『異端の鳥』(The paited bird)
用事の帰り、時間があり、映画でも見ようと映画館に行ったら、時間が丁度よかったし、ホロコースト関係の話ということで興味も沸いたので見てみました。(少し内容に触れます。)
っていう軽いノリで見るような内容ではなかった…。かなりの胸糞映画です。後で予告を見たけど、途中退席者が多いのもうなずけます。現に僕が見ている間にも何人か退席していました。(そもそもガラガラやのに。)
出てくる人、誰一人笑わない・楽しそうじゃない・幸せそうじゃない。主人公の少年は次から次へと災難に振り回されます。手を差し伸べてくれる人はほとんどおらず、出てくる人はほぼイカれた、クソみたいな人間ばかりです。(正しい表現ではないですが、感じたままです。)
この映画は、主人公の少年が、ホロコーストから逃れるため、田舎の家に一人疎開していましたが、様々な出来事に巻き込まれ、いろいろな人のところを転々としていく物語を淡々と描いています。
少年はいじめられ、迫害を受け、リンチに遭い、裏切られ、奴隷のように扱われ、性のはけ口になり…その連続です。あ、助かった!と思っても、どんどん裏切られてしまいます。
周囲の村人たちはまるで何かにとりつかれたようで、醜悪で、不気味な雰囲気を醸し出しています。(バイオハザード4や7のような雰囲気。)不倫相手の目をえぐり取ったり、ユダヤ人をどんどん撃ち殺していくなど目を塞ぎたくなるようなシーンもあり、それが全編モノクロ、映画内の天候も風や雲、雨、雷とその全てがどんよりとしていて息苦しい、さらに、セリフが必要最小限しかないので、詳細がわからないという救いようのない内容です。それが3時間。ラストでようやく光明が…といった感じでしょうか。
正直、映画館を出たあと、自分自身の気分の落ち込みも出てしまいました。
ここまで書くと、最悪な映画だったのかと思うかもしれませんが、僕の感想は逆です。衝撃的でした。何なんやこの映画は…とずっと思っていました。そして気づいたのが、きっとこの苦しさは、少年の体験を映画で疑似体験するように作られているのではないかということです。そのことも含め、3つに分けて考えてみます。
①息苦しさの連続
この映画、しんどいシーンの連続で、特に大きな起承転結もないので、いつまでこの苦しさが続くのかわからず、まだ救われへんのか、まだ救われへんのか…と思いながらいつの間にかラストになっています。
原作はポーランド出身の作家の小説だそうですが、現実を知らない僕は、この映画の中で起こっていることが、リアルなのか、誇張されているのか、判断できません。ただ、そのどうしようもない現実が果てもわからず続いたのがあの戦争のリアルだったのではないでしょうか。少年は意味も分からず疎開させられて、今どこなのか、誰が味方なのか、戦争がどうなっているのか、いつ終わったのかさえはっきりと分からず、いつ終わるともわからない苦しさの中必死で生き延びたのでしょう。上記の演出すべてが、少年の感覚を伝えてくれていたのだと思います。
②村とファシズム
もともと閉鎖的な田舎の村にはファシズムの効果がてき面だったのでしょう。ユダヤ人だということで、ここまであからさまに迫害を行う差別意識やムラ社会。常時誰かからの抑圧を誰もが感じており、力のあるものは虚勢を張り、弱いものは委縮するだけ。(るろうに剣心に出てくる新月村のような…。)はけ口は暴力、いじめ、酒、たばこ、性。それぞれが監視しあい、異物が入ってきたら極端な拒否反応を起こす。原題のThe painted birdの意味がよく分かります。
日本の戦争を描いた作品を思い出すと、こんな極端な人々の描き方はなかったので、これは誇張かな?とも思いますが、ただきっと当時は少なからず自分のことで精一杯で、人間の醜さがちょっとしたことで顔をのぞかせていたのではないでしょうか。特に見ながら比較したのは、『この世界の片隅に』です。あの作品は、戦争の苦しさの中にも人々は小さな幸せを見つけていたという内容ですが、本当はそれは単に家族や小さな仲間内での幸せの共有であり、常に周囲の目を気にしたり、重苦しい社会の雰囲気の中で、一皮むけばこの映画の人物たちと同じだったのではないかと思ったのです。
③少年の変化
少年は動物が好きな優しい子でした。素直で、瞳がきれいで、馬がけがをしていたら、「僕が助けてあげる。」という子でした。でした…。見ている者からしたら、最後の方の少年の変容や行動を容認してしまう気持ちを持ってしまいます。何なんだこの社会は。大人たちは。少年は口を閉ざし、目から色を失います。こんな救われない世界で生きていくって、生半可ではないよな…と納得してしまう部分があります。そして、それはきっと今の社会でもいえるなぁと考えていました。何だこの社会。大人は何をしているんだ。結局振り回されるのは、子どもです。不条理を突き付けられないといけない現実は戦争でなくとも起こっています。ここで踏みとどまることが、戦争につながる一歩を踏みとどまらせることになるのかもしれません。
長文でしたが、この映画から伝わってくるメッセージは一貫しているように思います。
「戦争はだれも幸せにしない」
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