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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十八話 #DDDVM

先程の会話から程なくして、彼らは私が待つ集落から外れた場所へと戻ってきた。サーン少年が、私の姿を目の当たりにして歓声を上げる。

「ワーッ!スッゲー!本当にドラゴン!それも最上位の真竜だよね!?生きている間に見られるなんて思わなかった!」
「こらっ、静かにおし!そんなに騒いだら失礼だろうが」
「いえいえ、お構いなく」

師の制止も物ともせず、私の鱗に触れて撫で回すサーン君はなるほど大器だ。アルトワイス王国とその周辺国は争いが絶えて久しいが、それでも彼のような未来ある少年が時代に求められることも十分ありうる。

「なぁなぁシャールさん、乗っていいってマジ?」
「ああ、人数が増えたからちょっと私の背では手狭だろうけれど。気にせず乗りたまえ」
「イヤッター!じゃあ俺一番前がいい!」
「これから一世一代の大怒られに行くってのに、呑気な子だよ全く」

わかってんのかい?という問い詰めとセットで耳をつまもうとしたエリシラ殿の手をすり抜けて、サーン君は私の背へ前腕から肩口を伝ってするすると登りあがる。弟子の活発さに根負けし、足元に水流を起こしておのが身を噴き上げひらりと背に移るエリシラ殿。そしてもとよりのメンバーはそれぞれの手段で私の背へと上り詰めた。

「さていこう、王都へは私の翼でもって小一時間ほど、その間にどう弁明するかまとめておいていただきたいな」
「ホントに?めっちゃくちゃはやいじゃん」
「こーら、真面目にどうごめんなさいするか相談するが先だよ」
「は~い」

私の王国法律知識に照らし合わせると、一応死罪になるかどうかの瀬戸際のはずなのだが当の二人はいまいち緊張感に欠ける様子だ。むしろこれが腹をくくった態度なのかもしれない。その場についてしまえば後は私に出来ることは一つ二つ口添えする程度、二世殿が上手く取り直してくれることを祈るほかない。

天頂に座す陽はすでに傾きつつある頃合いで、おそらくは師弟にとっては日帰り旅行にはならないことを示唆していた。

―――――

この実に重苦しい空気の場に、小心者の私は同席しなくて済んだことを心のすみでこっそり感謝してしまった。ことの始まりにおいて、ワトリア君が呼び出された王座の間は、あとの時とは比べ物にならないほどの重圧を伴った世界に切り替わっている。

一行は片膝をつく形で眼前の年若い女王陛下に平服しており、当然ながら中央にはサーン少年が、そして傍らにはエリシラ殿がいた。ワトリア君達一行はその後ろ、一歩離れた位置に並んでいる。

女王陛下は麗しい唇を固く真一文字に結んで、表情を分厚いカーテンのように覆い隠して淡い水色の瞳をサーン少年に、一心に向けている。あの様な表情を彼女が見せたのは、私の知る限りでは今回が初めてだ。

「その方、顔をあげてください」
「……ハッ」

出立する時の遠足気分はどこへやら、流石に空気を理解したサーン少年はぎこちない動作で顔を上げた。

「ことの経緯についてはすでにシャールから聞き及んでおります」

国家の象徴そのものが自分に圧をかけてくるのは、人間にとってはあるいは竜と同等に恐ろしいのかもしれない。そんな感想を抱くほど、少年の背は緊張感に満ちていたのだ。

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十八話:終わり|第四十 九話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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