見出し画像

東京グランドキャバレー物語★31 同窓会はキャバレーで!

    その日時はいつもよりワクワクしていた。
数週間前、私はひょんなところで高校時代の友人に会ったのだ。
「今、何しているの?」
 と定番の話題になり、私たちは近くのカフェで話しをする事になった。
   卒業後、叩けば大量なホコリが舞い上がる私たちも、高校時代は間違いなく純真無垢の華麗なる乙女であった。
   A子は、どこにでもいる普通の女子高生で、どこかの誰かみたいに早弁や居眠りをするなど見た事もない、極々真摯に学業に専念する品のある女子であった。それが、今こうして私の目の前に現れたA子は、品の良さを残しながら短めの髪を茶色に染め、グラマラスなボディにさりげなく付けたネックレスが胸元で揺れる。怪しい雰囲気を醸しフエロモンを飛ばしながら歩くと、すれ違う男性達が振り返るほどだ。目の前にいるホステスの福より色気があるとは。一体何が彼女をこんな美魔女に成長させたのだろうか?羨ましい・・。
「ねぇ、今、仕事何しているの?」
と再びA子が聞いてきた。
   ホステスよりも色っぽい彼女を前に、うつむき加減で小さく答える。
「実は、〇〇駅近にあるグランドキャバレーって所で、ホステスをやっているんだ」
彼女がどんな反応をするか、上目遣いにA子の反応を見ながら言葉を待った。
「えぇ!凄い。ホステスなんだ!キャバレーとか聞くとワクワクする!私なんか近所のスナックに旦那と行った事があるぐらい。キャバレーってどんな感じなの?女性でも行かれるの?」
と矢継ぎ早に聞いて来た。
 思ってもいなかった彼女の反応に、いつの間にかテーブル越しに彼女の手を握りしめたていた福。
「もちろん!女性だって大歓迎よ!だけど、お一人様1万円以上をお持ちになって来てくれると良いかな~。スナックとはちょっと違ってキャバレーって所は、少しゴージャスなんだ。ショーがあったり、ダンスも出来るし。来てくれたら、もちろんホステスの私がご案内します!」
 営業トークが始まる。目の前にいらっしゃるのは同級生のA子であり、お客様予備軍である。
「じゃあ、B子とC子も誘ってみるね。」
「えぇ!嬉ぴい~。だけど、諭吉と一緒に来れるかな?大丈夫かな」
「大丈夫よ!諭吉の二、三人ぐらい連れて行くわよ。皆、金持ちなんだから」
私の心配を見透かしたように、A子は笑った。
 私を除いて高校時代のクラスメートは金持ちになったのか。人生悲喜こもごもだ。
 私は、金はないが自由を持っている!さらに、普通の主婦では、なかなか出来ないホステスを生業にしているのだ。楽天思考の私は、そう考えた。幸せの価値観は、それぞれが違うのではあるまいか。 
 数日後、同伴で三人のお客様がいらっしゃる。それも同級生だ。
ホステス冥利に尽きるとは、この事だ、これが幸福でなくて何であろう。
 
 待ちに待ったその日は、意外に早くやって来た!
お客様は、三人の美魔女達である。いつも以上にキャバレーの雰囲気が違う。あちらこちらから痛いほどの視線を感じる。低い福の鼻が一瞬高く見えるのは、気のせい?
「久しぶり~。変わっていないわね。あなたがグランドキャバレーでホステスやっているってA子から聞いたから、嬉しくて飛んできちゃった」
ハイタッチをしながら、A子を含めB子やC子と盛り上がる。
「凄い素敵な所ね。ゴージャスなホールね!驚きだわ~」
「さすがにホステスって感じでドレスが良く似合っているじゃない!」
 口々にグランドキャバレーを絶賛してくれる三人の友!
 奥の席に三人をご案内する。目立ちそうで目立たないその席は、ステージも良く見え、ダンスホールにも簡単に行かれる特等席、つまりロイヤルボックスである。まず、この席に私のヘルプをしてくれる女性を選ばなければならない。ここは、少し難しい作業だ。選択ミスは許されない。
 同級生なので、昔の私の行いを知っている。数学の追試受けた、とか悪い事して親が呼び出されたと言う黒歴史が暴露されたとしても口が堅い女性を選びたい。
 私は、金魚さんをお呼びした。彼女は一匹オオカミだし、群れを嫌う。
そして、もう一人はベテランで話題豊富な雀さんを呼んだ。私の失敗談も若い時はそんなもんよ、と言ってくれそうである。
「今夜は、宜しくお願いします」
テーブルには、ビールを始め、焼酎、ウイスキーのボトルがところ狭しと並べられ、おつまみも三種類が用意された。
「さぁ!今日は同窓会だから、飲んで踊って弾けよう!」
「乾杯!!!!!」
 カチン、カチンとグラスを重ねる音だ。
焼酎を氷とミネラルウオーターで割る、ウイスキーはロックでとガンガンと行く。飲む、飲む、飲む。
 同窓会とは、女性の酒豪の集まりだったのか!
「隣のクラス担任がタイプだったんだよね。だけど苦手な物理の先生だったから、ただ見とれていたからテスト最悪だった」
「あの部活で来ていた実習生いたじゃない?イケメンだったわ。
モテモテの彼とは何もなかった残念だったな。今なら落とせる自信あるんだけど」
今から20年以上の時は過ぎている。
過ぎていないのはそれぞれの思い出の中の女子高生の私たち。
「踊ろう!」
誰とはなく、声を掛け全員で生バンドの演奏の中ホールに出て踊り始めた。
何年たっても、あの頃のまま。同級生の私たちの夜は更けていった。
 
             つづく