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楽園映画8  スワロウテイル(東京・日本)

今週は他の映画を紹介しようかなとも思ったんですが、話の流れ上、「円が最も強かった」という前口上で始まるスワロウテイルを紹介します。Amazonプライムで見れます。

1996年。私は15歳。この頃はすでに日本という国は下り坂ではありましたが、円相場は過去形ではなくまだ強かったのです。実は日本の歴史上、最も円が強かったのは1995年4月で、1ドル=84.8円をつけたのが最高値です(いやー、この時に持ち金を全額ドルに変えてたら倍になってましたね!)。当時は円高が輸出に不利ということで悪いことだと言われていました。今思えば日本の製造業を助けるよりも、円高を守った方が良かったかもしれません。行き過ぎた円高は問題かもしれませんが、じゃあ行き過ぎって何なんでしょう? 通貨って不思議ですよね。

話を戻すと、1996年というのはすでに日本は不景気ではありましたが、それでも円は十分強かったのです。そんな時代に登場した映画スワロウテイル。見たことある多くの人は若い頃に見たと思われますが、今見ると少し違って見えますよ。流石に少しチャチな感じになっちゃってますが。

この作品のテーマは移民、ズバリ不法移民ですが、この頃はまだコンビニのレジが外国人という時代ではなく、異邦人が珍しかった頃。異邦人に対するちょっとした恐怖心とか、話し方の違いによる違和感とか、そういうものをうまく作品上の魅力に昇華している作品です。とはいえ、これは1996年の話で、当時の移民といえば1も2もなく中国系だったのでしょう。今の時代にリメイクするなら、日本にビッグマネーを夢見てやってくる若者たちの国籍はベトナム、ネパール、バングラディシュになっているかもしれません。この映画では埋立近くの、おそらくお台場あたりが舞台となっていますが、今なら新大久保あたりの雑居ビルが舞台でしょう。私が脚本家なら新大久保の雑居ビル群が実は内部で繋がっていて九龍城みたいな無法地帯と化していた、なんて作品に仕上げるかもしれません。でもそんなことを作品にしたらファンタジーではなくドキュメンタリータッチになってしまいますよね。移民はもはやどこかにいそうな架空のものではなくいたるところに存在するドキュメントになりつつあります。そんな時代の移り変わりを感じます。
偽札を作って儲けるという行為も、今見るといくらなんでも幼稚すぎるというか、その幼稚さ、ピュアさが不法移民っぽいリアルさなのですが、今の世の中なら怪しい仮想通貨を作って、汚い雑居ビルでデータマイニングして稼いでいるイメージじゃないでしょうか。それはそれでかっこいい映画になりそうですね。

岩井俊二は明らかにウォン・カーウァイと香港映画を意識していたと思いますが、この映画ほどストレートにそれを感じる映画はありません。出てくる人も中華系の名前を背負った人が多いですからね。90年代の日本の空気を感じてください。

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