見出し画像

「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

『待ちぼうけー兎の女』⑩

俺はゾッとする女の不気味な声を、首の後ろ
耳元で吹きかけられて、今にも首を引きちぎられるのではないかと思った
心ノ臓が俺の鼓膜の中で鼓動し始めた

「おとっちゃん、助けて~!民吉さん、どうしてあたしを撃ち殺したの?民吉・・なぜ禁猟の雉を撃ち落としては食らった。明神様の御慈悲の使い、白雉まで手にかけるとは・・どうあがなうかはわかっておろう・・おとっちゃん、まっ暗い・・どうして?あたしは民吉さんの女房なのに・・」

背中で俺の首を絞めながら、三人の人格の声が繰り出される

俺は九十九匹の獣に憑かれ、禁猟である雉を食い続けた

『妻のゆうも』『娘のゆうも』

俺が神の怒りにふれたから憑かれた

俺は首を手綱で引かれるように、エビ反りの格好で山の斜面を疾走した

さながら蓬髪の鬼神が二匹、踊り狂い走る

俺の目はすでに逆さまの点だけになり、ただ空の色だけが、視界の裾にたなびいているだけだった


*****


柔らかな日の光りが入る、白い部屋

あまりに眩しく輝く白い部屋は、抜糸された瞳を閉じたままの瞼でも、ひどく痛んだ

「急にバチリと目を開けないでくれたまえよ」

そう声がするのだけれど、接着したみたいな瞼はどう加減して開けていいのか

「こわい」

「大丈夫、徐々に慣れて来たよ」

「いたあい」

「目が生きている証拠だよ。手術は成功だろうね。幸い、片方の眼だけ、圧迫されて弱っていただけで済んだ。さあ、このライトを感じるかい?わたしの指が、顔が見えるんだね。よろしい。移植手術は成功したのだよ」


そして初めてあたしは鏡というもの
手鏡を持たされて、生まれて初めて自分の顔を見た
みんな白い長い服を着て、髪が黒々している

「なぜ、あたし髪が真っ白なの?」

「きっと山でこわい目にあったのね。恐怖で白髪になってしまったのよ。でも元気を出してね。目は見えるようになったのよ」

「あ!おとっちゃん、おとっちゃんは!キジ坊はー!!どこ?どこにいるの!?会いたい!会わせて!」

「キジちゃんには会えるわよ。お外で待っているわ。大怪我していたのにここまであなたを運んで、二人とも倒れていたのよ。。助かって本当に良かったわ」

「キジ坊良かった!おとっちゃんは!おとっちゃん、どこ!?」

看護婦さんは困ったような顔をした

おとっちゃんには、それからどんなに時間が経っても会えなかった

山に帰る日、あたしは首に白い布に包まれた箱を下げられた

おとっちゃんの骨だって

おとっちゃん、おとっちゃん、泣いていたらキジ坊が近づいて来て、くーんくーん鳴きながらあたしの顔をなめた

山に帰って来たあたしは、おとっちゃんの、残した畑を耕して、櫛を彫って里や町に売って暮らした

おとっちゃんの骨は畑の脇に埋めて、石を乗せた

看護婦さんが女の子なのに、鏡も櫛もないのは変よ、って手鏡と櫛をくれた
櫛を売る縁で、この秋、鏡職人の各務さんと一緒になることになりました

キジ坊もお嫁さんを見つけました
もう子犬が生まれます

おとっちゃん、なんで死んじゃったのかわからないけど

おとっちゃん、ゆうに目をくれてありがとう








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?