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論文紹介|体罰の規制と子どもの暴行【JOCV Day119】

聞いたところ、ヨルダンの学校で体罰は日常茶飯事らしい。日本では学校教育法により学校での体罰を禁止している。ヨルダンでも学校での体罰を規制しているが、どうやら実態として体罰が無くなってはいないようだ。

体罰を受けて育った人は暴力的になりやすいというのは、学校の先生でなくても感覚的に理解できるだろう。やられたらやり返す。ヨルダンの子どもにも暴力的な子どもが多いという話を耳にする。

体罰を規制することで暴力的な子どもが減らせるかもしれない。体罰規制の有効性を示唆する論文が2018年に出ていたので紹介する。

Corporal punishment bans and physical fighting in adolescents: an ecological study of 88 countries
Frank J Elgar et. al. | BMJ Open | 2018
肉体的な体罰の禁止と青少年の暴行性に関して:88の国における調査(筆者による邦訳)

88の国と地域における、家庭と学校での体罰規制と、子どもの暴力性を調査した論文である。論文はオープンアクセスで無料でダウンロードできる。研究の中心的な成果は以下の図で示されている。

画像1

※画像は以下よりダウンロードした。
https://bmjopen.bmj.com/content/bmjopen/8/9/e021616/F1.large.jpg

Figure 1 Prevalence of frequent physical fighting in male and female adolescents in 88 countries and territories (sorted by prevalence in males).
図1|88の国と地域の男女の青年期・思春期における頻繁な物理的暴力(Physical fighting)の蔓延率(男子のデータに基づいて配列). (筆者による邦訳)

まずはじめにこの研究グループは88の国と地域を以下の3つに分類した。

①体罰に関する規制無し
②学校での体罰禁止、家庭での体罰は規制無し
③学校でも家庭でも体罰禁止

そしてそれぞれの分類の中で、子どもによる暴行度を比較した。黒塗りの丸が男子、白抜きの丸が女子を表し、丸の位置が右に行くほど暴行度が高いことを示している。日本は含まれていなかったが、JICAボランティアが派遣されている国もいくつか含まれており、ヨルダンも含まれていた。

ヨルダンは学校での体罰は禁止、家庭での体罰は規制無しということになっている。あくまで国として規制があるかどうかで分類しており、実態としてどの程度規制が機能しているかは、この論文では検証していない。

ヨルダンと同じ分類の国はスイス、中国、イタリア、アメリカ、イギリス、カナダ、オマーン、UAE、イエメン、トルコなど38カ国。このなかでヨルダンは子どもの暴行度が高い。特に男子は38カ国の中で5番目に高い。

これは私の所感であるが、規制があるにせよ実態として体罰が常態化していることが、ヨルダンの子どもの高い暴行度に繋がっているのかもしれない。イエメンやUAEなど、中東の国が上位にきていることも非常に気になっている。

ポルトガル、スウェーデン、イスラエルなど、学校でも家庭でも体罰を禁止している分類に含まれる国では、他の分類と比較して子どもの暴行度は低くなっていた。

この論文では、体罰による規制が厳しいほど子どもの暴行度は低下するという結論を導こうとしているが、例外も多くあることを承知している。例えば、ミャンマーやスイスにおいては体罰規制は無いものの、男子の暴行度は20%以下である。一方でケニヤやチュニジアなどは家庭でも学校でも暴力が禁止されているが、男子の暴行度は20%を超えている。

体罰と子どもの暴行度の相関を調べる時、規制の有無だけでなく、実態として体罰が禁止しているかどうかの検証が今後必要になるだろう。

暴力が暴力を助長するという、多くの人が感覚的に理解していることを科学的なデータとして提示したという点でこの論文の功績は大きい。法律の整備に携わる人や、実際に教育現場で体罰をしている先生を説得するための理論的根拠として活用できるのではないだろうか。

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