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『人工知能のための哲学塾』レビュー

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人工知能のための哲学塾

三宅 陽一郎 (著)

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著者の三宅陽一郎さんはスクウェア・エニックスでゲームの人工知能(AI)を研究開発されている方。ドラクエとかファイナルファンタジーの中に出てくるキャラクターたちの思考を作っている方です。

以前紹介した『人工知能の作り方』など、人工知能関係の本をたくさん出されています。
そうした本の中でよく三宅さんが語られていることでまず目からうろこだったのは、「そもそも知能というのは環境にそって(環境と共に)作られていくもので、たとえば脳みそだけがあってもそこから知能は生まれないのではないか」というお話です。
SFファンには有名なキャプテン・フューチャーのサイモン・ライト博士などのような、脳みそだけの存在で最初から生まれた場合(この博士の場合は元は人間の身体がありましたからちょっと違うのですが)、どれだけ高度な計算能力があってもうまくいかないのではないか。
身体(しんたい)問題なんて言い方もあります、環境・世界との相互関係がないと、つまり身体が無いと、そこに知能は生まれないのではないか。という疑問ですね。

三宅さんは、長年「人工の知能」をつくることに携わっていました。(ゲームの中のAIですから環境世界は仮想空間ですけれど、そこで機能する人工の知能という意味です)そこで実践しながら知能とは何か、知能を作るにはどうしたらよいのか。を、エンジニアリングの観点から常々考えられてきた方です。

本書の冒頭でも語られていますが、人工知能とは、高度になればなるほど、そして考えれば考えるほど単純にエンジニアリングだけの範疇では扱えなくなってきます。そもそも作りたい「知能」って何? って根本の疑問にエンジニアリングだけでは答えられません。答えられない疑問の答えは書けず、書けないものは設計できないのだから作りようがありませんものね。
知能をプログラミングするには、知能とは、知恵とは何か? 精神とは、心とは何か? といった非常に哲学的な問題に答えなくてはならなくなります。
そこで、今度はエンジニアリングではなく哲学のほうから光をあてて考えてみよう。ということになったわけです。

今回のこの本は、そうした疑問に、哲学的にかなり真剣にしっかりと踏み込んで書かれています。
なにしろ、ご自身が、環境とその中で機能するAIを実際に作っているのだから。頭で、脳みそで考えているだけの(失礼)哲学者の方々よりはるかに現実に則しているわけです。(地に足がついています。これを哲学用語でシンボルグラウンディングと言います。嘘ですw)
その経験からの知見がたっぷり詰まっている稀有な本なのですね。

さて、この本、2015年5月から2016年6月まで全六回で開催された「人工知能のための哲学塾」というリアルなイベントの講演録でもあります。

その塾では、「我思う、ゆえに我あり」のデカルトから、フッサールの現象学、ユクスキュルと環世界、デリダ、知覚論、身体と知能、etc,etc…と、順にわかりやすく解説されています。

三宅さんは自分は哲学の専門家ではないと最初に断られていますが、こうした哲学を実際に手法としてゲーム内AIに取り入れて改善しつづけてきた方ですから、解説がとにかくわかりやすい。実践してきた裏付けがあるって強いですねw
難しい哲学書を読んでいるとたいてい眠くなったり頭痛くなったりしてくる私ですけれど(笑)この本はもちろんそんなこともなく、非常にエキサイティングに読み通せました。

面白くてためになる、知能とは何かという根源的な問いについて考えを巡らせられる、知的コーフンの書なのです。

この本の全資料(資料、レポート記事、動画)は以下のリンクから参照可能とのことです。

動画で講演内容も見れちゃいます。太っ腹ですね!


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