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キックボクシング6章 ~美奈さんに誘われて~

「ダメじゃ!」
「ダメだから!」
「・・・・・・はい」二人にそう言われ、仕方がないので大翔は帰ることにした。

更衣室で着替え、シャワーを浴び、帰る支度が終わるとエレベーターで下に降りた。エレベーターから出ると、美奈が居て俺のことを待ってくれていたようだった。
「お疲れ。大翔くん」
「お疲れさまです。包帯ありがとうございます」
「いいよ。あたし医学部だし。これくらいできて当然よ」
 医学部⁉ 美奈さんって超ハイスペックだったのか。どおりで包帯の撒き方が上手いわけだ。
「穂香さんと優菜さんは一緒じゃないんですね」
「穂香はまだやってると思う、優菜はもう帰ったはずよ」
「来たときは一緒だったけど、帰りはいつもバラバラに帰ってるんですか?」
「今日はたまたま一緒だっただけよ。それにしても大翔くんって本当についてないね。丁度この時間は仕事終わりのプロも来るし、何年もやってる経験者だらけになる時間帯だったのに」
「そうだったんですか・・・・・・めちゃクソ残念です」
「とりあえず、足が治るまでの間、上半身を重点的に鍛えてね。あと、足はなるべく使わない。それがただの痣なら十日間で治るから」
「十日間かぁ。なんだか果てしなく遠い気がしますよ」
「もしその傷が『足関節外側靱帯損傷二度(あしかんせつそとがわじんたいそんしょうにど)』だと歩けるけど走れない状態。これだと二ヵ月は治らないの。早く治したいならできるだけ脚首に負担を掛けないようにね」
 さすが医学部! すげぇなぁ。言ってることが何にも分からないや。呪文みてぇだ!
「気を付けます!」
「まだ十七時前くらいだけど、この後予定とかある?」
「無いですけど・・・・・・?」
「そう、じゃあどっかご飯行く? まだ高校生だし、あたしが出してあげるから」
大翔にとっては、初めての家族以外の女性との食事だったので緊張感があった。しかし、大翔は大学生と話したことが無かったので、良い機会だと思い、美奈との食事の誘いを受けた。大翔が足を怪我していることから、駅から極力近い方が良いという事になり、二人は八王子駅近くのファミレスに向かい、店に入った。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
「はい」
「ご案内します」
 二人は案内された席に着き、メニューを見た。大翔はすぐに頼むメニューを決めたが、美奈がまだ選んでいる最中だったので、気を遣わせないようにメニュー表を捲(めく)って選んでいるふりをしていた。決まったかどうか聞かれると思っていたが、何故かチラッと大翔のことを見た美奈が注文ボタンを押した。その後すぐに店員が来て、注文内容を聞きに来た。
「ご注文をお伺いします」
「具だくさんシーザーサラダで」美奈がそう言い大翔の方を見たので、大翔も注文をした。
「担々麺セットお願いします」
「ダメ。あんたは肉食べなさい。あと野菜。あたしが頼むからそれ食べなさい」
「・・・・・・はい」
 食べたい料理の決定権が剝奪されたけど、女性との食事ってこういうもんなのだろうか。
「担々麺セットはキャンセルで、大盛りカットステーキと、エビとアボカドのサラダ、以上で」
 店員さんは注文内容を繰り返すと、その場を離れた。
「あんた明日から高校生でしょ。食べ盛りなんだから肉とか野菜とか食べなさい」
「外食するとついついラーメンに目が行ってしまうんですよ」
「まったく、これから肉体改造するってのに。ラーメンなんか食べて良いわけないでしょ」
「確かに、言われてみればダメかも知れないですけど、美奈さんはサラダしか頼んでないじゃないですか」
「あたしはダイエット目的でジム通ってんだから夜は少なめにして当然でしょ? 何でプロ目前のあんたと同じもの食べると思ったのよ」
「か、返す言葉が無いです」
「よろしい。それにしてもあんた気が利く奴だったのね」
「どういうことですか?」
「メニュー決まってたのに、あたしが選んでいるからって決まってないふりしてたでしょ」
「やっぱりバレてたんですね。ああいうと時どうすればいいのか分からないんですよね。せかすのは変だし、とりあえず美奈さんがページ捲らなくなったら声かけようと思っていたんですよ」
「大翔くんってまだ中学終わったばっかのくせに、本当に良くできてるわね。あたしが中学生の時そんなこと気にしてなかったけど。喧嘩ばっかしてる人であんたみたいな性格の人いないよ」
「ちょっと美奈さん、喧嘩の話は出さないで下さいよ。俺高校近いんですよ。もし同じ高校の人に聞かれてたら俺の高校生活が終わっちまいますよ」
「ふふっ、高校入ったら目立たないグループに入ろうにとか考えてたりするの?」
「そこまで考えてないですけど、高校に入ったら俺が他校の奴らやヤンキー相手に大乱闘スマッシュシスターズ通称スマシス(喧嘩)をしていたことを知らない人ばかりなんですよ。普通の学校生活を送る大チャンスじゃないですか! 廊下を歩いていて、肩が当たっても理不尽に泣かれることが無いんですよ? こんなチャンス絶対逃さないですって!」
「喧嘩のことスマシスって言ってるのね。まぁ、あんまりこういう場で喧嘩って言葉を出すのは良くないけどさ。・・・・・・ってかあんたどんな中学時代を過ごしてたのよ。廊下で肩がぶつかっただけで泣かれる人なんて見たこと無いわよ」
「普通に廊下を歩ける日が来るのを、心から待ちわびるような中学時代でしたね。いや~高校の入学式楽しみだな~」
「あんたの入学式を楽しみにする気持ちだけは、一生かかっても分かりそうにないわね。こんなの絶対共感不可能よ。それにしても意外ね、そこまで荒んだ中学時代なら、尚更大翔くんは目立たないグループ路線だと思うけど? 中学時代にイケイケグループの子たちって、人付き合いが面倒臭くなることがあるらしいのよ。それで高校では極力目立たないようにってね」
「俺、別に中学の時にイケイケグループに入ってたって訳じゃないですよ。だからと言って目立たない子の方に友達がいる訳でも無かったんですけどね。蓮介ってやつ以外からは話しかけられることもなかったですね」
「蓮介くんって子、凄くいい子ね。あんたみたいな不良に関わってくれるなんて」
「蓮介も不良でしたよ」
「その子も不良かい! 中学で不良だったら普通イケイケグループの方でしょうよ? 高校だとそうもいかないんだけどね」
「そう言えば初めはイケイケグループだったかも? 中学入って初めての他校とのスマシス(喧嘩)で、俺と蓮介以外がスマシス(喧嘩)しなくなったんだっけ。まあ、結局そのスマシス(喧嘩)が見つかってキックボクシング部に入ることになったんですけど」
「スマシスってゲームをして遊んでいるようにしか聞こえないわよ!」
「とにかくあれっすよ、中学時代は同じキックボクシング部の蓮介と過ごしてたんですよ」
「蓮介くんもキックボクシングやってたんだね。強かったの? 蓮介くんは」
「あいつはアマチュアミドル級無敗、キックボクシング部で唯一俺と同じで無敗だった奴です」
「そうなんだ、あんたの中学って凄い中学なのね、蓮介君とは同じ高校に行ったの?」
「いや、別々のジムからスカウトが来ていたので、お互いジムから近い高校を選んでいて、高校からは別です」
「へぇ~、それじゃあ、蓮介君に負けないように頑張らないとね」
「はい! 勿論です!」
「大翔くん、普通の学校生活おくるんでしょ? 雷ノ辺高校だったら、勉強大変だから普通に過ごしたいなら勉強も頑張らないとね。少なくとも、毎日二時間は勉強しないと普通の高校生活は無理よ。あと、英語は頑張った方がいいわね。夏休みの宿題が大変なんだな~あそこ」
 やけに詳しいな。もしかして美奈さんって・・・・・・。
「美奈さんって、母校雷ノ辺高校ですか?」
「そうよ。だから大翔くんはあたしの後輩になるって事ね。勉強分からない所があったら教えてあげるわよ?」
何だと⁉ じゃあ、俺がもっと早く生まれていれば、こんなに美人で可愛い美奈さんと同じ時に同じ高校に通えていたのか⁉ 何で、何でもっと早く生まれて来れなかったんだ。
 大翔は悔やしがって俯いた。
「どうしたの?」
「何でもないです。ちょっと母親に文句を言おうかと思っただけです」
「意味が分からないんだけど」


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