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うつ病患者が真剣に「ストレス解消」について考える

ストレス解消ってなんだろう。

わたしの場合、体調が悪くていろいろ症状をググっても、「原因はストレスです!ストレスを解消しましょう!」の一点張り。それができたら苦労しねえんだ。わたしにとって「ストレスを解消しましょう!」というのは「裸一貫で月に乗り込んで宇宙人に挨拶しましょう!」くらい非現実的でありえないアドバイスだ。それはわたしがうつ病になる前からそうだった。地元の高校でひたすら無視されたり「ビッチは死ね」シュプレヒコールを浴びせられたり丸めた紙屑を投げつけられてクスクス笑われたりするうちに、ストレスの解消法を忘れてしまった。それが積もり積もって、適応障害を経て、うつ病というある種の解答に辿り着いた。「人間、適度にストレス解消できないとこうなりますよ」という見本になってしまった。

何年もバリバリ働けている人が異世界人のように感じる。わたしにとって働くというのは、入社からストレスで心が潰されるまでのカウントダウンである。先日、わたしの休職直前のメモが見つかったが、そこには「働くというのは、週5で9時間水を張った洗面器に無理矢理(上司によって)顔を押し付けられている状態。土日だけは解放されるが、すぐ月曜がやってきて、同じ目に遭わされる。これが40年以上続く」と、行き場のない苦しみが書き殴られていた。社会人の大多数はこの拷問に近いものを歯を食いしばって耐えているのだからびっくりする。もしくは拷問とすら思っていないのかもしれない。だとしたら、なおさら鼻と口以外に呼吸器官を獲得した異世界人だ。

生まれてこの方ストレスで精神を病んだことがない「異世界人」にうつ病を説明したいが上手い言葉が見つからないから、別のものに例えることにする。漫画『メイドインアビス』の上昇負荷という現象がこれに近いかもしれない。メイドインアビスの世界には、アビスと呼ばれる大穴があって、そこはいくつかの階層に分けられている。アビスは潜るぶんには何の問題もないが、地上へ上がろうとすると「上昇負荷」が発生し、体調不良などのトラブルに見舞われる。上昇負荷は深くに潜れば潜るほど大きくなり、人間が人間のまま生きて戻れるのは5層が限界で、6層まで行って戻ろうとすると、死ぬか「成れ果て」と呼ばれる人格も知性もない異形に変わるかの二択を迫られる。ストレスを受け続けるということはアビスに潜っていくことであり、深く深くに潜っていく前に地上に戻る、即ち軽微な上昇負荷のみで済ませる必要があるわけだ。わたしは戻る方法を知らないまま6層クラスの深度にまで潜り続け、気づけばうつ病という「成れ果て」に変わってしまっていた。うつ病ってのは謂わば「ストレスで脳がバグった状態」で、このバグはどんなソフトをインストールしても「発生を極力抑える」ことが精一杯で、「存在を根本から消す」ことはできないのだ。つまりどう足掻いても寛解が関の山で、健常者には戻れないと考えた方が適切だろう。悲しい哉、この点でも成れ果てに近い。期限内に解消できなかったストレスは、トラウマとなって心に降り積もる。トラウマの解消というのは、単なるストレス発散より遥かに難易度が高い。そうしているうちに新たなストレスがやってきて……という悪循環だ。そして「いつまでそれでグチグチ言ってんの?」と吐き捨てられるまでがセット。

そんなことを書いてる間にも、元彼ボイスで「いい加減にしろよ、殺すぞ」と脳内に響いてきたからさっさと本題に入ってしまおう。ストレス解消とはなんぞやという話だ。まずは、世間でよく推奨されるストレス解消法をうつ病の視点から見ていこう。

①筋トレ・ウォーキング・スポーツ各種

「ストレス解消」とググると大半のまとめサイトで勧められる方法。ストレスによって体調不良が重なりオデノカラダハボドボドなのに、さらに追い討ちかけるように体を痛めつけて何になるんだ!うつ病患者をマッチョにして何が楽しいんだ。よくよく見ると、「筋トレによって身体が引き締まる=何らかの成果を得られるという達成感が抑鬱状態の改善に繋がる」らしい。達成感だけなら筋トレじゃなくてもいい気がする。ただ、健常者の抑うつの軽減にはなるらしいから、まだ健康な方は無理ないペースでお試しあれ。

②しっかり寝る

恐らくいちばん敷居が低いのがこれ。寝るだけなら赤ちゃんでもできる。ここで一つ問題なのは、うつ病の症状として睡眠障害が起こりがちなことだ。わたしの場合は入眠困難(なかなか寝付けない)と早朝覚醒(朝早く目覚めてそのまま寝られない)が顕著だ。「しっかり寝る」という言葉には、「質の良い睡眠を取る」という意味が裏付けられている。水族館にある子供がヒトデやウニに触れる水槽のような浅すぎる睡眠を長々とすることではないし、過去の悪夢に魘されることでもない。ただし、寝る前にスマホを長時間見ないとか、一度眠剤キメたらすぐに電気を消して布団に入るとか、そこはうつ病に甘えてる場合ではなく完全に努力次第だろう。

③誰かと会話する

嫌なことは愚痴って発散してしまえという作戦だ。ただ、ここで考えてみてほしい。愚痴を言われるということは、目の前にいる他者の苛立ちや悲しみといった負の感情を、自分には1ミリも関係ないくせに共有しなければならなくなるということである。つまり、無関係な知人に愚痴るだけ愚痴って「私可哀想なの〜こんなにつらい思いしてるの〜」と悲劇のヒロイン面をしたところでみんな辟易するだけだ。それは時に人間関係に亀裂を生むし、それで崩壊した友人関係も多々ある。そのリスクを考えたら、愚痴なんて軽率に話していられない。悩みとか不満なんてものは、誰にも言わずにチラシの裏にでも書き殴って捨てればいい。もしどうしても誰かに話さなければならないとしたら、あくまで客観的事実だけを述べ、個人的な感情を織り交ぜないで話すことがベストだ。わたしのような人間が愚痴を言おうとするとどんなに客観的な言い方をしても凄まじく重い話になってしまうところに哀愁を覚える。戻れない。

④読書・映画・ドラマ・アニメ作品などの鑑賞

これはハマる時は本当にハマる。架空の作品に触れて、その内容に没入するというのは実に効果的だ。最近わたしはゴールデンカムイを一気読みしたがとても面白かった。メンタルが安定している時はこんな調子で大丈夫なのだが、集中力の低下という大きな壁が立ちはだかる時がある。いざYouTubeで動画見るかという気になっても、何も本編が始まってないのに15秒CMが入ると最初の4〜5秒でやめてしまう。綺麗に落ちる洗剤のCMを見に来たわけでも、よく知らない芸能人がビール飲む広告を見に来たわけでもないんだ。わたしはただサンシャイン池崎さん家の猫ちゃんのかわいい姿を見たいだけなんだ。YouTubeならまだ我慢できるが、テレビ番組の見逃し配信でスキップ不可の60秒CMを2本とかやられると、わたしは一体何を見ようとしてるんだろう?という疑問符が浮かんでは消える。そして集中力が切れる。テレビはリアルタイムで見ず、録画したものを後から見るようにしている。CM飛ばせるから。でもやっぱり自分のペースで読み進められる漫画がおすすめ。うつ病とか関係なく全人類ミスミソウ読んで。

⑤精神科で処方された薬を飲む

これがなきゃスタートラインにも立てん。うつ病の薬=副作用で太るというイメージがあるが、「副作用で太る薬だけは処方せんといてくださいよ!!」と常日頃から医者を恫喝しているからなんとか体型を維持できている。それでも体に合わないと吐き気が強く出たり昼間でも眠たくて仕方なかったりするから、医者と二人三脚で模索の日々だ。

他にもアロマ焚くだの腹式呼吸するだの見つかったが、キリがないのでこの辺にしておく。アロマの匂い苦手なんですわ。

こうやってストレス解消について調べているうちに、気付いたことがあった。筋トレとか映画鑑賞とかで発散できるストレスと、うつ病に至らしめるストレスって種類が違うのではないかと。仕事やプライベートでちょっとイライラ・ムカムカした時の気分転換と、いじめやハラスメントでズタズタにされた心を修復する作業との間にはかなりの乖離があるのではないだろうか。うつ病に必要なのは休息と継続的な治療というのが常套句だが、本当はこうなる前にいろいろ実践しておけばよかったのかもしれない。冒頭にも書いたが、わたしはストレス解消がドヘタクソゆえにうつ病になった。原因は大抵対人関係というか、悪意100%のいじめに近いようなものなので、過去のいじめのトラウマを乗り越える方法とかあれば教えてください(他力本願)。たぶんそこがキーポイントだと信じてやまない長月の夜。ワクチン打った腕が少し痛む。

ワクチンといえば、反ワクチン・マスク反対・コロナは茶番的なデモを全国各地で見るようになった。感染者が多い都内だけでなく、マジで田舎の各所でも行われているらしい。ノーマスクで太鼓や鈴をドンチャン鳴らして楽しげにしているデモ参加者を遠巻きに見ていると、「あー、ワクチン打っちゃったよ。この人たちの言うことが真理だったらわたし詰んだな。後悔先に立たずだ。2回目、やめた方がいいのかな……」などと自信の無さが出てしまう。この時点でわたしの人間的な欠陥が垣間見えるのだ。まあワクチン打つことが善であれ悪であれ、最終的に死が救済であることに変わりはないのだ。行くも地獄、退くも地獄。五臓六腑にデパスが沁みる。



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