「やっと時代がわたしに追いついてきた。」 医師 亀山有香がドライフルーツブランド王様のおやつ商品プロデューサーとして伝えたいこと【後編】
砂糖や油脂などを一切使わない、無添加・半生食感のドライフルーツ
王様のおやつは、まず第一にドライフルーツを自然のままお楽しみいただけるように、砂糖や油脂などを一切使わない、無添加・半生食感のドライフルーツにこだわっています。
身近でよく見かける砂糖漬けのドライフルーツは、フルーツの味よりも砂糖の味のほうが強くて、個人的にも苦手でして(泣)ドライフルーツはそういうイメージがあって、以前のわたしはあまり好きではありませんでした。もちろん砂糖を使うのは保存面でもメリットはあるのですが、そのままのフルーツの味を味わいたいわたしとしては、砂糖や油脂などは絶対に使わずにドライフルーツ商品をつくることをとにかくこだわります。
それから、「半生=セミドライ製法」でおいしさのために水分を若干残すことで「半生食感」の仕上がりにもとてもこだわっていますよ。
……という感じで、わたしが王様で、王様のわがままを聞いてつくってもらった本当に質のいいドライフルーツが「王様のおやつ」というわけなんです。
お客さまの感動のために。細部まで徹底してこだわる、高品質なドライフルーツ商品づくり
商品開発において大切にしているのは、お客さま目線。その上で障がい者のつくり手の皆さんと現場スタッフが作業の仕方を工夫して加工に取り組み、感動の逸品に仕上げています。
まず、ドライフルーツの形や厚さ、カットの仕方について。
素材の味や食感を存分に味わっていただけるように、何パターンもの形や厚さでカットしたドライフルーツを試食し、口に入れたときの味や食感はもちろん、フルーツの色の美しさ、皮つき・皮なしどちらがベストか、乾燥時間はどうするのか、などを細かくチェックして商品開発を行っています。
2022年秋とれたての日本イチジクのドライフルーツの場合ですと、「くし切り」か「輪切り」か議論を重ねました。障がい者のつくり手の皆さんの作業上、輪切りのほうが作業効率は上がりますが、実際に試食し、お客さまが心からおいしいと思えるほうはどちらか考えたときに「くし切り」を選びました。ジューシーで肉厚な果肉と皮、種のプチプチ感も最大限に楽しめるからです。
そして、お客さまがワクワクするパッケージングにもこだわっています。
色鮮やかなドライフルーツを美しく並べることで、お客さまのお手元に届いたときに、より一層の感動につなげたいからです。
袋や箱は、色とりどりのフルーツの質感が目で見てわかりやすく、かつ品質を保てる素材のものを厳選。袋詰めを行う際は、障がい者のつくり手の皆さんが、ドライフルーツを1枚ずつ美しく並べてくださっています。複数枚を一気に詰めてしまうほうが作業効率は上がるかもしれませんが、お客さまに喜んでいただくためにも細部までこだわります。
障がい者のつくり手さん、仕入れ先の農家さん、食に関わる皆さんにとってフェアなビジネスモデルで取り組みたい
2022年現在、障がい者の自立支援を目的とした事業協同組合「レインボー・カフェ・プロジェクト」設立から12年。ドライフルーツブランド「王様のおやつ」が立ち上がって2年。
スタッフも障がい者の作り手の皆さんも、コロナ禍で苦境に立たされた地元の農家さんを救いたいという想いを1つに一致団結し、この2年間はとてもよいチームワークでドライフルーツづくりに向き合えてきたのが1番の喜びです。
2年前の2020年2月、イチゴのドライフルーツの仕入れ先としてお世話になっているあきちゃん農園さんが、倉敷地方いちご共進会で最優秀賞「令和元年度 備中県民局賞」を受賞しました。
しかし、コロナ禍の影響で市場に出ないまま捨てられてしまうかもしれない、というお話を聞きました。当協同組合としてもコロナ禍の打撃を受けるなか、もともと築き上げてきた自慢のドライフルーツ加工技術を活かし、なんとしてもあきちゃん農園さんのイチゴを救わなければと奮起。なにより農家さんのご苦労を身近で見ていましたので、イチゴを全部買い取らせていただいてドライフルーツに加工しました。
この2年間でとくに頭を悩ませたのは、商品の価格設定です。
王様のおやつは市販のドライフルーツと比べて決して安い商品ではありません。わたしたちが王様のおやつの価格設定で大切にしているのは「農家さんの努力を正当に評価して仕入れること」と「障がい者の皆さんのがんばりに見合った工賃をお支払いすること」です。
この2年を通じて、身近で販売されている食品を目にするたびに、それらの食品に関わる方々はちゃんと生活ができているのかなぁとか、地球上の誰かにしわ寄せがいっていないかなぁとか、考えさせられることも増えました。
たしかに、食品を安く買えるのはありがたいのですが、安いからラッキー!というふうには考えられなくなりました。価格を下げて無理をした結果、社会に歪みができ、国も経済的に苦しくなってしまうのではないかと思うからです。
王様のおやつでは、できるだけフェアな取引ができるように、これからも努力をつづけていきたいと考えています。
わたしはただ単に「障がい者の方々と一緒につくっている商品だから買ってください」と言うのは嫌なんです。
当協同組合は、一般の市場で通用する商品開発を行い、喜んでいただいたお客さまからの対価としてお金をいただき、障がい者の自立支援や工賃向上につなげていく、という方針で事業を行っています。
なので、王様のおやつが一般の市場の1つのブランドとして、お客さまが「かわいい」と思って手に取り、実際に食べてみたら「おいしいね」となって、「この商品はどんな人たちがつくっているんだろう?」と気になって検索したら、実は「障がい者の方々と一緒につくっている商品で、障がい者の自立支援にもつながるんだ!」というふうに広まったら嬉しいです。
……と思いながらも、実際には厳しさもあるのが現状。
でも、ようやく今は「SDGs」や「エシカル」といった、人や社会に優しい行動指針や取り組みなどを伝えやすい言葉が世の中に出てきて、王様のおやつのストーリーを伝えやすくなったように思います。
やっと時代がわたしに追いついてきたなって。
これからも王様のおやつを、協同組合レインボー・カフェ・プロジェクトをよろしくお願いいたします。
インタビュー/執筆:柴田 惠津子
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