芸人と博打の関係について考えさせられる「月亭可朝のナニワ博打八景 金持たしたらあかん奴」(吉川潮/竹書房)
ボインは赤ちゃんが吸うためにあるんやでぇ~
お笑いのクズ芸人ブームがまだ続いている。
どんなクズかというと、飲む打つ買うの打つ、主に博打と借金がポイントのようである。
暴露系ユーチューブの人気といい社会がますます裏に向かっている気がしなくもない。
そのクズの範疇とは別に、霜降り明星の粗品やインスタントジョンソンのじゃいの競馬の話題も、頻繁にネットニュースになっている。
芸人と博打というのはいつの時代も縁が深い。
月亭可朝はその最たる存在だった。
テレビでの全盛期は昭和40年代~50年代前半で、カンカン帽にチョビ髭姿、♪ボインは~の「嘆きのボイン」を大ヒットさせ、歌に司会に大活躍した。
しかし、大衆的にはスキャンダルメーカーとしてのほうが名高い。
ギャンブルで膨大な借金、美人局に引っかかり脅されて裁判、思い付きで参議院議員に立候補、野球賭博とストーカー行為で逮捕、話題に事欠かない。
それでいて凄いのは古典落語家としての腕も天下一品だったことだ。
「月亭可朝のナニワ博打八景」は、古典落語家としてはおいておき、あえてお笑い芸人にして博打打ちの可朝にフォーカスした半生記だ。
なんども博打で大惨敗しながら、いつもなぜか切り抜けてしまう。
「野球賭博はなんであきまへんのや」
若い方の刑事が呆れ顔で答えた。
「暴力団の資金源になっとるからに決まっとるやろ」
そこで可朝は膝を叩いた。
「それやったら大丈夫ですわ。わし、トータルで買ってますさかい。
暴力団の資金を吸い上げているということですわ。
お上から表彰状をもらてもええんとちゃいますか」
芸人になった可朝は息を吸うように、あらゆる博打を始める。
そしてポーカーから野球賭博にはまっていき、借金が一千万を越えて劇場にまで取り立てが来る。
劇場の最前席に座って睨みを利かす取り立てのヤクザを、可朝は舞台の上からからかって追い返した。しかし、こじれる前に組長の懐に飛び込んで話をつけ、返済金の一部をこまめに届けに行くうちに懇意になり、お付き合いと引換えに値引きされ、完済できてしまう。
次に借金が三千万円に膨らむと、家を抵当に入れ六千万円を借りて、まず借金の三千万を返し、残り三千万を野球賭博の一試合に全額突っ込む。その大勝負に勝って倍にし、銀行にも返済。
武勇伝ととるか、正気の沙汰ではないと考えるかはそれぞれだろう。
ただ同じ時期に売れっ子漫才Wヤングの中田軍治が、借金で切羽詰まり野球の3連戦に1千万円づつ突っこむ大勝負に出て、全敗し飛び降り自殺する。
人の運というものは恐ろしい。
その次にはまったオイチョカブでは七千万円まで借金(のちにイカサマとわかる)が膨らみ絶体絶命となるが、知己の伝手で名人の助力を得られ、驚くことに完済することができた。
こうして博打での危機を奇跡的に乗り切ってきた可朝は、最初のポーカーの師匠やオイチョカブの名人を見て、プロと素人の差を痛感し、実業に転じることにする。
しかし実業の借り入れとなるとどうしようも出来ずに、自宅を失うまでになったのは皮肉な話である。
芸人で稼いだあぶく銭はいくらでも博打に使えたが、実業で得た金は博打に使えないという話は、可朝という人物または芸人と博打の本質をついているようにも思える。
芸人と博打は親和性が強い?それホント?
飲む打つ買うは芸の肥やしといわれていた。
演芸人だけでなく、芸能全般での話である。
可朝は劇場の楽屋で賭博禁止になったことがきっかけで、長らく所属した吉本興業を止めた。可朝にとって芸と博打は切っても切れない関係だったのだろう。
現在の芸人にも、博打の持つ緊張感やスリル(もっと健全な娯楽性なのかもしないが)を求め続けるタイプがいる。
趣味なら本人の自由、好きでたまらないのも価値観も自由。しかし芸人=はみ出し者=ギャンブルといったイメージに囚われているタイプには、ちょっとうんざりする。
特にそういう”芸人だから”発言をされると…。
芸人として可朝を評価し可朝も慕った立川談志の博打はあくまでも遊び、ビートたけしは芸人人生自体が博打だから博打をしないというのも有名。当たり前のことだが、芸人は博打やらなきゃという話はない。
一方で、実業家や営業マンなどで、博打が仕事に役に立つと熱弁する人間を何人も知っている。実業のシビれるような決断の場面で、博打で培った胆力が役に立つなどと言われれば納得できない話でもない。
ただ博打をしない実業家でも、大胆な英断を下す人もいる。
月亭可朝の半生から感じたのは、人と博打には相性があり、それとは別に適性もあるということだ。
たぶん博打は、芸や仕事と相関関係があるのではなく、その人個人の資質との関係でしかない。
なにはともあれ月亭可朝、好きだなぁ。人間は理屈じゃないのだ。
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