見出し画像

「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

『待ちぼうけー兎の女』②

待ちぼうけ   待ちぼうけ
ある日せっせと野良かせぎ
そこへ兎がとんで出て
ころり転がり  木の根っこ
待ちぼうけ  待ちぼうけ
待てばえものはかけてくる
きょうは頬づえ   ひなたぼこ
うまい切り株  木の根っこ
待ちぼうけ  待ちぼうけ
きょうはきょうはで
待ちぼうけ
あすはあすはで  森の外
兎待ち待ち  木の根っこ

拝啓

北原白秋さま、山田耕作さま

貴殿方より後に生まれながら

呪われた我が身は

貴殿方とさして違わないときに死を賜らん

同じ時代に生まれ合った魂を

どうか許してください

私にも娘があった頃があるものですから・・

                                            或る廃人の中毒患者より


「所詮、身空世だ」

吐き捨てた

いつの間にやら時ばかりが過ぎ

掛時計の振り子が響きもしないのに

ちくたく  ちくたく  と   音がする

職業病ゆえ

御空は一色の闇夜

墨汁よりも淡く  洗い髪よりも濃く  纏いつく

ふらぅ・・

朝の時分、変な歪みが頭にあり

倒れる不気味さを一瞬先まで想像した

活字に飢え

私の脳は貧しき血を覚えたのかと思った

否や

私は活字を書き消耗したのだ

活字とは私の中のあらゆる蟲を

増殖させるのだった

今宵もどこぞに置いて来た

どの娘にかはわからぬが

飯を食わせるために

書いている

煙草も

酒も

紫煙などと妙美な煙ではなく

もくもくと黒い煙の中

呼吸は困難になり

息は白く濁る

酒はなく

怪しき目薬をそこいらの瓶の液体に垂らし

一気にあおいで眩暈しては書く


待ちぼうけ

待ちぼうけ

私は今年も死ねなかった

死はひとりぽっちでとんでいってしまった

兎も角

いまは

まだ死ねない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?