息子を背中で感じきった5分間のこと

その日
学校から帰ってきた1年生の長男はちょっと疲れていて
私もカラダが重たかった

私が黙って四つ這いになり進みながら
目に止まった埃やゴミを
指や掌ででちまちまと集めてはゴミ箱に入れる
ということをしていたら

毎度のことながら
背中に5歳の次男が乗ってきた

と思ったら

なんか違うな…

あれっ?!
長男だった…!!

驚きを悟られないように
何もなかったかのように
私は長男を背中に乗せたまま
カーペットの上を行き来しながら
さっきまでと同じ動きを
ペースは落としつつも繰り返した

埃や髪の毛を集めては
ゴミ箱へ…


背中の長男は
何もしゃべらない

ただ静かに
私の揺れに身を任せている

…静かな数分間

…これはたぶん
私にしかわからない泣けるポイント

長男は
助けて欲しい時
頼みたいことがある時
私のことを
高い声でしつこくしつこく呼ぶ


疲れたら
抱っこやおんぶ
求めるてくることもまだある

けれど
こういうかたちで
前触れなく
スッと懐に入ってくるような甘え方を
彼はこれまでほとんどしたことがない

次男ならよくあること
乗っかってきた時は次男だと疑わなかったくらいだもの
だから長男がこれをしてくるなんて
本当に驚いた

惜しみなく全体重をあずけてくる
次男より細身で軽い
そのカラダが自分の背中に沈み込む感じを
私は一生懸命
とらえようとしていたと思う

本当は振り向いて
頬を擦り寄せたかった

でもそれをしたら
降りて逃げてしまうような気がしてやめた

1秒でも長く
こうしていたい…と思った



赤ちゃんの時からそうだった
おっぱいは私の目を見てせがむ
一歳を過ぎると
言いたいことがあれば私の目を見て
ペラペラと饒舌に訴える

だけどそれで私が抱き上げると
プイッとそっぽを向いて
目が合わなくなってしまう

私が「この子…?」と違和感を抱いたのは
この小さな
けれど繰り返される出来事がはじまりだった

その物悲しさは
何にも喩えようのないもので
彼のするどい観察眼とただならぬ記憶力とのアンバランスさが
ますます私を混乱させ
うまく人に説明できないまま
何年もが過ぎていった


ご縁あって出逢えた
タツヤさんからのアドバイスで
日々のちょっとしたことを変えた

例えば
彼のそばを通る時に
背中、肩、腕、
あたま、頬や耳に触れる
スッと撫でるだけのこともあれば
少しの間さすることもある

撫でるにとどめるか
さすったり抱きしめたりするかは
その時の彼の様子によって使い分ける

迷惑そうにする時もあれば
不思議そうにじっとしたあと
舌を出して私を舐めようとしたり
呼応するように求めてくることもあるのが興味深い

触れるなんて
それだけのこと?

と思われるかもしれないが
積み重ねの力はすごいと今ならわかる

就寝前に足や手をゆっくりさするのも
最初は嫌がっていたのに
少しずつさせてくれるようになった

できる日とできない日がある
自分も疲れているのに
エネルギーをしぼり出すように子どもに奉仕するのは
極力やめるようにした

必要なケアは山ほどあるが
ベストを尽くそうと思うと
私が倒れてしまう

できていないことじゃなく
できたことにフォーカスしよう

今日も学校に行けた
無事に帰ってきた
おやつや食事でわりと栄養がとれたし
あたたかい布団で
大好きだよ、また明日ね
とささやいて
安心感の中で眠らせてあげられる

それだけでも
私はよくやってるんだ

そう考えることにした


息子たちは
私が以前よりも少し軽くなったことに気づいているようにも見える



きっと他にも色んなことが絡み合ってのことだろうけれど

この日長男が
愛情表現ともとれるかたちで
とてもナチュラルに「安心感」を見せてくれたこと

その時の彼の居場所が
私の「胸」ではなく
「背中」だったこと

震えるような気持ちになった

ああ
なんて彼らしいのだろう…

5分くらいはそうしていただろうか

ふと満足したのか
無言のまま
自分からするすると降りていった

間もなく
今後こそ
間違いなく次男が乗っかってきた

そうそういつものこれね!
ずっしり、たっぷり感!

それにしても
よく待っていたじゃない?

兄と母との
ただならぬ雰囲気を観察して
きっと遠慮していてくれたんだね

ふたりめは
本当にすべてをよく見ているなと思う

次男は背中に
だらんと乗るだけじゃなく
ぎゅうーっとしがみついてきたりもして 
やっぱり全然ちがうんだ

長男には長男の
次男には次男の
それぞれの表現と育ちがあって

どちらも尊くて

どちらも心底 愛おしい

だから子育ては
やめられない


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