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全裸の呼び声 -23- #ppslgr

 従来の広範な概念としてもっとも近いのは、寺社仏閣へつながる商店街めいた参拝道と、ごっちゃりした御徒町のアメ横を足してドブ川で割ったような、そんなレイヴンをしてげんなりさせる通りが丘山の盛り上がりに刻まれていた。

 なるほど、確かにドブヶ丘とは言い得た呼称である。もっともその倫理観と、公衆衛生の絶無さは世界のいかなる商店街を割り当てても多分に失礼というものであった。

 戦後の闇市めいた乱雑なる坂道が、うねりにうねって伸びていく先には、このごちゃついた街に似つかわしくない大型の施設がいくつも視認出来る。もちろん、現代の地味な色合いではなく、濁ったタマムシ色だったり、極彩色であったりと悪趣味にして実に眼に悪いカラーリングであった。

 そんな退廃と冒涜とろくでもなさに満ちた通りを、視線を巡らせながら行く二人だったが、やはりそう簡単に手がかりが目に映るといったこともない。目に映るのは、相変わらずのドブヶ丘化した奇妙な商店ばかりだ。

 例えば、木板にかすれた字で『乾物屋』と名乗っている軒先には、コウモリともサルともつかない奇怪な五肢のヒモノが吊るされ陳列されている。おそらく海鮮物を取り扱いたいであろう生臭さの一際強い店子は、あろうことか先程二人がほったらかしにしたあのタコを、喜び勇んで回収してきては瓶から引っ張り出して切り売りしているのだ。

 そのことにうっかり気づいてしまったレイヴンは、より一層、ここの自称食い物は絶対に手を出さないと硬く決意した。他にも見た目だけは近代的な店舗の見た目をしているが、奥はまるで得たいが知れない店ばかりである。そのくせ、これだけ治外法権の権化のような一帯なのに武器などに該当する店は一つもない。

「やっぱりどれもこれも、ろくでもない」
「何か気になるモノはあったかい?」
「いや、全然だ。この場所のヌシの手がかりになるような物も全く」
「おそらく、この一週間に露出会が総出で徘徊しているにも関わらず手がかりが無いとすれば、遭遇するのは相当まれなんじゃないかな」
「確かに。ゲームで言うなら低確率ランダムエンカウントの隠しボスってところか、一番回収が面倒くさいタイプだな」

 ふと、ビニールシート露天が目に映る。拾ったどころか破れている週刊誌に、自転車のサドルだけ、ひしゃげた鉄パイプに鳥の羽などがさも当然に売られていた。

「あても無いし、次の行き先について私から提案が」
『ネズミだーっ!?』
「ネズミ?」

 二人は共通の嫌な予感に顔を見合わせ、登ってきた坂を見下ろす。

 なるほど、それは四肢があり、毛むくじゃらのたわしのような姿で、尖った口を持っていた。ただし、四肢は蜘蛛のように細長く、体躯は子牛、血走った眼球は狂った人間のそれだ。そんな感じのネズミとやらが、暴れ牛の群れめいて駆け上がってくる。恐るべき災禍の群れに、ドブヶ丘の商売人達も次々と店に立てこもった。

 それを見た二人は、迷わずに坂道を駆け上がり出した。

【全裸の呼び声 -23-:終わり|-24-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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