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【インサイトコラム】アイディア発想の構造

商品・サービスアイディアは生活者のニーズを基に考える

「なにかいいアイディアないの?」だれしも仕事の中で一度は言われたことがある言葉だと思います。世の中にはアイディア発想の手法はあまたありますが、本稿ではアイディア発想の手法ではなく、アイディアの種類と生活者のニーズ・ウォンツのつながりについてお伝えできればと思います。

生活者のニーズやウォンツを理解するためにはいわゆる定性調査(インタビューやエスノグラフィ等)を行うことが一般的です。インタビューをした時に最も強力なニーズとして捉えることができるのは、「不満」です。(定性調査の結果からどのようにして生活者のニーズ・ウォンツを理解していくのかは別の稿で論ずるとします)

「○○したいことがあるけど、できない。」という声は非常に分かりやすく、アイディアへの結びつきも明確です。そのような声を基に考えられるのは「①改善アイディア」。例えば「遅い」、「文字が小さい」、「手が汚れる」、「味が薄い」、などと言った声に対しては、「早く」、「文字を大きく」、「手が汚れず」、「味を濃く」改善すれば良いわけです。不満を聞き続けて漸進的に良くしていくのは日本人が得意としているところなのではないかと思うのですが、一方で、商品開発に対して素人の「生活者の声」の裏返しだけに、この改善をやりすぎると結局特長がわからない、個性がない商品・サービスになってしまうリスクが潜在的にあるのではないかと思います。

続いて同じ「不満」であっても、すぐには改善できない時があります。その不満を改善しようとすると、他の良いところがダメになってしまうトレードオフの関係だったり、様々な制約がありすぐに改善できなかったりする場合です。そのときは「②代替アイディア」ということで、本当に生活者が求めていることを理解して、他のソリューションを提供するアイディアです。有名な『レビットの穴』(注1)の逸話でも顧客が本当に欲しいものはドリルで開ける「穴」であり、仮にドリルが品切れをしていたとしてもその穴を開ける目的が棚をつくることであれば、突っ張り棒や完成品の棚を提供するという選択肢もあると考えられるわけです。

生活者の満足からもアイディアは考えられる

ここから徐々に高度になっていくのですが、生活者の「満足」からもアイディアを考えることができます。「こういうところが好きだから利用している」という声から、さらにその満足を伸ばすためにはどうすれば良いのか?という視点です。「③伸展アイディア」とでもいうのでしょうか。例えば「楽天市場はごちゃごちゃして分かりにくいけど、いろいろな商品情報があって買い物が楽しい」という声があったときに、分かりにくいからシンプルにするのではなく、より買い物の楽しさを提供できるようなサービスを考えるということです。

ジョハリの窓(注2)ではないですが、ユーザーが考えている良いところと、自らが理解している良いところが異なる場合も多く、改めて自社の商品・サービスの良さは何か、そしてその良さをさらに伸ばすにはどうすればいいのかを考えてみてはいかがでしょうか。

潜在ウォンツから生み出されるアイディアは新しい市場を作る

ここまでは直接生活者の声からアイディアを考えることから、「顕在的なニーズから生み出すアイディア」です。そのため、既存のビジネスのドメインから大幅に飛躍することは難しいですし、競合の会社も同じような思考で同じような商品・サービスを考えている可能性も高く、レッドオーシャンの戦いとなりがちです。一方全く新しいアイディアを考えるためには、潜在的なニーズ(=ウォンツ)から発想するべきで、これは生活者にインタビューしても直接得られる情報ではないため、主にエスノグラフィや観察調査のような調査手法で明らかにしていきます。まさに近年みられるエスノグラフィの浸透は、既存市場が飽和し新規市場への参入を考えている企業の要請による部分も大きいと理解しています。

生活者自身も自分はどのような商品・サービスがあると嬉しいのか分かっていないため、調査を行う側が生活者の振舞いを見て、感じて、察するしかありません。誰も気付いていないウォンツを掘り起こして、それを満たすことができる商品・サービスを作っていくのですが、このウォンツを掘り起こす力(=仮説を生み出す力)がとても重要です。

仮説を生み出す力を高めるためには、たくさんの情報に接触して、いろいろな人と接する中で多くの視点や価値観(多様性)を自分の中に持てるかが大切です。つまり60代向けの商品を開発する場合は60代になりきれるか、女性向けのサービスだったら女性になりきれるか、ということです。そして、市場の情報に接触するのは、なにも調査を実施しているときが全てではなく、日ごろ街を観察するだけで様々な情報が得られます。スマートフォンの中だけが情報の宝庫ではありません。

iPhoneを開発したスティーブジョブズはリサーチに頼らないと言いましたが、彼はとても優れた観察者で、リサーチで生活者のニーズを把握するのではなく、ひたすら世の中を観察して新しい世界、iPhoneのある世界を想像したのだと思います。

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以上のニーズ・ウォンツとアイディアの関係を少し意識して頂ければ、得られた生活者の声からどのようなアイディアを考えればいいのか、あるいは逆にこういうアイディアを考えるためにどのような情報を生活者から得ればいいのかがわかるのではないでしょうか。ぜひ闇雲にアイディアを出すのではなく、この整理を効率的なアイディア発想に活用頂ければと思います。

(注1)レビットの穴・・・元ハーバードビジネススクールの教授であるセオドア・レビットが自身の著書で「昨年、1/4inchドリルが100万個売れたが、これを購入した人達は、1/4inch径のドリルを買いたかったのではない。彼らが欲しかったのは、1/4inchの穴である。」と記載したことに由来。ホームセンターにドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴。お客は商品・サービスそのものではなく、それによって得られるメリットを欲しがっているということ。

(注2)ジョハリの窓・・・サンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフトとハリ・インガムが発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」。自己には「公開されている自己」(open self) と「隠されている自己」(hidden self) があると共に、「自分は知らないが他人は知っている自己」(blind self) や「誰にも知られていない自己」(unknown self) もあると考え、これらを格子のように図解した。


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