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①インターステラー超解説 ネタバレなし

クリストファー・ノーラン監督作品のインターステラーは、もちろん普通に観るだけでも面白い。でも宇宙SFだから、物理のことをちょっと知っていると、もっと面白い。小難しい言葉と理論がたくさん出てくるので、解説ではまずはネタバレなしでそれを説明する。(ほとんど現代物理の概論になってしまう。)
第一部ではネタバレせず、インターステラーを宇宙SFとして楽しむのに必要な前知識を詰め込んでいる。
第二部は有料で、一度観た人向けに、インターステラーの様々なシーンで具体的にどのようなことが起きていたのかを解説する。

(サムネイルはNASAがレンダリングしたブラックホールの写真です。インターステラーのガルガンチュアに似ていたので使ってみました。)

ネタバレなし感想

良かったところはいくらでも挙げられて、悪かったところはない。個人的に思うところは思い返せばあるかもしれないが、多くの人が悪いと思うようなことではないと思う。
物理理論の監修としてつよつよ理論物理学者のキップ・ソーン博士がついていることもあり、ガッチガチの宇宙SF感を存分に味わえる一方で、豊富な人生ドラマと愛をテーマのひとつに置いているので、幅広い客層を相手にしてもいる。どんな人でもまずは観てほしい。
2001年宇宙の旅の解説で、「これほど美しい特撮画は現代のどんなCG技術を使っても作り出せない」というようなことを書いたが、インターステラーはその若干上を行った。ノーラン監督はこのインターステラーを作るにあたって2001年宇宙の旅を強く意識したと言っているので、2001年の画を超えることを一つの目標にしていたのだと思う。その秘訣は次の章で語る。本当にすごいぞ。
ネタバレなしだとこれくらいだろうか…

ネタバレなし解説

SFとしてこの映画を楽しむには、有名な物理の理論を多少知っている必要がある。

一般相対性理論

アインシュタインは特殊相対性理論と一般相対性理論で「時間も空間も絶対的な尺度を持たない」ということを示した。これが相対性理論の相対の部分だ。
ここからは小難しい話が出てくるので、興味がない人は※まで飛ばしてもらって構わない。この段落で映画のために必要なのは、「重力が強いところでは時間の進みが遅くなる」ということだけだ。
(物理つよつよさんへ:ここではわかりやすく説明することを重要視しているので、説明する際の因果が逆になっているところや、実際に起こっていることを正しく説明していないところがあります。)

さて、小学校の算数で、距離(m)は速さ(m/s)と時間(s)の積であることを習った。つまり、速さ(m/s)は距離(m)と時間(s)の商だ。だから、光の速さ(c)は一定時間で光がどれだけの距離を進んだかを測定すれば求められる。
で、昔の人は頑張って測定した。すると奇妙なことがわかった。

相対速度というものがある。100km/hで走る車の中から前に向かって100km/hでボールを投げると、車に乗っている人にとってはボールが100km/hで飛んでいくように見え、車の外で立っている人にとってはそのボールが200km/hで飛んでいくように見える。光もそうなるはずだった。
しかし実際には、光は静止している人が見てもコンコルドに乗っている人が見ても、同じ299792.458km/s、約30万km/sだったのだ。
誰にとっても光速が一定となるこの不思議な法則を、光速度不変の原理という。

速さ=距離/時間に則って、光速=距離/時間… とはならなかった。
速さと時間の関係は、厳密には別の式で表される。
静止している人が体験している時間の流れの速さをΔt、動いている人のそれをΔt'、動いている人の移動速度をv、光速度をcとすると、

Δt' = √(1-(v/c)²) × Δt

となる。
どんなものも光速度cを超えることはできないので、v/cはvが大きくなるにつれて0から1に近づいていき、すると√の中身は1から0に近づいていく。なので、vが大きくなる(速く移動する)とその人の時間の流れが遅くなっていく。

たとえば光速度の99%の速さで動いている人の時間の流れは、cを1、Δtを1とすると、
√(1-(0.99/1)²) × 1 で、
0.1410.... となるので、動いている人は静止している人と比べてだいたい1/7の速さで時間が流れていることになる。

(ここで違和感を覚えた人以外は見ないほうがわかりやすい注釈:ここでいう時間Δt'とは、静止している人と動いている人が同時にストップウォッチをスタートさせて、動いている人がΔt秒数えてストップウォッチを止めると同時に静止している人も止めたときの、静止している人のほうのストップウォッチに記録されている時間と一致する。)

ここまでが一般相対性理論で示された速度と時間の関係だ。質量・重力と時間の関係は一般相対性理論で示される。それによると、重力が強いところほど時間と空間が引き延ばされるという。
時間については、興味があればここを読むといい。


ブラックホール、(弦理論、超弦理論、M理論、)ブレーンワールド仮説

この章については、一般人向け科学雑誌NEWTONの「高次元の物理学」を読むといいのだが、品切れになってしまったようだ…
似た内容の版を置いておく。

または、この「次元とは何か」の公式ページにある目次だけでも読んでおくといい。2と4に関わる話をする。

ブラックホールというものがある。大きくて黒い球体のように見えるが、それを構成しているものは体積を持たない点に過ぎない(と考えられていた)。この点を特異点と呼ぶ。質量を持っていながら体積を持たないので、密度を求めようとすると分母に0を持ってくることとなり、計算できない。
質量が極端に大きいので、重力も極端に大きい。すると、近くにある光(光子)やその他素粒子がおかしな振る舞いをする。その振る舞いをきれいに説明するためには、この世界が実は3次元空間+1次元時間(これを4次元時空という)ではなく9次元空間+1次元時間(10次元時空)であるという仮定をする必要がある。

ここからは映画に関係ない与太話なので、※まで飛ばしてもらって構わない。弦理論についての話。

分子は原子でできている。同じように原子は原子核と陰電子でできていて、原子核は陽電子と中性子でできている。同じように陽電子と陰電子と中性子は素粒子でできている。
素粒子をもっとよく見てみると、実はまるい粒ではなく、輪っかとひもの2つの形をしているとする。どちらの形なのかは、素粒子の種類によって決まっている。ここでは素粒子の名前を覚える必要はない。

原子を構成する陽電子、陰電子、中性子

MissMJ, Cush, Bcxfu75k - 次の画像を基にした投稿者自身による著作物:Standard Model of Elementary Particles.svg, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=121486681による



輪ゴムとひもがある。
平面空間では、輪ゴムとひもは縦と横の方向にしかくねくねできない。
しかし立体空間なら、縦と横に加えて、高さ方向にもくねくねできる。
このように4次元、5次元… とくねくねできる方向を開放していって、輪ゴムとひもの形をしている素粒子は9次元方向にくねくねしているとすると、ブラックホールという強い重力下にある素粒子のおかしな振る舞いをうまく説明できるのだという。9次元の空間と1次元の時間で、10次元時空だ。
そこからさらに発展して、11次元時空にまで拡張したものをM理論という。

なので僕らがいる、今膨張を続けているらしいこの宇宙は、実は3次元方向に加えてさらに7つの方向に対して空間を持っているが、その7つの方向に対して持っている空間が、僕らが観測するにはあまりに小さいだけかもしれない。(今のところ、その証拠は観測できていない。)
もしかしたら、この宇宙の外側にもっと大きな(10次元方向に対して大きな空間を持っている)宇宙があって、この宇宙はそのうちの3次元分の方向に広がり続けてできた空間なのかもしれない。
とすると、そのもっと大きな宇宙の中に、僕らがいる宇宙とは別で広がっている宇宙が存在するかもしれない。(かもしれないの連続だ!)
ちょうど3次元空間に2次元の布(ブレーン:膜)がいくつも漂っているみたいに、10次元の空間に10次元よりも少ない次元の空間がいくつも漂っているという感じ。この10次元の空間をバルク空間という。
これがブレーンワールド仮説だ。
マルチバース仮説と似ているが、意味を少し異にしている。
(素粒子の形には輪ゴムとひもがあると書いた。ひもの両端は我々の宇宙をブレーン、膜としたときに、膜にひっついているのだという。なのでこのブレーンから離れることはできないが、輪ゴム型の素粒子はどこにも繋がっていないので、ブレーンもバルクも関係なく移動できる。)

インターステラーは、このブレーンワールド仮説だけでは説明しきれない描写があるが、それはネタバレにかかってくるので、有料部分で書く。

ワームホール


AllenMcC. - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3864867による
Panzi - English Wikipedia, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=245478による

空間の形を布に見立ててみる。するとこの図のように空間を曲げて、ある場所をトンネルの形で繋ぐことができそうだ。こうすれば、遠い場所同士を短距離で移動できる。
このトンネルをワームホールと呼ぶ。
インターステラーではこのブラックホールとワームホールが実際にどのように見えるのかを正確にレンダリングしたそうなので、ぜひその様子を実際に映画で観察してみてほしい。

スイングバイ航法、ペンローズ過程

インターステラーのセリフではスイングバイ航法を利用したことになっているが、航法にペンローズ過程を利用しているとも言えるかもしれないので、両方説明する。
スイングバイ航法とは、星の軌道に乗って回転し推力を得た後に軌道を外れ目的地を目指す手法だ。これにより燃料を節約できる。

これをイメージするのは簡単。ペンローズ過程はとっても難しい。なんでも、一方通行に思えるブラックホールから、エネルギーを取り出す方法があるらしい。
ブラックホールは非常に強い重力を働かせるので、ある距離まで近づくと、光でさえもそれ以上遠ざかることができなくなってしまう。この距離のことをシュヴァルツシルト半径という。
なので、シュヴァルツシルト半径より内側の様子は観測できない。真っ黒に見える。これがブラックホールの黒い部分だ。そしてこの黒い表面部分を、事象の地平面と呼ぶ。インターステラーでは、地平線と訳している。事象の地平面は英語でEvent horizonといい、horizonはふつう地平線を表すので、この訳になったのだろう。

事象の地平面と似た、ブラックホールで重要な球面として、エルゴ球というものがある。
ブラックホールには高速で回転しているものがある。
大質量をもつ星はいずれ自らの質量による重力に耐え切れず、急速にその体積を小さくしていき、最終的にブラックホールの特異点となる。もともとその星が回転していたとしたら、体積が小さくなるにつれてその星の半径も小さくなっていく。回転している物体が質量をそのままにその回転半径を小さくしていくと、角運動量保存則に従って、回転速度(角速度)が大きくなっていくので、ブラックホールとなれば、その角速度は非常に大きいものとなっているはずだ。
特異点から数えてエルゴ球の半径内にまで近づいて何か質量のあるものを投げ捨てると、ブラックホールと物における重力・角速度の相互作用により、ブラックホールが持つエネルギーの一部を取り出すことができるのだという。これをペンローズ過程と呼ぶ。
(ごみをブラックホールに捨てることで、ブラックホールをごみとエネルギーの交換システムとして利用できるのではないかと言われている。)

ここまでがネタバレのない、宇宙SFとしてインターステラーを楽しむための前知識だ。

次回は有料で、ネタバレしつつがっつりシーンの解説をやっていく。

この記事はマガジン「ファスト教養講座」のひとつです。詳細はリンク先に書いています。

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