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奥信濃への道

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奥信濃100トレイルランレースに関するエントリーはこちらのマガジンにまとめてあります。日々のランニング備忘録程度の駄文です。
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続・奥信濃への道 第28走:限りなく今、そこにある道

カヤノ平エイドに到着。 水とクエン酸入りドリンクの両方を補給し、大好物の野沢菜の漬物を頂く。定番のお饅頭をポケットに忍ばせ、このコースで最高の区間であるカヤノ平ループ約10kmに入っていく。この時点で15時前、スタートから4時間経過、脚は思っていた以上に使ってしまったが、まだ疲労具合は許容範囲内だ。 ここからの10kmはブナの原生林を通るトレイルになり、日本一美しいブナの森とも呼ばれている場所になる。私はこのセクションが大いに気に入っており、登りもそこそこあるが、とにかく爽

続・奥信濃への道 第27走:経験は山と泳ぐ

人間というもの、一度経験したことに関しては鈍感になる物だ。 1年前には50kmという途方もなく感じた距離も、経験値と言うものは刺激を鈍らせるには十分な要素の一つ。 2年目の奥信濃50kmは良くも悪くもリラックスして臨むことが出来たのは、その経験であろう。 補給は昨年と同様に準備しつつも、エイドの充実さを身をもって体験したため、余裕はあるが持ちすぎない程度に留めザックに放り込む。 ヘッドライトは本年の目標として”日が出ているうちに完走する”としている為、必携品なので持ち合わせ

続・奥信濃への道 第26走:続いていた道の先に

「来週末から奥信濃エントリーですが2人はどうしますか?僕は100kの予定です。」 マツダは昨年同様、唐突に奥信濃100のエントリーを勧めてきた。 昨年に続き久々に動き出したLINEグループが2022年末の年の瀬を知らせてきた。さらっと「100kにします。」と記載された文字の裏にはITJを経験したマツダの自信も感じ”ご一緒に100kいかが”との思いも容易に読み取れた。しかし私の揺るがない鉄の意志で50kにエントリーしたのは言うまでもない。 毎度のことだがイベントに出場した直

第25走:地球が回る音

季節の巡りはいつも早い。 寒いなと思っていたら気温と湿度は上がり、史上最短の梅雨は一瞬で開けてしまった日の夕刻。日が傾いてきたと思い奥信濃ぶりに定番のホームコースへ走り出す。 しかし考えは甘かった、気温は全く下がっておらず30℃は超えたまま、時間とともに日は傾き続け陰るが、街は節電呼びかけの為か、心なしか墨田川沿いはいつもより暗く感じる。 脚の感触は良好、足の親指の爪は奥信濃以来、黒く内出血してそのままだが違和感なく走る分には問題ない。ただ如何せん熱順応が出来ていない。 更

奥信濃への道 第24走:道は続くよ、どこまでも

頭に手を伸ばし手探りでヘッデン(頭部につける前照灯)のスイッチを押すとLEDの無機質な白い灯が足元の先を照らす。ここからはこれが頼り。 エイドを出て少しばかりのアスファルトの下り、その先には最後のトレイルが待っている。平坦貴重と軽い登りの組み合わせなので、下りで崩壊した脚には優しいのがせめてもの救いである。 少し前を走るランナーの背中に光る尾灯に吸い寄せられるように、自身も足元を照らす白い光を頼りに先を急ぐ。辺りの日は落ち木々の間から空を見れば濃いグレー、足元は真っ暗。行きと

奥信濃への道 第23走:魂を重力に引かれて飛ぶことができない

「ザァァー」っと木の葉を雨粒が叩く音が一斉に辺りを包む。 しかし身体に雨粒が当たる感覚がない、不思議な感じは違和感を生む。どうやら森の中のトレイルでは大きな木の葉が傘となり、雨から身を守ってくれているようだ、とてもありがたいが、暫くしてぬかるんだ路面は緩い泥と化し、文字通り足元をすくう。 スタートから4時間、時計は14時を回ったところ。まだ20㎞地点過ぎだ、全行程の半分も到達していないことに軽い眩暈を覚えながら高低差表に目を向ける。 私はどちらかと言うと登りのほうが得意な

奥信濃への道 第22走:彼は突然に先を急ぐ

「オッチーさん、絶対、最初から飛ばしていくと思うわ」 小林はマツダとの内輪話について、私からは特段聞いてもいないのに俺にそう言って暴露した。小林はそういう男だが私はそれが好きでもあった。そんな事を言われては”男が廃る”と期待通り最初からペースを守らないなどと愚行を行うほど私は甘くない。 不思議と緊張はしていない。目を三角にしてライバルたちと順位を争っていたシクロクロスとは違い、今回の敵はその土地と己自身。 目標としていた奥信濃50㎞レース、スタートの合図はあっけなく鳴った

奥信濃への道 第21走:覚悟は良いか、全てにおいて覚悟は良いか

今、上越妙高に向かう北陸新幹線の中に居る。 上越妙高に向かうのに上越新幹線ではなく北陸新幹線。上越新幹線は下越の新潟に行ってしまう、JREの上越とは…。この北陸新幹線と言うか長野新幹線と言った方が個人的にはしっくりくる。 おっと…東京駅を出て上野まで一瞬だ。 ひょんな事(第1走を参照)で出場することになったトレイルランニングイベント奥信濃100の50kmレースに出るためだ。 手に持つスマホには明日の天気予報が表示されているが傘マークに稲妻がオマケで付いている。そんなオマケはい

奥信濃への道 第20走:勇み足な急ぎ足

ぎょっとした。 5月5日以来ランニングをしていなかった。もっと言うと先週に至っては出張が重なりアクティビティどころではなかった。 自転車こそ乗っていたが、ランニング脚は鈍るばかり。焦る気持ちと裏腹に時間は過ぎていく、良くある脅迫概念に近い。 そんな気持ちを開放すべき再開、しかし調子に乗って以前のペースでは腸脛靭帯をまたやらかす未来しか見えないため、慎重に8㎞を5:15/kmペースで刻んでいく。 うん、気持ちよく走れている。 最近は気温も上がり、5インチのランパンがとてもよ

奥信濃への道 第19走:大事なことは、だいたい面倒くさい。

めんどくさい。 人類最大で最強の敵、めんどくさい。 忙しい、あぁ忙しい、今日は疲れた、家に帰ってご飯食べてダラダラしたい、走るために着替えるのめんどくさい、ラン後にご飯作るのめんどくさい。 という至極まっとうな要求が頭を駆け巡るどころが留まり続ける帰り道。いつぞや流行ったTMNのGetWild退勤(会社を出るときにGetWildを聴きながら帰る行為)をメイクすると不思議なもので、春の風に乗ってやる気が舞い戻ってくる。夜は気持ちいい、もう少し外に居たい。それだけで今日も走れる

奥信濃への道 第18走:気分次第で攻めないで

休むことへの不安と言うのは何とも苦しいものだが、その見返りとしては効果は覿面。無理をしたとはこれっぽっちも思っていないので、むしろタチが悪いのだが、トレイルランニングでのダメージは脹脛への違和感程度であった。普段のロードでは使わない箇所の筋肉に刺激が入ったのであろう、そのストレスへの体感としては十分すぎる筋肉痛と言うものであった。 さて、体をケアするにおいて一番大事なのは休息であることは、言わずもがなご承知であろう。意図せず悪天候とワクチン接種により外を走れない日が続き気が

奥信濃への道 第17走:オウィディウスの言葉

休息する時間がなければ継続できない。 というのは古代ローマ時代のオウィディウスの言葉ではあるが、まさに真理をついている。私といえば体を動かす事と同様に、寝るのと飲む事、食べる事が大好きだ。故によく飲み、よく食べ、よく寝るために、よく体を動かす。それは体を動かす以外の好きなことを行う為に、罪悪感を少しでも減らすためでもあるのだが、要はマッチポンプなのである。 猿投を走った後、少なからず普段使っていない筋肉を酷使したため雨という天気とワクチン接種もあり半強制的に休息を入れてい

奥信濃への道 第12走:夜へ急ぐ人

「そうか、これは大正時代の風景に近いわけだ」 そう彼が語ると目を前にやる。 ライトアップが消された隅田川に架かる橋は、橋脚上の照明だけが灯されて水面を少しばかり照らすだけ。明る過ぎる街において、少し位落ち着いた雰囲気がこの隅田川沿いに流れている。私はこれが好きだ。 今日は20kmは走りたいんだよね。そう伝えると彼は白髯橋まで行こうという。いつもは浅草に最寄りの吾妻橋で折り返している私にとって、それより北側はランニングで行くのは未経験。彼はやたらと道における足場の快適さを主張

奥信濃への道 第16走:あそこが猿投

「まぁまぁですね。頑張ります。」 メンバー内でマツダは一番の経験者であるが、グループLINEのTL画面に表示されているルート図と獲得標高の数字を見てそう返してきた。17km 1037mUPと言うスペックは”まぁまぁ”らしい。 早朝7時に麓の駐車場に集合した面々は総じて明るい顔だ。というのも3名全員揃うのも、年末の当事案が言語化したその瞬間以来なので、実に4か月振りにようやく脚合わせである。それまで各自、鍛錬に勤しんでいたと思われるが私とマツダは膝に、コバヤシは脱臼をした肩に不