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奥信濃への道 第23走:魂を重力に引かれて飛ぶことができない

「ザァァー」っと木の葉を雨粒が叩く音が一斉に辺りを包む。
しかし身体に雨粒が当たる感覚がない、不思議な感じは違和感を生む。どうやら森の中のトレイルでは大きな木の葉が傘となり、雨から身を守ってくれているようだ、とてもありがたいが、暫くしてぬかるんだ路面は緩い泥と化し、文字通り足元をすくう。

スタートから4時間、時計は14時を回ったところ。まだ20㎞地点過ぎだ、全行程の半分も到達していないことに軽い眩暈を覚えながら高低差表に目を向ける。

私はどちらかと言うと登りのほうが得意なようだ。正確には下りが下手すぎるのだろう。全行程での最高標高点を先ほど通過したばかりなので、ここからは暫く下りになる、やれやれだ。
登りで抜いたランナーも水を得た魚のように軽快に走り抜けていく、あの跳ねるように駆け抜けていくのは今の自分には無理だ、間違いなくそれは絶対に足が壊れる。

30㎞地点のエイドに戻ってきたときは温存して走ったおかげか、余裕を感じれるぐらいには脚は動いてくれた。ここからは今回の一番の難所、距離14kmで標高差800mを一気に降る壮大な下りセクションとなる。正直下りが苦手な私にとっては地獄そのものである。広めの1.5車線の所謂ジープロードとなり路面コンディション的には走りやすい部類だろう。7’30/kmを目標にひたすら下っていくがそれでも1時間40分程は走りっぱなしになる。さらに最終エイド到着予想時刻が日没とほぼ同じなので、到着直前のトレイルはもはや薄暗く足元が不安であった。

森をつなぐトレイルを抜けた先に集落を発見し、小さな広場に煌々とライトが光るエイドを発見した時は、長くつらかった下りの終わりを示し、心底安堵した。日没時刻直前に最終エイドに到着した時には、下りのダメージが脚を襲って筋肉と関節が強張りきっていた。
残り5㎞。なんてことはない距離だが最後の5㎞、脚は動くが余裕はない、そう簡単にはゴールには辿り着けない、最後の森、そのトレイルはもはやベンタブラック。
この心技体共にギリギリ感に、アドレナリンは全身を駆け巡っていた。

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