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『戦争は女の顔をしていない』レビュー

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戦争は女の顔をしていない 1

小梅 けいと (著), スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(原著), 速水 螺旋人 (監修)

2015年にジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの主記である『戦争は女の顔をしていない』のコミックス版です。

この本を読むまでぜんぜん知りませんでしたが、ソ連では第二次世界大戦中、100万人をこえる女性が従軍し、看護婦や軍医としてのみならず本当に兵士として武器を手にして戦ったのだそうです。
男女同権・平等を歌う社会主義の理想が後押ししたのか、男性のように徴兵こそされなくても、自ら志願して戦場へ向かった女性たち。
その多くが帰らぬ人となり、なんとか生き延びた彼女らも戦後は世間から白い目で見られ、みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかったのだそうです……。

監修の速水螺旋人さんの解説によると、この戦争でソ連が失った人命は軍人・民間人あわせてなんと約2700万人!!。(日本の第二次世界大戦での戦死者は約300万人だそうですから、その規模の多さ恐ろしさがわかります><)
当時のソ連の人口は約1億9000万人だったそうです、つまり、全人口の7%弱!! おおよそ戦いに出られる若者(つまり働き手としても優秀で子孫を残せる人々)がほぼすべて、1世代分がごっそり失われた計算になるそうです。
まさに総力戦、国の全力を注いでの戦いだったのです。人の国の事はいえませんが、なんでそこまでして戦ったの? とつい思ってしまうのです。

しかし、その理由も、螺旋人さんが書いてくれています。

この人類史上最大の凄惨な戦いには多くの要因があるが、ナチの世界観・人種戦争としたことが大きい。ナチは、ソ連と言う社会主義国家を破壊し、そのヨーロッパ部をゲルマン人が移住する生存圏と見なした。元の住人であるスラブ系民族は奴隷とするのである(比喩ではない)。ここに妥協の余地はなかった。

恐ろしい。そんな敵が攻めてくる。国の、どころか、人種の存亡をかけた戦いだったのですね……。

そんな、独ソ戦に若い身を投じた女性たちが居たわけです。平等に、人間として、男たちだけに任せることを良しとせず、民族の敵に立ち向かった女たち。
命がけで戦ったのに、戦後はなぜか顧みられることのなかった彼女たち。
本書(の原作)は、そうした、当時従軍された500人以上の女性たちから聞き取りをおこない、『大祖国戦争』の隠された真実を明らかにしたのです。

さて、その漫画版。

富野由悠季氏による帯の文章では『蛮勇』だなんて書かれています。たしかに無謀な企画にみえますが、この、絵の力は本当にすごい。

私なんて読んでいて各話で必ずと言っていいほど泣きました。めちゃ泣きました。原作も読んでみましたけれど、「ひどい(つらい)おはなし……」って思っただけで、ここまでは泣かなかった気がする。
しっかりとやさしい線で描かれたコミックの絵の圧倒的な説得力、真実味が、とてつもない感情移入を引き起こすのです。
そうそう、小梅けいとさんって、(いまさらですが)『狼と香辛料』のコミック描かれている方なんですよね。そりゃすてきな絵なわけです。

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原作の文面がそのままマンガのふきだしやモノローグに書かれていますが、セリフだけじゃわからなかった、軍服などの服装・帽子・記章や、彼女たちがみている風景、文化的背景までできる限り忠実に、丁寧に丁寧に描かれています。
(顔写真など、情報があるものはなるべく似せて描いているそうです)

コマの中の、美しい絵はもちろんですが、行間ならぬコマ間にひろがる情景を、小梅けいとさんの圧倒的な想像力と感情移入誘引力(?)を、ぜひ感じ取ってみてください。そして、涙してください。当時、祖国を守るために戦った100万人の女性たちのために。

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