【思い出エッセイ】田舎での雉(キジ)の声
昔住んでいた家のすぐ隣が竹藪だった。
学校のない日曜日など、寝起きの半開きの眼で寝室の天井を見上げている時、「ケーンケーン」と雉の鳴き声が聞こえてきたのをよく覚えている。
小学校に登校する朝もよく見たものだ。
メスの雉は色が地味だが、オスの雉は色がとても綺麗。
雉は体長も大きく堂々と歩くので当時小さかった私にはたいそう優雅な姿に見えた。
当時の私にとって雉など全く珍しい鳥ではなかったのだ。
姿を見るのは頻繁ではないにしろ、あのどこか寂しい鳴き声は聞き飽きた声と言ってもよい頻度で耳にしていた。
そのあと田舎を離れてからは雉の鳴き声など聞くことも無くなり、私の頭からは雉のことなど頭からすっかり忘れ去られていた。
再びあの田舎の雉のことを思い出したのは、大学進学のために上京してから数年経ったころであった。
恒常的に大学に行く気が出てこなかった私は、取り敢えず下宿先の周りを散歩するのが日課だった。
ある日散歩していると、突然どこからか「ケーンケーン」という声が聞こえてきたのだ。
聞いたことのある鳴き声、しかしあまりにも久々に聞いた声だったので何の鳥の鳴き声だったのか判別するのに数秒かかった。
その声は疑いようもなく雉のものであった。
聞き間違いの可能性も考えたが、私が住んでいたのは東京と言っても、西の田舎の方で緑が比較的多い場所。雉がいてもおかしくはない。
聞き間違いではないだろう。聞き間違いであって欲しくは無かった。
その後も耳を澄ませてはみたが、2度目の鳴き声は聞こえなかった。
しかし、その雉の鳴き声をきっかけに昔住んでいた田舎で過ごしたあらゆる記憶が一気に蘇ってくれたのだ。
昔住んでいた家の隣の竹藪に今も雉はいるのだろうか。
確かめることはもうできない。
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