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「女人訓戒士O.D」の冒険

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文豪太宰治が自身の体験から書いたと、勝手に設定した小説「女人訓戒」 文豪を半ば引退したと投げやりな彼は、今日も通いのオバチャン「竹子さん」と幸せに暮らしている 彼は今や不埒な婦女… もっと読む
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「ミナレヌモノ」

「ミナレヌモノ」

若い妻だったから、山の暮らしが耐えられなかったようだ
今日は長月(九月)の二十日目だ
今日までは厄日、明日明後日にも若い妻が戻らねば、この縁はひととせのものとしよう
迎えに行くには、ちと遠い女なのでな

この辺りでは刈上げ餅と言って、オレが稲刈り手伝いに行った田んぼの人が、餅をついて届けてくれた
それが十日前だ
この日は嫁いだ嫁が実家に帰っていい日になっていた
嫁の両親がいる人には、親の分だと二枚

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D  終

「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D 終

『待ちぼうけー兎の女』終

空気が、揺らいでいるように見えた

遠くに見えるはずの蜃気楼は、今自分の目の前に現れている

私は『その対象』に向かって歩を進めていた

私に気付き、こちらを見ている顔は不明瞭だ

遠いのだろうか、あすこまで

砂浜に続く入り口の道に

縁取りのように咲いたはまなすの花

私は裸足で・・

下駄を何処に置いて来たかな・・

近付けば、下半身から足先までしか見えない

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

『待ちぼうけー兎の女』⑩

俺はゾッとする女の不気味な声を、首の後ろ
耳元で吹きかけられて、今にも首を引きちぎられるのではないかと思った
心ノ臓が俺の鼓膜の中で鼓動し始めた

「おとっちゃん、助けて~!民吉さん、どうしてあたしを撃ち殺したの?民吉・・なぜ禁猟の雉を撃ち落としては食らった。明神様の御慈悲の使い、白雉まで手にかけるとは・・どうあがなうかはわかっておろう・・おとっちゃん、まっ暗い・・どう

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

『待ちぼうけー兎の女』⑨

マザー

子どものためならなんでもする

何をしても許される

それが母親というもの

いいや

分身であれば慈しみ
分身であるがゆえ切り刻む

母親である後に

彼女らは

女であることを選び、強調する

彼女らがはるか昔に失った膜

彼女らの細胞は爆発的に生き生きと輝く

女性ホルモンはその光り輝く白桃の肌と

たわわな乳房と

丸みを帯びた柔美な曲線をつかの間

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D

「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D

『待ちぼうけー兎の女』⑧

俺は頭だけ出るくらいの戸を開け、外を窺った

ガアガア・・ギイギイ・・

騒ぐ鳥ども

俺は透明に澄んでくる藍色の空気の中に

木という木

屋根の煤払い口にまで群がる鳥の

赤く光る目を見た

何が起きたと言うのだろう

俺が鳥を怒らせるような、何かをしたのだろうか

威嚇されている

怒りで我を忘れている臭いを放っている

山を下りて里に行けない

これではいわれな

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D

『待ちぼうけー兎の女』⑦

銀座三丁目付近

母の亡霊が出現する

アーク灯の周りに母の頭らしきもの三つ

ただ浮遊している

三つ頭で仲良くじゃれてこちら側には無関心のようだ

おそらくはじゃれているのではなかった

母の頭三つは視界すら見えていないだろう

上顎を突き出し、ふよふよと綿虫のように螺線を描いて、飛んでいる

私は時計塔を目指して歩く

人と人との歯車は噛み合わず

ぶつかっては欠

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D

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「待ちぼうけー兎の女」⑥

明日の朝は「ゆう」を背負って山を下りるという、大事な夜

俺はなかなか寝付かれず、うとうとと夢を見ていた

はっとして飛び起きると

周りの風景がぼんやりしていた

そこは山なのか

雪の中なのか

よくよく思い出せない

猫がいた

白い猫は赤い血の涙を流し

目が開かないので厳しい貌をしていた

兎ではなく猫の夢を見るとはな、と、うとうと思っていたら

ふっと目が覚

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

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『待ちぼうけー兎の女」⑤

仕方あるまい

私は食べることが好きだ

食は性慾にも関連して、私は女性というものが好きだ

缶詰めを見つけた

戸棚の引き戸を、左から右に引いたら

ぼた餅が出てくる予感があった

それは幻想だった

下の引き戸を開けたら、缶詰めを見つけた

少しの冷やご飯に鯖の缶詰、汁ごとかける

味見の素降らせるは雪のごとく

「私はね、味見の素しか確信が持てないんだよ。味見の素

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

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『待ちぼうけー兎の女』④

俺をそこに下ろすと、奴はそのまま埠頭に向かって走り去った

深夜零時にフェリーが出る

行き先は北海道だ

俺は物流トラックのドライバーとして紛れ込む

俺にはロシア・日本・中国・日系ブラジル人としての国籍がある

もちろん風貌が通用する上で使えるのは限りがあった

一番長く台湾とベトナムで過ごした

アフリカの奥地では・・チ◯コが小さいからNO!と追い返された

俺の

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

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『待ちぼうけー兎の女』③

俺は山の住人

片目の鉄砲撃ちだ

百匹目の獣を撃ってから

間もなく右の目も悪くなりだし

そろそろ土でも耕して暮らそうかと思っていた

ある日茸の出る山で、根っこにつまずいたのか、切り株に当たって首を折っ切った女が死んでいた

その傍らにはほんの小さな女の子が、あどけなく座り込んでおり、俺を見てうれしそうに両手をぱたぱたさせた

俺は拾い上げてあやしたが、なにぶん小

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

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『待ちぼうけー兎の女』②

待ちぼうけ 待ちぼうけある日せっせと野良かせぎそこへ兎がとんで出てころり転がり 木の根っこ

待ちぼうけ 待ちぼうけ待てばえものはかけてくるきょうは頬づえ ひなたぼこうまい切り株 木の根っこ

待ちぼうけ 待ちぼうけきょうはきょうはで待ちぼうけあすはあすはで 森の外兎待ち待ち 木の根っこ

拝啓

北原白秋さま、山田耕作さま

貴殿方より後に生まれな

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D

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『待ちぼうけー兎の女』①

「女は?」

「外に出ている」

「じゃ、すぐに出るぞ」

「ああ」

隣の部屋の前を通る時、不自然な沈黙の空気を感じた

息を殺して、開いているのかもわからないくらいにドアを操り、聞き耳を立てているんだろう?隣のおばさんよ

また女を残して(騙して)仕事にゆく

女には酒のツマミが欲しいと、買い物に行かせた

女は俺が長居をすると思って、喜んで出かけて行った

いなく

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

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シーン7【いまわの声】

教室の真ん中の窓が開け放たれ、風景の静止した昼下がり

手本から目を上げる頃、銀杏の葉が落ちてゆく

時折なんのはずみか、舞い上がりながらひらひらと落ちる

秋は一番短い

日差しが強いと汗ばんで、お気に入りのジャガード織りのがま口を持てない

なんだか手垢で汚してしまいそうで

銀杏と紅葉のコントラストが、秋の色だと思えた

そう言うのなら稲穂と甘薯芋の色もそうだ

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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

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シーン6

ある神経衰弱な男の場合

ー桜の下で会いましょうー

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老医者に言われた

神経衰弱なぞ寝ていれば治る

眠れぬから酒を呑む

酒を呑むから眠れぬ

今日もわたしは人の目を意識した

わたしの価値は人が決める

わたしの物書きの価値は・・

誰が決める?

「冷たい水の中はイヤよ。凍った湖も海もイヤよ。いつかは冷たい土に眠るのに」

彼女は言った

わたしと死の

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