【思い出エッセイ】夏休みの女の子
小学二年か三年の頃だったか、夏休みに同じクラスのとある1人の女の子と遊んでいた記憶がある。
暇な夏休みだなぁと思いながら家でゴロゴロしていたところ、彼女は私の家に突然やってきたのだ。
誰かと遊ぶ約束もしていない日だったのでまさか自分目的の来客だとは思わなかった。それも相手が女子だとは。
当時彼女が家に来たときに、とても戸惑った記憶があるので、恐らくそこまで仲の良い間柄ではなかったのだろうと思う。
しかし、その時私は暇で暇でしょうがなかったので取り敢えず嬉しい来客だと思い、一緒に遊ぶことにしたのだった。
遊ぶと言っても田舎では遊びの幅は広くない。
ましてや小学生なんかであれば、誰かの家でゲームをするか、缶蹴りをするか、自転車を適当に走らせて小探検するくらいであった。
取り敢えずその日は、彼女と共に自転車を走らせて近所を回ることにした。
何を話したかは覚えていないが、よく笑いよく喋る活発な子という印象が残っている。
自転車をしばらく走らせた後、彼女の家の近くまで行ってカブトムシがいるという木へ連れて行ってもらった。
残念ながらカブトムシはその時はいなかった。
その木は穴が空いていて、確かにカブトムシがいそうな雰囲気ではあったが、樹液が出ている木でも無かったので、こんなところにカブトムシは寄ってこないだろうと当時思ったことを覚えている。
他にも何度か彼女と遊んだはずだがその“カブトムシの木“の日のことだけなぜか強く記憶に残っている。
その夏休みから数年経った、小学校五年になったあたりから彼女は次第に学校を休みがちになった。
その理由は分からない。
時折、学校に顔を出したかと思えば、誰とも喋らず1人でひたすら自分の髪の毛を抜いていた。
掃除の時に彼女の机の周りだけ毛がたくさん落ちていて掃除当番の生徒たちは「気持ち悪い」と言っていた。
正直、私も口には出さなかったものの気持ち悪いと思った。
その一方で、いつかの夏休みの彼女の活発な姿を目にしているので、なぜ今こんなふうになってしまっているのだろうということも気になった。
結局小学校の最後の方は彼女は教室には全く来ていなかった気がする。
保健室には来ていたらしかったが、詳しいことは分からない。
そのような出来事を経て小学校を終え、クラスのほぼ全員が近くの公立中学校へと進学した。
私も彼女もその中学校へ進学した。
中学1年生の最初の頃は、彼女もクラスで皆と同じように授業を受けていたはずだが、途中から(割と入学してすぐだった気がする)彼女は特別支援学級というところに移った。
特別支援学級の教室はカーテンで閉められていて中は見えないようになっていた。
だから中でどのような教育を受けていたかは分からない。
クラスメイトの誰もが特別支援学級のことに興味はないみたいであったが、私は特別支援学級の教室の前を通るたびに、一種の怖さを感じていた。
彼女と遊んだかつての夏休みでは、彼女は私にとって“普通の女の子”でしか無かった。
人とも問題なく喋ることができて、明るく笑う活発な女の子。
その夏休みの彼女と、特別支援学級に入ったあたりの彼女はまるで別人だった。そのギャップに何故か不気味さ・怖さを感じていたのだ。
しかし、時が経つにつれて私の彼女への興味は失われていった。
勉強を放り投げて友人たちと毎日遊び呆けるので忙しかった私に、彼女のことを考える余地は残されていなかったのだ。
結局、彼女とは中学時代1度も話さず卒業した。
それどころか卒業する頃には彼女の存在自体を私は忘れていた。
あれから何年も経って、ふと彼女のことをこうして思い出した。
今現在、彼女はどうしているのだろうか。
あの夏休みの時のように元気いっぱいの姿であれば大変喜ばしいことではあるが、残念ながら私にはどうしてもそのような姿は思い浮かべることはできないのだ。
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