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【JOCV】派遣前訓練Day44|ロバート・チェンバース

訓練44日目。派遣前訓練の記事を書き始めてから、Amazonがやたらとロバート・チェンバースを薦めてくる。参加型開発の概念を提唱したイギリスの研究者で、国際開発を生業としてきた方々は誰でも知っている方である。この分野の専門用語で「PLA(参加型学習行動法)」というものがあるが、これもチェンバースが提唱したものである。

「PLA」とはParticipatory Learning and Actionの頭文字を取ったものである。ちなみに生命科学の領域で「PLA」とはホスホリパーゼA(phospholipase A)を指すことが多い。リン脂質を加水分解する酵素の1種である。生命科学用語を専門とするオンライン辞書である「ライフサイエンス辞書」にて「PLA」を検索すると最上位にphospholipase Aがヒットする。「アルファベット3文字表記における学問領域による意味の違い」という類のタイトルでどこかの言語学部の学生がレポート書いていそうだ。

話しが逸れたが、技術補完研修や派遣前訓練を経るにつれ、チェンバースの著書に一通り目を通しておこうと思い立った。幸い翻訳されているものの多くを図書室で見つけることができた。ちなみに殆どが野田先生が監訳したものだった。

取り急ぎ、翻訳されているもので一番新しいこちらを読み進めることにする。

開発調査手法の革命と再生―貧しい人々のリアリティを求め続けて―
ロバート チェンバース (著)、野田 直人 (翻訳)|2011年

「リアリティ」がキーワード。即ち、「何が見えているか」ではなく「どう見ているか」である。人以外の生き物についても同じこと。生き物はそれぞれ違った世界を見ている。ユクスキュルの言葉を借りるのであれば、【生物から見た世界=環世界】は生物ごとに異なっている。「あなたと私は生きている世界が違うんです。」というのはある意味正しい。

それでは、あなたと私のリアリティの差を把握し、視覚化する術は無いのだろうか。チェンバースは「地図」に着目した。

妄想の域にとどまるが、人を含め生き物には「地図作り」が本能として備わっている。人の場合、生まれる前は母親のお腹の中の地図を作り、生後数か月は家の中、やがては家の周囲、学校の周り、隣の町、といった具合に。大人の言う「グローバル社会」の地図を作りだすのは文字通り大人になってからではないだろうか。それゆえ、学校の周りの地図を作り始める段階の子どもたちに、グローバル社会で起きている問題を教育すること自体無理がある。大人が言う地球の裏側は、子どもにとっては地球では無い。昨日書いた外来種問題の教育についても同じことが言える。地図上に無いこと、リアリティに無いことを押し付けることは、恐怖を抱かせる以外の何物でもない。教えるなと言いたいのでは無い。然るべきタイミングがあるはずということだ。

虫や魚に「地図を書いてみてよ」とお願いして、実際に書いてくれたとしたら、一体どんな地図が返ってくるだろう。これは残念ながら難しいが、人であれば書いてくれるのだ。人であれば誰でも確り書けるのである。これにチェンバースは気が付いた。そして地図には作成者のリアリティが良く現れることを見出したチェンバースは、地域住民を地図作りに参加させる、参加したくなる土台を作ることの重要性を訴えている。

私たち(農作業普及員と「教育を受けた」専門家一般)は、自分たちの地図作成法やあるべき地図の固定観念と、自分たちにしか作れないという確信にとらわれ過ぎていたため、地域の「教育を受けていない」人たちがいかにうまく役に立つ自分たちの地図を作れるか、そして作っていたかを理解していなかった。(中略)私たちがなぜそんなに長い間そんなに無知だったかのか信じられず、恥ずかしい気持ちになる。(本書P215-217より)

巨人の方の上に立ち、任地の人々の地図を探し出したいと思わせる一冊であった。


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