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【JOCV】派遣前訓練Day18|論文紹介「農村部と都市部での肥満の比較」

世界で肥満が深刻化している要因は何かと問われた際、「都市化・先進国化に伴って食生活が乱れているから」と即答したくなるし、これが一般通説になってしまっているが、気を付けて観察した方が良い。

先週の英国科学誌Natureに掲載された論文である。日本語要約も閲覧可能。

農村部と都市部での肥満の比較」(Natureハイライトより以下引用)
原著論文タイトルは「Rising rural body-mass index is the main driver of
the global obesity epidemic in adults
」(農村部でのBMIの上昇が国際的な成人の肥満蔓延の駆動要因である)。

ボディーマス指数(BMI)は多くの国で、都市に住む人口の割合の変化とともに上昇してきた。こうした状況によって、都市の生活様式が肥満の世界的な増加の主要な駆動要因であるという見方が生じた。M Ezzatiたちは今回、世界各地の1億人を超す成人のBMIに関して、居住地を農村部と都市部とに分けた1985~2017年のデータでその傾向を分析している。その結果、支配的なパラダイムとは対照的に、BMI平均値の世界的な上昇の大部分は、特に一部の低所得地域および中所得地域では、農村地域集団のBMI上昇に起因しており、農村部のBMI上昇速度は都市部の住民のものと同等またはそれ以上であることが分かった。著者たちは、貧しい国々の農村部では、低栄養という不利な状況を、より一般的な栄養不良というまた別の不利な状況で置き換えてしまわないよう、栄養およびインフラストラクチャーの不均衡に対してさらに注意を払うことが必要だと述べている。

直近約30年間に見られる世界的な肥満蔓延の主要因は、高所得地域や都市部ではなく、むしろ低・中所得地域や農村部であるということが、大量のBMIデータの分析から示唆されたのだ。

国連SDGsの2番目は「飢餓をなくそう」となっており、飢餓撲滅は国際的な課題である。飢餓と肥満はいずれも人間に必要な栄養素の不均衡に起因しているとすれば、「飢餓」と「肥満」については別々にではなくセットで議論しなければならないだろう。ある国、ある地域で、どの栄養素がどれだけ足りていないのか、その要因は何か、丁寧に見ていく必要がある。

栄養素の移動に良くも悪くも最も寄与している要因の一つが「貿易」である。数量のデータが直ぐに拾えなかったので貿易額を参照するが、世界の農産物貿易は、2004年には約4千億ドルとなっている(農水省HPより)。肥料などの農業資材に含まれる栄養素もいずれ農作物に取り込まれることを勘案するとより貿易額は増えてくるだろう。

昨年1月に、「貿易と食品栄養素の世界的分配の公平性」に関する研究がNature Sustainabilityに掲載された。創刊号だったため当時は無料で原著論文をダウンロードできたのだが、今は有料になってしまっていた。拡大する食品貿易によって栄養素が地球上を大移動しているのである。

バランスの取れた食事は人間の健康にとって不可欠であり、「持続可能な開発目標」にも盛り込まれている。研究から、食品栄養素が全世界で公平に分配されるためには貿易が役に立ち、国際貿易政策が大きな影響を及ぼすことがわかった。

「栄養素ポートフォリオ」とでも命名しておこうか。バランスの取れた食事、これを満たす食材へのアクセスについて議論していく。ポストSDGsのゴールに「肥満をなくそう」と掲げられる悲しい事態に陥ってはならない。飢餓も肥満も一緒に考えていく。


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