志兎鷺 羅々亜

小説や文学評論、思索等を発表していきます。同名でTwitterもやっていて、呟きはそち…

志兎鷺 羅々亜

小説や文学評論、思索等を発表していきます。同名でTwitterもやっていて、呟きはそちらで。御感想等、お気軽にいただければと思います。よろしくお願い致します。

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  • 文学論

  • 【文学論】文学と太陽

  • 逃避行(仮)

    ケルアックがやったような《自動記述的な》小説を書いてみようと、「上司を銃殺した男が女と逃げる」とだけ決めて、後はプロットも推敲もなく筆任せに書いていきます。

最近の記事

川端康成『青い海黒い海』論 1

『青い海黒い海』は1925年(大正14年)の作である。『第一の遺書』『第二の遺書』という2篇に大分され、『第一の遺書』では、主人公と、17歳の年に結婚の約束をしながらもそれを破った『さき子』という女性について語られる。 川端康成の生涯について少しく興味を持つ者であれば、ここで『伊藤初代』のことを思い浮かべることが自然であろう。15歳の時に川端と婚約しながらも、自分には『ある非常』が出来たと手紙を送り一方的に婚約を破棄してしまった女性である。彼女については多くの書籍が出ている

    • 【文学論】芥川龍之介 『おぎん』

      芥川のおぎん、といわれてピンと来る人は、相当な芥川龍之介フリークと言って差し支えないだろう。彼程の高名な作家であるから、端作であってもたまたま目にするという機会はあり得るが、一見するとよくある殉教小説であり、キリスト教徒を扱った代表作である『俸教人の死』と比べて、強い印象を残す作とは言い難い。 というのも、随分単純な筋だからである。舞台は「元和か 、寛永か 、とにかく遠い昔」で、「天主のおん教を奉ずるものは 、その頃でももう見つかり次第 、火炙りや磔に遇わされていた」という

      • 【文学論】文学と太陽 序論①

        文学とはつまり、太陽のようなものである。作家達は、その光を上手く調整して、心地の良い陽だまりを作って、読者をそこに招待する。安全で暖かい場所。その物語の中で、読書達を遊ばせること。多くの作家達にとって、文学とはそういうもので、より魅力的な筋書きとか、適切な比喩とか、人々を引き込む書き出しについて語る時、我々は太陽の光の操り方を話しているのだ。 太陽は、我々にとってなくてはならないもので、全ての源泉であり、我々がそれを受動的に浴びている限り、他の何よりも我々に優しい。しかし、

        • 最後の梨

          1 「今日売れんかった分は、もうワヤにせんならんのう」 源の嘆息のような言葉に、隆二は、前髪を弄りながら、ふうんとだけ答えた。浮き足立った夜に遊んだ酔客達が、彼らの隣を過ぎていく。 ワヤにするとは言っても、本当にゴミにしてしまうわけではない。売れ残った梨は、まとめて工場に送られて、ごみ収集車の後ろについてるのとそっくりな機械で、グチャグチャにされ、グミやらジュースやらの原料になるのだ。だから、別に無駄になる訳ではないのだが、自分の育てた梨に拘りのある源は、それをワヤに

        川端康成『青い海黒い海』論 1

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          1本
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        記事

          【短編小説】 赤色 黄色

          「晩秋というのは、何だか悲しいものですね」 私は、何の気なしにそう言った。 腰を下ろした石段の冷たさで、静かに座っているのが辛かった。 空気はあざとい程に澄んでいて、木枯らしが目の前の土を撫でて過ぎてゆく。 私の隣に座った彼女は、しかし何とも答えずに、ただ自分の足元を見やっていた。 黄土色の長いスカートが季節の感を引き締めている。風が吹く度に、彼女の髪の甘い匂いが鼻先を通った。 参道の向こう、手水舎の屋根に、ふらふらと名残紅葉が舞い落ちて行った。今年は

          【短編小説】 赤色 黄色

          逃避行(仮).3

          「暗いのはいいにしても、あっついわねえ」 そう言いながらエミリが髪をかきあげると、微かな汗の匂いを感じた。しかし、それはエミリの本来の体臭である甘い匂いと混じりあっていたので、不快な感じは一切なかった。俺もべっとりと汗をかいていたので、きっと腐った果物のような匂いがしただろう。自分の体臭は感じにくい。そういえば、人は、鏡に映して自分を見るとき、脳のごまかしで、他人が見るよりも少し優れて見えると聞いたことがある。他者から見られる自分と、自分自身が見る自分は常に異なっているとい

          逃避行(仮).3

          【文芸評論】『送り火』について 「役割」と暴力の色彩(革命及びテロリズム)

          高橋弘希氏の『送り火』は近年の芥川賞受賞作の中でも傑出した作品である。 まず、文章が極めて巧みであり、作者自身も「日常のスケッチの中から〝送り火〟は生まれた。」と語っているところであるが、全編を通して、廃校が決まった中学校を中心に、山奥の田舎町の風景を正確なタッチで捉えている。受賞者インタビューの中で、聞き手が「高橋さんの描写や語彙がクラシックな文芸小説を彷彿とさせる」と述べている通り、この作品中にはおよそ日常会話では使用されない語彙が頻出する。それでいて、近年の作家にしば

          【文芸評論】『送り火』について 「役割」と暴力の色彩(革命及びテロリズム)

          【映画評論】ノーカントリー

          ※ネタバレを含みます。ご注意下さい。 『ノーカントリー』は、コーエン兄弟が監督を務め、2007年度のアカデミー賞で、監督賞、作品賞、助演男優賞、脚色賞の4部門を獲得した作品である。原題は、『No Country for Old Men』で、日本でのタイトル名では省略されてしまっている「for Old Men」こそが、作品の核心の部分であり、映画は、3人のOld Menを軸に進んでいく。 簡単にあらすじを追うと、若い保安官が拘束した不気味な男が、腕につけられた手錠で、本部へ

          【映画評論】ノーカントリー

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          逃避行(仮).2

          タクシーが神保町に着くまで十五分とかからなかった。途中、パトカーが追って来たりしやしないかと、運転手に不審に思われない程度にミラー越しに何度か背後を確認したのだが、それらしい車は(勿論俺は、覆面パトカーの見分け方などまるで知らないのだが)一台もなかったようだ。さすがに、非常線が張られるまでにはもう少し時間がかかるのだろう。 太陽がやたらと眩しい。夏日照りだ。それにしても、太陽の光はこれ程澄んでいただろうか。こんなにも、白い、透明な光線だっただろうか。俺が勘定も済ませずに勝手

          逃避行(仮).2

          逃避行(仮).1

          エレベーターに乗り込んだのは、犬飼と俺の二人だけ。ついに、そのチャンスがやって来たのだ。俺は、スーツの内ポケットを、上から摩ってみる。確かに、そこには硬い感覚があった。お笑い種だ。今日一日、ずっと俺は、胸のあたりを膨らましていたのに、誰一人それを指摘するやつはいなかった。後で、「確かに、彼は、スーツの中に何かを隠し持っていました」と、何人もの奴らが証言するだろう。隠し持っていた!確かに俺は隠し持っていたのだ。しかし、それは、誰にも見つからぬように、コソコソと、周到になどという

          逃避行(仮).1