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彩りと心のしわあわせ【第4話】新しい場所と歩み寄りの力

*この物語のはじめから読む*

第3話を読む*


【第4話】新しい場所と歩み寄りの力



「ただいま〜!心和も一緒に帰ってきたよ!」

律輝が玄関まで出てきて、迎えてくれた。

「こんにちは。久しぶりだね、いらっしゃい。」


「ご無沙汰してました。おじゃまします。」


入ると、コーヒーのいい香りが、漂ってくる。

「甘いの買ってくるかなと思って、コーヒー淹れておいたよ。」


「わあ〜!さすが!ありがとう。」

ほぼ同じタイミングで、わたしも感謝を伝えた。



彩芽の夫の律輝(りつき)さんは、フレンチレストランの厨房で働かれているが、もうすぐフルタイムではなく、アルバイトとなる予定で、喫茶の営業が本格的に始まったら退職する。
収入は下がるけれど、夫婦の夢を叶えるための決断、なのだそう。


コーヒーとケーキをいただきながら、打ち合わせをする。

彩芽が悩んでいることは、おばあちゃんは、お客さんから、飲食代をもらっていないかもしれない疑惑について。

わたしが特に気になっている女性からは、お支払をしてもらってなさそうだ、ということだった。

「何か事情があるのかもしれないけど、、、それおばあちゃんに聞いてみたの?」と、前置きをした上で聞いてみた。

「聞いたことはあるけど、なんか言葉を濁されたんだよねぇ。」


「そっかぁ…。」


ということは、何か事情があるんだな。と、頭の中に情報をインプットする。


「そういえば、ご夫婦のこと、どこかで見たことある気がするんだけど、何か知ってる?」


「あ~芳賀さんのところ?あのご夫婦が、野菜を作ってくれてるんだよ。昔、農業体験させてもらったじゃない?」


少し考えて、ようやく思い出して、納得した。
だから見たことがあったのか〜!と、スッキリした。


そして、男の子と一緒に来ていたママは、結構前から喫茶店に通ってる常連さんだったみたい。おばあちゃんは、「かりなちゃん」と呼んでいる。
お子さんが生まれてしばらくは来れなかったようだけど、幼稚園に行くようになってから、たまに来る方だった。なんでも、喫茶店に御恩を感じているのだとか。その理由は、彩芽も知らないとのことだった。

お店に来ていた男の子は、小学2年生に上がった子で、そうたくん。おばあちゃんは、「そうちゃん」と呼んでいる。

ちょっとしたことがきっかけで、学校に行けなくなった。ママもその子に付き合って家にいたけど、息苦しくなって、気分転換にお店に顔を出しているみたい。

うちのおばあちゃんには懐いていて、お店に来るときは外出するけど、スーパーとかフードコートとか、人の多いところは苦手で、行けないんだそう。


彩芽は、おばあちゃんから、この方たちと仲良くやってね!という話をされているらしい。


そこまでの話を聞いたわたしは、ふと気づいた。

「でもさ、この方たち、おばあちゃんだから繋がってこれてるんだよね??もしかしたら、来れなくなっちゃうんじゃない?」


「そうなの。だから、ここちゃんの力を借りたいんだよ。おばあちゃんは、すでにこの方たちには、孫夫婦にお店を引き継ぐって話をしているらしいんだわ。でも、あなたたちの居場所であってほしいから、孫夫婦にしたってことになってるみたい。だし、わたしたちとしても、あの街の大切な場所として根付いてくれたらうれしい。経営的な面だったり、調理の面だったりは、問題ないと思う。でも、そっちで手いっぱいになるのが目に見えてる。おばあちゃんがつなげてくれていた糸を切りたくない。だから、ここちゃんの手を借りたい。」


隣にいた律輝も、深く頷いていた。目の前の夫婦の意思は、固いようだ。


「わかった。協力するよ。でも、できれば、おばあちゃんからも、話聞きたいんだけどなあ。きっと、これまでいろいろあったんだと思うんだよね。おばあちゃんの意思を引き継ぐなら、ちゃんと、わかってあげたいって思うんだけど。」

「やっぱりそうだよね。お願いしてみる。」


「あと、家に帰って、ちょっと考えてみるね。」


「心和ちゃん、ありがとう。よろしくお願いします。」
律輝さんからも、お願いされ、俄然やる気になった。


家に帰る途中、彩芽からメッセージが届いた。
『来週、おばあちゃんが時間取ってくれることになったよ。律輝も休み取ってくれたから、みんなでお話しよう。来週土曜日の16時』


さすが、仕事が早い。

『了解。すぐ連絡とってくれてありがとう』


こうして、おばあちゃんのこれまでの思いに歩み寄ることになった。


家に着き、それにしても…と、考え込む。

おばあちゃんは、どうしてここまで頑張ってくれていたんだろう?

きっかけになった出来事があったはずだ。


 



予定通り、おばあちゃんから話を聞けた。

概要はわかった。

おばあちゃんは、本当にその方の人生、生活に思いを馳せて、少しでも安心していられる場所となることを目指してきたということがわかった。

心から、尊敬した。


だけど、おばあちゃんがなぜここまでして関わってくれているのかは、わからなかった。
語りたくないのか、無意識のうちに行ってくれていたのか。今は、
 

おばあちゃんのことを『よりさん』と慕っていた女性の今後を、おばあちゃんは、とっても心配していた。
でも、今回の体制の変更によって、何らかの変化は起こるから、少しだけ日常の変容を期待しつつ、当面はおばあちゃんもお店に顔を出してくれることになった。


たっぷり2時間話をした後、おばあちゃんと手のひらを合わせて、ハイタッチした。

まるで、意思の引き継ぎセレモニーのようだった。




おばあちゃんが、彩芽夫婦にお店を引き継ぐまで、残り3週間。

平日は仕事、週末はお店の準備。

あっという間に、おばあちゃんの誕生日である6/28を迎えてしまった。

おばあちゃんがお店に立つ最終日。

この日は、どうしても仕事が休めず、駆けつけることができなかった。

『心からのお疲れさま』の気持ちと、『75歳のお誕生日おめでとう』の気持ちをこめて、お花を贈った。



それから、新体制までの3日間。

ドキドキしながら、準備を進めた。


おばあちゃんの思いを受け継ぎ、みんなの生活に、彩りと心の豊かさを感じられるように、全力を注いだ。

そして、バタバタのまま、準備が完了しきらないまま、新装開店の日を迎えることになった。

第5話へつづく

#創作大賞2024
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