見出し画像

5冊読了(7/1〜7/18)

1『作家は教えてくれない小説のコツ』後木砂男

2『プロを目指す文章術』三田誠広

3『すべての新聞は「偏って」いる ホンネと数字のメディア論』荻上チキ

4『火星年代記』レイ・ブラッドベリ

5『みらいめがね』荻上チキ/ヨシタケシンスケ



中学校の三年間、夏休みに読書感想文の宿題が毎年出されていたんですけど、僕はそれを一回もやらなかったんですよねぇ。
当然成績に関わってくるものではあったんですけど、何よりやりたくなさが勝って、やらないという選択肢を選び続けたんです。

それは先生の宿題の出し方が気に入らなかったからです。
何の本でもいいから自由に読んで感想を書きなさい、ではなくて、読む本が指定されていたんですね。
しかも一冊に。
これを読みなさいと強制されて本を読むのが当時の僕はもの凄く嫌だったんです。

僕は高校生から読書を始めたので、中学の頃は読書の価値など理解していなかったと思うのですが、でもなんとなく、とても大きな意味があって、崇高で高尚なことであるような気はしていたんですね。
だからいつか自分も本を読むのだろうとは思っていましたが、自分が人生で初めて読む本を、他人に決められたくはなかったわけです。

せめて課題となる作品を複数冊あげて、そこから読みたいものを選択させるとかにしてほしかったです。
夏休みの間にみんなで同じ本を近所の本屋さんで買うとか図書館で借りるとかしなくちゃいけなかったんですよ。
一学年100人ぐらい生徒いるんですよ。
なんでそんな争奪戦みたいなことしなくちゃいけないんですか。
もう僕としては他の人に譲ってあげようぐらいの意識で、自分はこの宿題はやらないと決めていました。

三年間で課題に挙げられた作品は確か、『星の王子さま』と『塩狩峠』と、あとなんか、『坊ちゃん』とか『金閣寺』とか『人間失格』とか『銀河鉄道の夜』とか、そのへんの作品だったかなと思います。
まず本を一冊読むのに膨大な時間がかかるし、読んでから更にその感想を書くっていう二段構えの試練に耐えうる根気も僕にはなかったです。
あっても気に入らないのでやりませんでした。

本は若いうちに読んでおいた方がいいっていうのは確かに一理あるとは思うのですが、その作品を他人に決められたり、宿題を提出する目的で読むというのは違うよなぁと今でも思います。
宿題を提出しなかったことで軽く怒られたし成績に響いた気はしますが、まあその程度のことで済んだわけで、あの頃の自分の判断は間違っていなかったなと思っています。
あんな宿題を真面目に提出しようがしまいが、大人になった僕が今では少なからず本を読み、その感想文を書くようになっているというのが事実です。

あの読書感想文の宿題があったからこそ、そこで読書にハマりその後も本を読み続けたという人もいると思います。
でも逆のパターンも多いと思います。
夏休みの宿題なんて大方、嫌々こなしていくものであって、それがキッカケで読書にネガティブなイメージを持ってしまって遠ざかる人も多かったのではないかと。

そういう意味では僕は、その課題になんとしても取り組まなかったことによって、読書に対する良い印象を崩さずに持ち続けられたのかもしれません。
まあ、もちろん全部都合の良いように捉えているだけなんですけど。


さて、
は小説の書き方の指南本です。
著者の後木さんはフリーの編集者の方だそうです。
色んな小説新人賞の第一次、第二次選考などをしてきた経験のある方。
つまりボツになる作品をたくさん読んできた方で、だからこそ解る小説の書き方のコツを教えてくれます。

こういう作品はダメ、という例を読むと、そりゃあそうだろうなぁと感じるのですが、きっと素人が実際に書いてみると、同じような失敗をしてしまいがちなんだろうなぁと思います。
物語やキャラクターの作り方、文章の構成や描写のテクニックなど、色んなノウハウが紹介されていますが、勉強になったというよりは、一冊の本として読んでいて面白かったです。

プロの小説家さんが普段意識していることや、正しい小説とはこういうものだというのを書いてくれています。
なのでこういう指南本を読むと、今後の小説の読み方も変わってきそうだなと感じました。


2も小説の書き方の本です。
小説や文章の書き方の本を読むのが興味深くて少しハマっています。
著者は『いちご同盟』などで有名な小説家の三田誠広さん。

1がこれから作家を目指す人が読む初級編であるとしたら、こちらはプロの作家が持つべき心構えとか、小説家として長く活躍するためにはどうするかとか、ある程度文章を書く技術を持っていたりそれに関わる仕事についている人向けの、中・上級編のような本でした。

小説に関しての著者の考え方を書いたエッセイのようでもあり、こちらも勉強になるというよりは楽しく読めたという感想を持ちました。
やはりこうすれば必ず面白い小説を書けるようになるという法則は無くて、文章術とか指南本とか言っても抽象的な説明や解説になるよなぁというのが、当然といえば当然だけど感じたところでした。


3は評論家でラジオパーソナリティである荻上チキさんの本です。
日本で発行されている新聞、特に全国紙の主要5紙を比較検討して、その特徴や政治的信条の偏りなどを詳らかしていく一冊です。

物凄く勉強になって、面白い内容でした。
凄いです荻上チキさん。
ラジオもよく聴いています。

メディアの中立性がよく話題になる昨今において、どこどこの新聞が報じているから何々である、みたいな意見をよく目にしますが、その意味が僕はよく解っていなかったのですが、これを読んでかなり解りました。
あと世帯や個人でどこの新聞を購読しているかなんて、なんとなくの記事の雰囲気やデザインや値段ぐらいでしか選ぶ基準がないと思っていたら、もっと深いところであからさまな差があるのだなということを知りました。

与野党の政治家の不祥事のニュースなんかをどのくらいの規模で報じたかを比べたり、記事中の特定の単語の使用数などをデータで表したり、記事を書くためにどの専門家によく取材をするかなどを比較することで、新聞各社の傾向を明らかにしていきます。
同じ内容の記事でも取り上げ方が違ったり、言葉のニュアンスも様々だったりして、その違いの分析がかなり面白いです。

データで比較しているだけなので、著者自身の政治的思想の偏りがもしもあったとしても、それはこの本の内容には反映されていないと思います。
どの新聞がダメでどの新聞が正しいかといった主張は含まれていません。
あくまで公平に冷静に、論理的に科学的に検証をしている様子が読み取れて、チキさんは信頼できる方だなぁと改めて感じました。


4はレイ・ブラッドベリさんの作品です。
これを読まずにSFは語れないというくらい、SF小説界では有名な作品です。
地球人が火星に行くお話です。

確か二十歳ぐらいの頃に読んでみたような気がするのですが、よくわからなくて序盤でやめてしまっていました。
それで自分にはSF小説は不向きだなぁと感じてしまっていました。
でもこの度、なんとなくなんですが読んでみて、とても面白かったです。

年代記と名の付く通り目次が年表になっていて、「二〇三〇年一月」から「二〇五七年十月」までの、数ヶ月置きの章立てのタイトルとなっています。
連作短編のような形式で、それぞれこれから火星に向かう人や、すでに火星に暮らしている人を主人公とした物語が進行していきます。

ブラッドベリさんって普通の情景描写や心理描写がポエムのように美しくて抒情的なんですよね。
それが未来の火星という情景を、幻想的だけど具体的に描写してイメージさせてくれていて、翻訳ものだけどこの描写は凄いなと初めて感じさせられました。

ストーリーもユニークだったりシリアスだったり色々で、特に「二〇三六年九月 火星の人」という章がユーモアがあってテンポも良くて僕は面白かったです。

この本の終盤では地球人が火星に移住することになった理由も語られて、それは今の現実の世界の人類にも通ずる警句も含まれているようで、良い物語を読んできた中での最後の重要なメッセージは読者の胸に深く刺さるものでした。

海外ものも古典もSF小説も苦手なのですが、自分が苦手なジャンルの小説も面白いと思えるようになったんだなぁと実感したし、やはりその分野の最高峰の作品は誰が読んでも面白く読めるものになっているよなぁということも体感しました。


5は荻上チキさんと絵本作家のヨシタケシンスケさんとの共著です。
一つのテーマでチキさんがエッセイを、ヨシタケさんがイラストを描くという、雑誌連載の企画をまとめた作品です。

チキさんが自分の生い立ちや生活や仕事のことを文章に書いて、それにヨシタケさんのほのぼのとして可愛いイラストが添えられていくスタイルが、妙に融合していて可笑しみがあって良かったです。

チキさんの生活環境やパーソナリティの部分で知らなかったことが明らかにされて、その事実に僕は驚きつつも、社会の動きや政治のニュースを鋭い視点で切っていくような評論家としてのチキさんの姿ではなく、学生時代のこととか趣味とか普段の日常のことが描写されていく文章に親しみやすさを感じました。

「それでは息がつまるので」という副題があるのもわかるような、読む人の気持ちを軽くしてくれるような内容でした。
とはいえその中にも、評論家さんらしくアカデミックな内容であったり、深く考えさせられるような部分もあって、そのバランスも心地よくて素晴らしかったです。

「みらいめがね2 苦手科目は「人生」です」という続編も出ているので是非読みたいと思いました。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?