米田 素子

1970年4月1日生まれ ボウヤ書店をつくっています。 ボウヤ書店はこちら⇒http:…

米田 素子

1970年4月1日生まれ ボウヤ書店をつくっています。 ボウヤ書店はこちら⇒http://rondellionew.seesaa.net/

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小説1 駅名のない町

小説『駅名のない町』 作 米田素子 〖本編 全編掲載〗   本編文字数 約37000字  ジャンル  ソフトホラー  制作開始  2010年  私の最初に書いた小説。 目次 1.あらすじ 2.プロローグ 3.第一章 前任者のノート 4.第二章 絵描きの男 現る 5.第三章 暇人同盟 6.第四章 マネキンと最終電車 7.エピローグ 8.あとがき 《あらすじ》  主人公の永尾祐一は十九歳の春、とある駅の駅員になった。  不安に思いながらも意味不明に湧き上がる希望を抱き、誰

    • 前略草々 主観的解読『泥棒天国』2

      前略  先日、夜中に急いで書き取った「主観的解読『泥棒天国』」には、後日談があった。  前回書き取ったものは⇩  さて。  ほぼ徹夜して書き取った日は、午前五時頃眠りについたにも関わらず午前10時頃目が覚めて、それから一日中、本の整理や掃除をした。眠いはずなのにそうでもなく、なんだか楽しんで掃除をすることができたのだった。  これも、雀のチュンタのもたらしたタイガーアイ似の宇宙石のパワーかなと思い、夜になって、ベランダの掃除をしようと外に出たら、チュンタの植えた雑草に蕾が

      • 前略草々 主観的解読『泥棒天国』

        前略  『ブラウン神父の童心』から始まったブラウン神父ものの解読。ここまではX (旧Twitter)への投稿で終わらせていたが、『ブラウン神父の知恵』の第二話『泥棒天国』はここに記述する。このブラウン神父ものは一応ミステリー小説となっているので、露骨にネタバレするのもよくない。しかし、解読しようとするとネタバレは避けられない。なので、まだ読んでいない人で、これから読もうと考えている人は、この解読はその後で読むようにしてほしい。  ざっくりと、どういう話かと言うと、「ブラウ

        • 長編小説 コルヌコピア 16

          九章  3 セピア色の事実 「まさしく、この人だ」  通された記録保管所の一画でトウジョウマキオの顔写真を見て、アユラは今度こそ倒れ込みそうになり、寸前で大家に支えられた。  写真はセピアに色褪せている、でも間違いなく、トウジョウマキオだとわかった。後ろで結んだ長髪の中に一筋だけ白髪になった箇所があり、唇の右下にくっきりとした痣がある。  モノクロ写真ではわからないが、痣は赤紫で、タトゥーかと思うほどくっきりとした花びらの形をしている。髭を生やして隠してもいいんだけどね、

        小説1 駅名のない町

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        • 小説の棚
          1本
        • 前略草々
          120本
        • コルヌコピア
          16本
        • 星のクラフト(骨子連載)
          108本
        • 星のクラフト(肉付け中)
          10本
        • カラスの羽根
          12本

        記事

          長編小説 コルヌコピア 15

          九章 2 ピンポイントの地へ  案内された談話室で、アユラと大家ができるだけ詳しく経緯について話し終えると、図書館員はしばらく黙り込んだ後、 「謎めいていますね」  と、顎の辺りを、実際には生えていない髭があたかも存在しているかのように、何度も撫でた。 「謎めいているどろこじゃないの。オーバーコートは実在しているのだから」 「下宿先、もう行ってみました?」 「近くまで行ったけど、全く景色が変わってしまっていて」 「ピンポイントまで行っていないんですね」  図書館員は銀縁眼

          長編小説 コルヌコピア 15

          長編小説 コルヌコピア 14

          九章 1 オーバーコートを受け取った現地へ  かつてのクリーニング屋探しの日は汗ばむほどの陽気だった。ところどろこに白雲が浮かぶ青空で、クリーニング屋探しといった目的がなければ、心底ドライブ気分になれるだろう。大家が約束通り車を出してくれて、ナビに大まかに行先を設定して、早速向かう。 「私の下宿先の住所しかわからないなんて」  当時の記憶はすっかり消え去っていて、住所でさえも実家に電話をして教えて貰ったのだった。 「大学時代って楽しいし、忙しいし、あっという間だからね」

          長編小説 コルヌコピア 14

          長編小説 コルヌコピア 13

          八章 現在の地図に存在する過去の時間 1 オーバーコートから抜け落ちたもの 「解体してしまったけれど、本当によかったのでしょうか」  大家は資料を一枚手に取って眺めながら言う。  アユラは集会所に備え付けられたホワイトボードの上に、大家が解体したコートの写真を貼り付けていった。 「いいのよ。どうせ捨てるつもりだったのだから。トウドウさんの手紙にもそうしてくれと書いてあったのだし」  ホワイトボードはコートの写真でいっぱいになる。袖、襟、身ごろ、マチ。写真の上に赤や青のマグ

          長編小説 コルヌコピア 13

          長編小説 コルヌコピア 二部 ここまでのあらすじ

           内田アユラはアーティスト養成プロジェクトのオプションツアーから戻ってきたところだった。月尾チェルナが間違って隣の島に渡ってしまったことが心配だったが、連絡があるのなら大丈夫だろうと本部に言われ、しばらく様子をみるつもりだ。  帰宅したところでアユラの住んでいるアパートの大家に声を掛けられ、大家のところにアユラ宛ての郵便物が届いたと渡された。大学時代の知人であるトウジョウマキオからの手紙で、大家宛ての封筒の中に、さらにアユラ宛ての封筒が入って届いたらしい。内容は、《トウジョウ

          長編小説 コルヌコピア 二部 ここまでのあらすじ

          連載小説 星のクラフト 11章 #9

          「どうして、その部分だけは画像なんだろうね」  人間がひとり抜けられる程度の大きさの円。それは他のガラス部分と同じ色を反映している画像なのだという。私の視力では確かめられないものの、ローモンドの言葉に嘘はなさそうだった。 「ひとつには他のガラス部分とは同じではないことを表している」  ローモンドはうっすらと汗を掻き始めていた。「丸い形に切り取られているのよ。その内側と外側を分ける境界線はほとんど見えないように」 「だましてるってこと?」  私の問いに、ローモンドはうなずいた。

          連載小説 星のクラフト 11章 #9

          連載小説 星のクラフト 11章 #8

           建物の中は薄暗く、しんとしていた。窓ガラスと、たった今開けた扉から差し込むわずかな光が空気中の埃を浮かび上がらせている。 「明かり、点くかしら」  目を凝らして壁を隈なく見て、スイッチの在り処を探し出した。オンにすると、天井の蛍光灯が灯る。床の上に作業台と丸椅子があり、壁には板や棒が立て掛けてあった。鉄製の裁断機、精密測定器、顕微鏡などが、その傍にきちんと並べて置いてある。作業台には紙と筆記具もある。室内が乱れた様子もなく、何もかも、きちんと整理整頓してある。 「作業所ね」

          連載小説 星のクラフト 11章 #8

          連載小説 星のクラフト 11章 #7

           ナビゲーションシステムが点滅し始めた。 「そろそろ着く」  辺りはほとんどが農地で、ところどころに住宅や集会所がある。 「崩壊した建物なんて、どこにも見当たらない」  ローモンドは車窓にへばりついて外を見た。 「崩壊した後、すっかり片付けられたのかもしれないね」 「誰かに聞いてみる? そういう建物がなかったかどうか」 「不審に思われても困るけど、それが一番手っ取り早いかしら」  私は水車小屋の横にある空き地に車を停めた。  相変わらず空は青く晴れ渡り、空き地横に一本だけ植え

          連載小説 星のクラフト 11章 #7

          連載小説 星のクラフト 11章 #6

           翌朝、外はからりと晴れ上がった。  食堂での朝食の時、前回のホテルと同じように、宿泊客はローモンドと私しかいなかった。ここでもローモンドは《カオリ》と名乗り、言葉を発することができない設定をシェフに教え込んだ。前回とは違って、このホテルのシェフは何も疑う様子はなく、私が何かを言うと、何についても「そうですか」と言い、従順そうな目は無関心の色を帯びていた。無関心に徹することが、自身を守護することだと決めているかのように。 「この辺りで村ひとつ分の人間がいなくなったエリアがある

          連載小説 星のクラフト 11章 #6

          連載小説 星のクラフト 11章 #5

           到着したホテルには、やはり年長のシェフが居て、一日目に宿泊したホテルと同じように二人をもてなしてくれた。 「ここは最初のホテルとほとんど同じようだけど、本棚はなかったね」  深夜、ベッドにもぐりこんで眠る前にローモンドが呟いた。 「通常は本棚なんてないのかも」  最初のホテルで、シェフが本のことをそれほど気に留めていなかったことが思い出される。持って行っても構わないとさえ言ったのだ。 「ローラン、やっぱり、客の誰かがそっと差し込んだってことかな」 「たぶん」  はっきりした

          連載小説 星のクラフト 11章 #5

          連載小説 星のクラフト 11章 #4

           缶詰のオイルサーディンをクラッカーに乗せて頬張る。水もレモンサイダーも全く劣化することなく口にすることができた。 「この家、鍵もかけていないままだったけど、誰も来なかったのかな」  ローモンドは瓶の口から直接レモンサイダーを飲んだ。  一階の居間には相変わらず本棚があり、あの時、ローモンドが見つけて抜き出した状態のまま例の本が床の上に置いてあった。 「誰も来たような気配はないわね」  私は五つ目のクラッカーを口の中に押し入れた。 「やっぱりこの宿泊所には誰もいないのだったら

          連載小説 星のクラフト 11章 #4

          連載小説 星のクラフト 11章 #3

           あの時、鳥になったローモンドが嘴で割った窓硝子は今でもそのままだった。破片のほとんどは外側に落ちていたが、部屋の中にもいくつか散らばっている。触れると指先を傷つけそうなほど尖った硝子の破片を見ていると、そんなに長い月日が経ったとはとても思えなかった。  だけど、二人の髪は伸び、ローモンドにいたっては色さえ元通りになっている。 「別次元の人間として生きた時のことは、もうほとんど覚えていないのだけど、六十年前にここでクリーム色の羽根を拾った日のことはよく覚えている」  ローモン

          連載小説 星のクラフト 11章 #3

          連載小説 星のクラフト 11章 #2

           光る鳥はいなかった。  窓の外は夜の闇に包まれていて、樹木に止まる鳥もいない。 「ローラン」  再び、部屋の中で声がした。 「誰なの」 「わたしよ、わたし」  目を擦ったが見えない。入り口にあるスイッチを入れて、電灯に明かりを灯した。 「ね、わたし」  明かりのすぐ下に立っている。 「ローモンド?」  鳥になって出て行ったのではなかったか。ローモンドなのだとしたら、短く切り揃えて黒く染めたはずの髪は、元通りの金髪になっている。どうにか調達して着せた地球の子供らしい服装ではな

          連載小説 星のクラフト 11章 #2