読書日記『天使の子』
天使になりたいと思ったのは1度や2度ではない。
幼い頃は、天使という言葉が持つイメージから。
大きくなってからは、神話や宗教で語られる天使ではなく、辞書に載っているところの“心の清らかな、やさしい人のたとえ”という意味の天使になりたいと思うようになった。大人になった今でもそれは変わらない。
『天使の子』。
”天使の子”というタイトルからは、想像できない物語が本の中に詰め込まれていた。
女と男。障害者と家族。社会的真実と自分的真実。そして、愛。いろんな問題が絡まって“天使の子”が誕生している物語だと思う。
小説は物理的に心情が読めるものであり、会話文で答え合わせができるものだ。主だった登場人物以外は何も触れられないこともあるけれど、そういう人はあまり印象に残らない。
この物語の鍵となる主人公の姉である“クリスティーナ”。彼女の心情はほとんど登場しない。登場するのは最後の少しだけ。だから、彼女がどう思っているのか、何を感じているかは、直接分からない。
主人公である“カオリ”と“ダニエル”を通じて彼女を知り、彼女の想いを推測するしかない。
だけど、クリスティーナは本を閉じた後も私の心に残り続けた。主人公の2人以上に心に残った。彼女はあの瞬間どんな思いだったのか。あの場面ではどう感じていたのか、気になってしまう。
なぜ、こんなに彼女が心に残るのか。
モヤモヤとは少し違うけれど、物語を読み終えた後、自分がどんな気持ちになるのが正しいのか分からなくなったからというのが大きい。
なぜなら、彼女の想い一つでこのお話が、悲しいお話にも、幸せなお話にも、怒りを感じるお話にもなると思ったから。
舞台はアメリカ。
文章はもちろん日本語だが、会話文は英語を翻訳したような文章の組み立て方で、どこかストレートな感じがした。
それが非日常で、たぶん難しい問題を語っているこの物語にもちゃんと入ることができた。
天使が何から産まれるのか私は知らない。
だけど、この物語の天使が天使から生まれる世界の話だったらいいなと私は思う。
あらすじ(河出書房新社:本の内容より)
愛することは受け入れること――。28歳わたしがアメリカ留学先で出会った底抜けに明るく温かいダニエル。惹かれていく2人だが、彼には秘密があった。愛と性、そして生。衝撃の問題作。
『天使の子』
小手鞠るい 著
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