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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D

『待ちぼうけー兎の女』⑧

俺は頭だけ出るくらいの戸を開け、外を窺った

ガアガア・・ギイギイ・・

騒ぐ鳥ども

俺は透明に澄んでくる藍色の空気の中に

木という木

屋根の煤払い口にまで群がる鳥の

赤く光る目を見た

何が起きたと言うのだろう

俺が鳥を怒らせるような、何かをしたのだろうか

威嚇されている

怒りで我を忘れている臭いを放っている

山を下りて里に行けない

これではいわれなき攻撃を受ける

鉄砲はあるが、もう長いこと眠り銃だ

今の俺では指が震えて危険だ

威嚇射撃をして奴らが待っていたかのように
襲ってきたら、どうする

なにか、燻してみるか・・

俺は再び戸の隙間から外を見る

鳥に占領された林の木々の間から

一瞬消え

また一瞬と

消える影が来るのがわかった

見えたのではない

俺の過去の記憶が

九十九匹、いや百匹目の獣と瞬時に照らし合わせて出している、影の正体だった

それはおそらく四つ足であると思う

掻き消える影

百一匹目の獣

同時に、あの赤い目の雉の剥製を、背後に見た気がした

馬鹿な、あれは雉神社にあるはずだ

だがそのはずの雉の剥製からは、生体のような気配を感じ取れた

ほんの一瞬だけ

掻き消える影は大きく両手を構えた

射程内に入り込まれた!

戸が物凄い音を立てて蹴破られた

俺は両腕で防いだままの姿勢で、土間に転がった

はっとして上体を起こして目を凝らす

「キジ!おめぇ!」

俺は叫んだ

キジが四つ足の影と激しく組み合い、噛みつきあっている

キジの全身至るところが赤い血が吹き出し、毛が濡れて揉み合うたびケバ立った

「ぎゃん!」

キジが弾き飛ばされた

「キジ!」

キジの叫び声のあと、咆哮が聞こえた

地鳴りか?と思った

「ああ・・キジ、キジ」

四つ足の影がゆらめいた

殺られる!

その時、キジが横から飛び出して、四つ足の影と組み合い、ひとつの丸になりながら転がって行った

林の真裏は崖になっている

キジはあの崖に落ちるまで、影に食らいついて離れないだろう

俺はまた九十九匹の獣の時と同様、犬に助けられた

そして四匹目の犬を犠牲にした

俺は慌てて何も手に取らずに、幸い眠ったままの「ゆう」の息を確認すると、急いで背中に背負った

背負い駕籠をつけている時間はない

「ゆう」が起きていてくれれば、背中にくくりつけられるが、脱力していては俺ひとりでは無理だ

キジ、キジ、堪忍してくれな

必ずゆうの目を治して帰ってくるから

必ずお前の体を見つけてやるから

簾(すだれ)滝まで下りた辺りで、ゆうが起きた

「おとっちゃん」

「なんだ、ゆう?しょんべんか?」

「おとっちゃん。あたし、ぜんぜん目が見えないよう。どうしてぇ。真っ暗いよう」

泣き出したゆうは、俺の肩にしがみつき、俺はよろめいた

首の後ろを着物の襟ごと引っ張るから、俺は海老反りになりかけ、窒息するかと思った

「どうしたんだ、ゆう。落ち着けや」


やがてぴたりと動きがやんだ

「おとっちゃん」

「ゆうよ・・」

「おとっちゃん・・ううん、あんた・・民吉さん・・いいや、お前だよ。民吉」

俺は「ゆう」の声に重なる、その異様な声を聞いたとたん、背筋と心臓が凍るような気がした

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