米田 素子

1970年4月1日生まれ ボウヤ書店をつくっています。 ボウヤ書店はこちら⇒http:…

米田 素子

1970年4月1日生まれ ボウヤ書店をつくっています。 ボウヤ書店はこちら⇒http://rondellionew.seesaa.net/

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  • 星のクラフト(肉付け中)

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星のクラフト 5章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載

 ローモンドの円盤が部屋の真ん中に鎮座している。他のものは破壊されたり、吹き飛ばされたりして、床の上に散らかっていた。 「どうする、これ」  ローモンドは脱力して言った。私は久し振りにローモンドの生の声を聞いた。ここしばらく、私の《心の部屋》に入り込んでしまっていたローモンドとは、心の声で連絡を取り続けていたので、声を聞いて嬉しかった。 「片付けるしかないね」  私は呆然としつつも、それほど無力感はなかった。そもそも派遣されてここにいるだけだ。壊れたものは捨て、それ以外は元の

    • 星のクラフト 3章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載

      《ローラン、食べ物をちょうだい》  ローモンドの声で目が覚めた。声と言っても、私の中で響く声。 「食べ物って?」  彼女がどんなものを食べるのか知らない。 《その前に、まずはテーブルと椅子。ローランの心の中には食事の為のテーブルと椅子もないのよ》 「そんなはずはないけど。私、寝っ転がって食事をしたりしないわよ」  心外だった。 《でも、ないんですもの。ひょっとしたら、子供の頃にどんなテーブルと椅子を使っていたか知らない、とか》  ローモンドの声は少し憐れんでいるかのように聞こ

      • 星のクラフト 1章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載

         いつものカフェの扉を開けた。  JBL製スピーカー側の席がお気に入りなのだが、残念なことに先客に奪われていた。どうやら先客の老女は老眼鏡を忘れたらしく、目を細めてスマートフォンの画面と格闘している。  私はその席の斜め前から少し離れた厨房前辺りの席に座り、まっすぐに目をやれば自然に視界入る壁を眺めた。床から天井までがガラスで作られ、透き通っている。  もちろん壁というよりも、それは窓なのだが、構造上開くことのないガラスが部屋の南側一面に嵌め込まれているので、ガラスの壁と呼ん

        • 星のクラフト 6章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載

          「この絵画を見て、どう思うか」  司令長官はランに0次元の製作場であった建物の絵を手渡した。 「どう思うか、というのは?」  ランは絵と司令長官を交互に見た。早朝から急に部屋に呼び出したりして、司令長官は一体何を言い出すのか。 「君たちがパーツ製作をしていた建物はこの21次元では崩壊し、あたかも思い出のように一枚の絵画になってしまった」  司令長官はホテルの厨房から届けられたコーヒーポットの取っ手を自ら握りしめて持ち上げ、二つのカップに注ぎ、ランにも勧めた後、自身でも一口飲ん

        星のクラフト 5章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載

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        • 星のクラフト(肉付け中)
          7本
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          80本
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          2本
        • ハイシャサン
          1本
        • 路地裏の花屋
          59本
        • 短編
          17本

        記事

          連載小説 星のクラフト 6章 #11

          「リオさんの鍵を持ったままで、居なくならないでくれよ」  ランは最初に見たもぬけの殻の部屋を思い出していた。《名前》とだけかいて、クラビスは消えていた日のことを。 「大丈夫ですよ。私は故郷の星に帰り、受け継がれている書物を再びこの手にすることが目的ですから」 「そうだったな」 「スマートフォンで連絡を取り合いましょう」  クラビスが上着の内ポケットからスマーフォンを取り出し、アドレス交換を求め、ランはそれに応じた。 「堅苦しいことばかり考えてないで、ホテルのカフェテラスで気楽

          連載小説 星のクラフト 6章 #11

          連載小説 星のクラフト 6章 #10

          「リオはクラビスの作った三つのパーツをダウンサイジングできず、こちらに持ち込めなかったことについてどう思っているかな」  パーツは全て揃わなければ新しい中継星は作れないはずだった。 「パーツ類は全てダウンサイジングできるはずだと指示されていたとしたら、リオは私のオブジェをパーツではないと思ったのではないでしょうか。一応、どうしてダウンサイジングできないのか、と考えたかもしれませんが。たとえば、パーツ収納庫に光線を当ててダウンサイジングする方法があったとしましょう。そうすれば両

          連載小説 星のクラフト 6章 #10

          連載小説 星のクラフト 6章 #9

          「クラビス、そう言えば、工房では彼女と仲良しだったのでは? リオはあなたのことをハルミだと思っていましたが、ハルミは唯一リオとだけ仲良くしていたと言っていたけど」  ランはひとまず冷静さを保ちたかった。 「ハルミがどうしていたかはわかりません。ハルミは今、インディ・チエムになっているところだろうけれど」  クラビスは親指と人差し指で輪を作って唇に挟み、息を吹き出して音を鳴らしインディ・チエムを呼ぶ。クリーム色の鳥はから舞い戻ってクラビスの肩に止まった。「ねえ、どうだった、ハル

          連載小説 星のクラフト 6章 #9

          連載小説 星のクラフト 6章 #8

           コントロールされ尽くした21次元のものとはいえ、森は樹木と土の香りがする。  ランとクラビスは来た道を折り返すことにした。 「地球外の存在はどうしてそれほどまでに地球に興味があるのかな」  ランは歩きながら、ずっと誰かと話してみたかったことを口にした。 「謎が多いからでしょう」  クラビスは樹木の間から差し込まれる光に目を細めつつ歩く。 「謎?」 「地球の人間には様々な感情があるでしょう」 「地球外の存在には感情はないのか」  ランの育った環境には地球外から来た存在しかいな

          連載小説 星のクラフト 6章 #8

          連載小説 星のクラフト 6章 #7

           ガラスの板を完全に覆ってしまうと、クラビスはさらに林の奥へと黙って歩き始めた。インディ・チエムは枝から枝へと飛び移りながら、その少し先を行く。道案内しているのだろう。 「どこへ?」 「さっきの地下の建物の屋根の先に当たる場所へ」 「確か、そこにあるスイッチを押すとガラス天井が開くのだったね」 「今回、スイッチを押すつもりはありませんが、場所を教えておきましょう」  先を急ぐように飛ぶインディ・チエムを追いかけながら、クラビスはランを振り返り、微笑んだ。  似たような樹木が植

          連載小説 星のクラフト 6章 #7

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-16

          長編小説『ポワゾン☆アフロディテ№X』読み直し続き。 《第六章  八田一之介は携帯が鳴る音で目が覚めた。金指翔太からだ。 「八田さん、先日、持って来てしまったこの赤い傘はどうしましょうか」  半分身体を起こし、時計を見ると九時過ぎ。 「どうしようかって、好きにすればいいんじゃないか」  ――傘をどうしようかなんて、翔太のやつ、電話を掛けてきてまで相談することなのか?  窓のカーテンをわずかに開けると白い光が差し込んで、同時に沈香が香った。気のせいか、それに伽羅が混じる。

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-16

          連載小説 星のクラフト 6章 #6

           森の地下にあのパーツ製造工場があるのだという。司令長官の言う通りここが21次元地球だとすれば、21次元地球にとって、0次元の建物はこんな森の土の下にあることになる。 「21次元に到達した時、僕たちがそれまでに居た建物は目前で崩壊したように思ったが」  ランは土の隙間から顔を出したガラス板から内部を覗いた。 「私も見ました。全員の目前で崩れ落ち、絵画とオブジェに変わり果てたのです」  クラビスはうなずく。 「でも、ひょっとして、この地面の下にある建物は、以前から21次元に保管

          連載小説 星のクラフト 6章 #6

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-15

          長編小説『ポワゾン☆アフロディテ№X』読み直し続き。 《第五章    2 旅立ち  これもまた、まるみの事件をほぼ解決し終えた八田一之介の日常風景だ。  『球体の島』  封筒が届いたのは正午になる直前だった。入り口のドアが開き、大きなサングラスを掛けた巨漢の女配達人が事務所のドアの外で無表情に立って 「オトドケニマイリマシタ」  とだけ言う。  A4サイズの青い封筒。私立郵便局と判が押してある。  初めて私立郵便局の存在を知った時には、何かの詐欺ではないかと疑った八

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-15

          連載小説 星のクラフト 6章 #5

           肩にインディ・チエムを乗せたクラビスは、さきほどランが歩いて行った方向とは逆側へと歩き始めた。 「その方向に行くと、林はすぐになくなり、すぐにホテルの駐車場に出そうだが」  後に付いて歩きながら、太陽や方角を確認する。 「途中で降ります」 「降りる?」 「すぐにそのポイントに辿り着きますから」  インディ・チエムは肩に止まったまま、羽根を緩く羽ばたかせた。  五分も歩くと、林の中に切り株があり、《中心から5キロ》と彫り込んであった。クラビスはそこで立ち止まり、しゃがみ込んで

          連載小説 星のクラフト 6章 #5

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-14

          長編小説『ポワゾン☆アフロディテ№X』読み直し続き。 《第五章  1 帰還  これもまた、まるみの事件をほぼ解決し終えた八田一之介の日常風景だ。 『ヨメイセンコク』  ある早朝。  朝食を終えた八田一之介が二階から事務所に降りてきたところ、沈丁花の香りが鼻についた。これはいつも通り、やや大きめの案件が持ち込まれるお知らせだろうかと息を大きく吸い込んだが、わずかに香りが違う。通常なら焦げた沈丁花のようだが、もっと生々しい、咲いたばかりの新鮮な花のものだった。  ――

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-14

          連載小説 星のクラフト 6章 #4

           オブジェは主に木で出来ていた。薄く切って板になったもの、角材を裁断したもの、樹木の皮、楊枝のごとく細い棒。  森が豊だったから、あっという間に見つかるだろうと考えていたが、それは全くの誤算だった。風に吹き飛ばされた落ちてきた枝や、剥ぎ取られた樹木の皮は豊富にあったが、人工的に用意された板や角材、楊枝はない。  ランは地面や樹木の上方をじろじろと眺めながら、びっしりと落ち葉の歩き積もっている林の中まで歩き回ったが、一時間歩いてもこれといった成果はなかった。  気付くとずいぶん

          連載小説 星のクラフト 6章 #4

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-13

          長編小説『ポワゾン☆アフロディテ№X』読み直しつづき。 《第五章  1 帰還  これもまた、まるみの事件をほぼ解決し終えた八田一之介の日常風景だ。  『金の鍵』  八田一之介はとある会計事務所で社長の愚痴を聞いていた。  近頃の若い人はどうのこうのといった、ありふれた愚痴。そう言う社長も一之介よりは十歳以上若く、早々と隠居した親の後を継いで従業員を使う立場になったものだから、自身の貫禄が追い付かないこともあるのか、時々、一之介を呼び出しては答えようのない疑問ばかり

          解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-13