……蔵に放り込んでほったらかすクソバカ野郎よりは百億倍マシさね。で。そっちのアンタは?」
「私はいいです、間に合ってるので」
「そうかい。ま、アンタの手は、違うもんな」

 着いて来い、と手振りで示すと、鍛冶師はヤクザだらけの鍛冶場を器用に避けて外に向かう。続いて素直についていく二人。曇天の元、外に出ると鍛冶師はあの、ひと目で冒涜的雰囲気が垂れ流しになってるすり鉢中央の棒を指した。

「アレをやる。持っていけ」
「アレを?正直お断りしたいんだが、あれは何なんだ」
「アレはな、やり過ぎた失敗作さね。アンタ、ドラゴン殺しって知ってるかい」
「もちろん知ってるが、アレとなんの関係がある」
「もしかして、どんな相手も殺せるようにドブヶ丘の汚物をひとまとめにしたとか……ハハ」
「正解」
「マジでか」
「せっかくこんな最悪の立地なんだ、わても一回トチ狂って、ここの汚濁をまとめた一本を作ったのさ。それがアレ。銘もつけちゃいねぇ失敗作よ」

【全裸の呼び声 -30-:終わり|-31-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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