見出し画像

彩りと心のしわあわせ【第5話】はじめてのお客サマ

*この物語のはじめから読む*

第4話を読む*


【第5話】はじめてのお客サマ




忙しなく準備していく中、新装開店オープン日の7/1を迎えた。

普段の営業時間は、10時〜17時なのだが、今日だけは、11時オープンにした。


ちなみに、おばあちゃんも、当面は、お店のサポート部隊として、来てくれることになっている。

おばあちゃんがお店に来るのは不定期ということにしている。あえて公開していない。

今日は、記念すべき初日ということで、おばあちゃんは来ず、彩芽夫婦とわたしの新体制での船出の日とした。


これまでの喫茶店は、おばあちゃんに会うために来てくれた人が多かった。

そんなお店にお客さんは来てくれるのか、彩芽夫婦はもちろん、わたしも不安だった。

たくさん来てもらっても、対応しきれないけれども、とは言え、売上がまったくなければ、それはそれで寂しいものだ。


もしもに備えて、お客をひとりだけ確保した。

そして、開店時間ピッタリに、来店を知らせるベルが鳴る。

「いらっしゃいませ」

「こんにちは。開店おめでとう。」

そう、わたしの恩師である、谷口教授である。

お店の入口に飾って〜と、お祝いのお花まで持ってきてくれる配慮。

「わあ、ありがとうございます。こちらのお席にどうぞ。」
席に案内をして、おしぼりを差し出した。

ここまでは想定内の出来事だった。


「ありがとう。すっかり、お店の人みたいな感じだね。実は、連れがいるんだけど。もうふたり、お店に入れるかな?」

「おふたり???もちろん、大丈夫ですよ。」

「ちょっと待ってて。呼んでくるから。」

「かしこまりました。お席の準備をして、お待ちしております。」
姉はこう答えてからすぐ、テーブルの移動を始めた。


誰だろう??と思いながら、店先で待っていると、教授と一緒に歩いてきたおふたりとは、まさかの、はるくんのご両親だった。


「いらっしゃいませ」彩芽が迎える。

わたしは、驚きすぎて、とっさに声が出なかった。

彩芽から促されて、おしぼりとお水をテーブルまで運んだ。


「ご来店ありがとうございます。あの、、、。どうして、こちらに?」

教授と顔を見合わせたご両親が、にこやかにわたしの方を見て、こう伝えてくれた。


「はるきが、行きたいって。そう聴こえたからですよ」

お母さんの近くに、ニッコリと笑うはるくんがいた。
もちろん現実ではなく、わたしがそう感じただけだった。


彩芽がメニューの説明に行き、注文を取ってきた。

本日おすすめのランチセットを注文してくれた。

今日は、律輝が腕をふるった特別メニューなのだ。

和風ハンバーグとナポリタン、サラダとスープ、小さなパン、プチガトーと食後のコーヒーか紅茶がつくセット。

3つ分のランチセット注文が入り、厨房は忙しくなった。


はるくんの分として、わたしからのサービスとして、オレンジジュースを提供した。

そして、わたしは、とあるものの準備を始めた。


気づくと、メインの食事を終えて、デザートを召し上がっていた。


わたしは、テーブルに近づき、先ほどから準備してきたあるものを渡す。

「こちら、ささやかなものですが、わたしからのギフトです。わたしは毎日お店に立つことはできないのですが、このお店の出勤日に、出逢った方に渡すことにしています。今日は、おふたりに預かってほしいと思って、準備いたしました。」


色鮮やかな金平糖と、お店のミニカード。

お店のミニカードは、いろいろな色を準備していて、その日、そのお客サマに合った色のカードに、ひとことを添えさせていただいている。

お客サマ全員は、難しいかもしれないが、その日気になった方だけでも、手渡したいという思いで始めた。


今回は、鮮やかな薄いブルーのミニカードを選び、こう記した。

はれわたる 空にうつる 君の影
ルンルンと 笑顔弾ける 君の姿
きっと忘れない あの日の思い出


「これを、はるくんに、渡してもらっていいですか?ぜひ、よろしくお伝え下さい。」


渡しながら、このように言葉を続けた。

「ミニカードに書く内容は、わたしの想いです。一緒に渡している金平糖は、この店の前の店主、祖母の思いを引き継いでいるものです。祖母は、『どんな人であっても、キラリと輝く原石を持っている。みんなそれぞれが気づいていないだけで、誰でも、どんな人でも、ステキな物を持っているんだよ。』と常々申しておりました。そのキラリと輝く原石が、彩り豊かで、口に含むとほっこり心が華やぐ金平糖に似ている気がして、お帰りの際のプチギフトとしてみました。」


「四つ葉のクローバー、大切にしてくれてるんですね。渡します、必ず。ありがとう。」


はるくんのお母さんは、本当に細かいところまで、見てくれている。

お店の名前は、おばあちゃんが経営していた時のまま【喫茶 カラフル】。そこに、彩芽夫婦とわたしの想いを加えて作成したものだ。

お店のミニカードには、四つ葉のクローバーのデザインを施した。


「ものすごく、ほっとできました。実は、私の会社、この近くで、たまにお弁当を頂いていたんですよ。また、お邪魔させていただきますね。」

はるくんのお父さんから、そう言っていただけた。


わたしは、「また来ますね」という言葉を聞けただけで、今日という日は、もう成功だ。
そう思えた。

3人の他にお客さんはいないけれども、心の中では、もう祝杯をあげていたくらい、うれしかった。


はじめてのお客サマをお見送りして、店の扉を閉めようとした時、遠くに見覚えのある方がいることがわかった。


店の中では、彩芽夫婦が、一旦休憩しようか〜という話をしていて、律輝が3人分のコーヒーを淹れる準備をし始めていた。

わたしは、店内の方へ振り向き、「ちょっと待って。お客さん来そう。」と伝え、急いで、店の外に出た。



第6話へつづく

#創作大賞2024
#お仕事小説部門



最後までお読みくださり、本当にありがとうございます(^^)!もしよろしければ、サポートいただけると大変嬉しいです✨いただいたサポートは、今後のnote活動をもって、還元していきます。