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『タコの心身問題』レビュー

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タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源 

ピーター・ゴドフリー=スミス (著), 夏目 大 (翻訳)

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数日ほど前でしょうか、どこかのTV番組で放映されたらしいイラストがネットで流れてきました。
丸いタコさんの絵が描かれていて、頭のてっぺんに心臓があり、両脇にえらと心臓、頭部の中央に大きな脳、そして、8本ある腕の根本それぞれに小さな脳がこれまた8コ。
たしか、『【悲報】タコは化け物だった、脳が9個で心臓が3個ある』とかいった煽り文句が書かれていました。

でも、それだけじゃないんですよね。

まずタコにとっては腕の部分が上で、丸い頭部(?)が下なんで、上下がさかさま。という話はおいといて、そんなことよりも何よりも、私的にもっともモンスター的に感じてしまったのは、中央の大きな「大脳」の中心を、人間でいえば喉、食道が貫いているってことです。
口からつながって栄養を吸収する胃腸的な部位につながっている食道が、なんと脳みその中心を貫通しているのですよ!

すごくないですか? 口から通った食べ物が、いきなり脳の真ん中通っていくんですよ。もっと言っちゃえば、口の周りが全部脳!
私はこの本のその説明を読んだとき、タコってどれだけ食通なんだろう。って思いましたね。
食べ物の味や触感の情報を、よけいな中継を経ずにダイレクトに脳に届けるシステムなんです。ぜったい人間よりずっと「味」にうるさいですよね。タコ。しゃべれないけど。

そして、人間同様の構造を持った「目」の不思議。目が進化の過程で生まれてくるはるか以前に、人間ら脊椎動物と別れ、別の進化の系統をたどった無脊椎動物・頭足類であるのに、なぜか人間そっくりの構造をしているという目と視神経。この目的のためにはこうした構造が最適だったのでしょうか。進化の謎ですよねえ。
でもって、当たり前ですがタコには骨がないので、この眼球よりちょっと大きな穴があったら、そこから全身をにゅるっと通り抜けられちゃうそうです。脳みそもなにもかも、うにゃっと伸ばして通れちゃう。これもまた不思議ですねえ。

そしてそして、各腕の根本にある神経節(小脳?)による腕の制御。とうぜん関節なんてない触手状の腕ですから自由自在にぐにょぐにょするので、大脳以外にここにも小さな脳みそを置いて分散処理しているそう。
実際、腕を切り落としてもこの小脳の制御で腕だけで動き回ったりするんだそう(そういえば、たしかに。魚屋さんで見たことある気が……)
さらに、ただ動かすだけじゃなく、たくさんある吸盤それぞれに触覚はもちろん、味覚を味わう「舌」に相当する感覚器まであるそう。

あらためて、やっぱりめっちゃすごくないですか? タコ。

少なくとも、我ら脊椎動物で哺乳類の人間からはまったく想像できない世界観と思考で生きているようです。

言葉はしゃべれなくても、身体の表面の色を自在に変えて、音声ではなく色彩や、自由に形を変えられる身体をつかっての文字通りボディランゲージでコミュニケーションを取り、タコたちの社会・コミュニティまでも存在している模様。そして水の中で三次元的に移動できる機動力。もちろん自由自在に動く8本の腕などなど。

先日紹介した『人工知能のための哲学塾』にもあるとおり、環境(身体の構造含む)が知能・心を形作っていくのだとおもいます。
こんな、人類とは全く異質な環境に生きるタコさんたちは、いったいどんな「心」をもっているのでしょうか。
原題の "OTHER MINDS" の通り、まったく我々とは違う世界で、違う心・内面・知性・思考形態なのでしょうね。

著者は本の冒頭で

「頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう」

と語っています。

まさにその通りだと思います。いつか将来、別の星の人たちと出会う日が来たら、この本に書かれていたことがきっと役にたつに違いありません(そうかな?w)

我々は自分の心・知性とは何かすらまだ完全にわかっていません。
我々とは別のMINDを持つタコさんの知性や心を知ることは、きっと、対称的に我々の「心」の構造を知ることにもつながるはずです。

だいたい、私たちは自分の顔すら鏡を使わないと見れませんもんね(もしかしてタコさんは二つある目の間をぐにゃって曲げたら自分の瞳を自分で見れちゃうのでしょうか・・・w)

ほんと、不思議な生き物です。タコ。そんなタコさんは何を思って、何を考えて生きているのでしょうね。

知れば知るほど、深く考えずにはいられない、めっちゃ知的に面白い本なのでした。おすすめです。

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