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【僕 幸せになるよ】 #795


僕はおじいさんの最後の孫だと思っていた
おじいさんの四姉妹の末娘の二男

おじいさんの葬儀の後
遺産相続について四姉妹が弁護士と共に集まった
僕たち兄弟は母と一緒に来ていた
僕と兄はおじいさんの家の庭で遊んでいた

遺産は恐らく四姉妹に均等に割られると思う
でもどれくらいになるんだろう
このお屋敷は残すのかなぁ
それとも売り払うのかなぁ

兄が色々と教えてくれた

「このままで行ったら
この屋敷は売られるだろうな」

「どうして?」

「だって遺産の相続税で半分以上持ってかれるから
資産価値のある物をお金に変えなきゃ
手元にお金が入らないし
場合によってはお金を支払わないといけなくなる
しかも確か相続税って現金で支払わないといけないし
2ヶ月くらいしか猶予が無かったと思う」

「ええーそうなんだ
そんな事よく知ってるね」

「たまたまこの間読んだ推理小説にそんなような内容のがあったんだよ

後さぁ
ヤスシお前が孫の中で一番最後の子だと思ってるだろ
実はその下にもう一人いるらしいんだ」

「えっ
なんでそんな事知ってんの?」

「亡くなる数日前かなぁ
おじいさんに借りてた本を返しに行ったついでに様子を見に行ったんだよ

そしたらさぁ一所懸命に何か書いてたんだ
俺がそれなに?って聞いたら
自分史だと言ってた
そん時に直々に教えてもらったんだ」

「どんな話?」

「おじいさんがまだ関東軍の軍医だった頃
満洲に赴任する前に一人東京に単身赴任していたそうなんだ
その頃おばあさんのお腹の中には俺たちの母さんが居たんだって
東京で魔がさしたらしく京都から連れて行った女中とできてしまったそうなんだ
彼女は妊娠し子供を産む事に
おばあさんはおじいさんの子である事は仕方が無いと諦めたが
女中は解雇し二度と京都の屋敷の敷居はまたがせないようにした
世間体もあるので女中には毎月お金は送金していたそうなんだよ」

「凄い話だね」

あまりピンと来ない

「おじいさんは女中に対して申し訳ない気持ちでいっぱいらしいんだ
だからひょっとしたら遺産は四分割では無いかもね」

「それは遺言状次第なんじゃないの?」

「だからその遺言状だよ
そこにその元女中の名前が入ってたらって事」

「どうなんだろね」

「さぁなぁ…」




結局その後遺産が何分割されたかは分からなかった
聞かなかったし多分聞いても教えてくれないだろう
屋敷はやはり売りに出された
今どきこんな古くてデカい家なんて維持するだけで大変だ

僕が成人した頃にはお屋敷はイタリアンレストランになっていた
週末は結婚式なんかもしている

僕は西宮の実家から出て東京の会社に勤務する事になった 
すると母は僕に東京に古い友人がおり
何かとチカラになってくれると思うから
こちらからも連絡しておくから訪ねていらっしゃい

そう言って名前と住所と電話番号が書いてある紙を渡された

東京では世田谷にマンションを借りた
このマンションを用立ててくれたのもその人だった
お礼を伝えにお土産を持ってその方の自宅を訪ねた

玄関のベルを鳴らすと若い女の人が出てきた

「ヤスシさん?です?」

「あっはい」

「お母さんもうじき戻るから
中で待ってて下さい」

「あっはい」

「さっどうぞ」

「あっはい」

「アナタ
あっはいばかりね
おもしろい人」

「あっはい
いえいえそんな僕は…
すいません」

「謝る事は無いわよ
緊張してるのね
大丈夫よ
普通の家だから」

とても可愛い人だ
流石東京
普段着だろうけど
なんだかキラキラしているもの

リビングに案内され
お茶を出してもらった

「ヤスシさんさぁ
昔会った事あるんだよ」

「えっなんで?」

「全然覚えてないんだ」

「全く」

「お墓参り
覚えてない?」

「お墓参り?
それだけじゃ分からないよ」

「あのね
ヤスシさんのおばあさまのお墓参りにヤスシさんのお母さまが連れて行ってくれたの
ウチのおばあちゃんがさぁ昔アナタのおじいさんのとこで住み込みで働いてたのよ」

「それって
もしかしておじいさんが東京で仕事してた時にも一緒に行ってた人?」

「そうそう
よく知ってるわね
そーよそれがうちのおばあちゃん
もう亡くなったけどねぇ
おじいさまには良くしてもらっててね
ウチのお母さんとヤスシさんのお母さんもそれが縁で仲が良かったのよ」

「そうなんだね
ウチの母と仲が良かったんだ」

そうなんだ母は異母姉妹と仲良かったんだ
兄貴が前に言ってた一番下の孫っていうのがこの人なんだ

そんな事を考えていたら
お母さんが帰ってこられた
挨拶をしお土産を渡し帰ろうと思ったら
夕飯をご馳走になって夜が遅いからと泊めて下さった
ちょっと挨拶に来ただけなのに

「色々と分からない事もあるだろうから
何でも言ってちょうだい
部屋にはもう電話は引いたの?」

「はい」

「それだったらココに電話番号書いておいて
何かあったらまた電話するから」

この頃はまだ携帯電話が出始めで持っている人は金持ちくらいだった

東京の暮らしもお陰で快適に過ごせる

娘さんの名前はナオミさん
ナオミさんはよく僕を連れ出してくれる
お母さんから言われて来たと言うけどホントかどうかは分からない

でもこの子って多分いとこなんだろなぁ
知ってんのかなぁ

気が付いたらしょっちゅう会うようになってた
家にもちょくちょくお邪魔していた
お母さんはいつもニコニコして迎え入れてくれる
挙句に「もうアナタたち付き合っちゃいなさいよ」とまで言われる始末

でも僕は依然兄貴から聞いたあの話が気にかかりなかなか前に一歩踏み出せない

でも高ぶる感情には逆らえない

結局僕たちは付き合う事となった
もちろんお母さん公認で
因みにお父さんとは離婚していて会った事は無い

一応法律的にはいとことは結婚できるので問題ない

数年付き合ってウチの母にも改めて紹介し結婚の意思を伝えたらとても喜んでくれた
しかしおじいさんの外の孫の事は言ってくれなかった

大丈夫なのだろうか

結婚を正式に申し込みに行った

「お母さん
ナオミさんと結婚させて下さい」

「硬っ苦しいのはやめましょ
おめでたいじゃない
アナタのお母さんと言ってたのよ
ほら昔一緒にお墓参りしたでしょ
その時にね仲良く遊んでた二人を見て
将来夫婦になったら良いのにねって言ってたのよ」

「あのぉ…」

「どうしたの?」

「あのぉ一つだけ聞きたい事が」

「なぁあに?」

「おばあさまの事で聞きたい事が
あのぉ言いにくい事なんですが
ウチのおじいさんとお母さんのお母さん
おばあさまのとそのぉ…男女の関係があってそれでお母さんが生まれたと」

「なになにその話
そんな噂があるの?
誰が言ったのかしら
それは無いわよぉ
その時にはおばあちゃんはもう結婚していてナオミのおじいちゃんも一緒に東京でおじいさんのお世話をしていたのよ」

「えっ!
でも兄がおじいさんから聞いたって」

「そうねぇ…
それはおじいさまの勘違いよ」

「勘違い?」

「そうなのよ
多分あの日の事だと思うの」

「どういう事ですか?」

「私も聞いた話だけどね
あの日ね
あなたのおじいさんは大変酔っ払って帰って来たそうなの
でね寂しかったんでしょ
ウチのおばあちゃんをヤスくんのおばあさまと勘違いして
強引に添い寝させたみたいなのよ」

「添い寝?」

「そう聞いたわ
笑いながら話してた
そしたらウチのおじいちゃんが
少しだけ横に寝て
おじいさまが寝たら
戻ってきたら良いと言い
そうしたらしいの」

「でどうなったんですか?」

「何も無いわよ
おじいさまはすぐに寝てしまい
次の日
おじいさまは謝っていらっしゃったそうよ
その後ね私を妊娠して
それも自分だと思い込んでたんだと思うの
とても真面目な人だったから
いくら違うと言っても信じようとしなかったけど最後は納得したって言ってたわよ
それを死ぬ間際まで思い込んでたのね
気の毒に

でもホント大丈夫だからナオミとヤスくんとは血は繋がって無いから
でないとヤスくんのお母さんと仲良くできないわよ」

「嗚呼ぁそーだったんだ
良かったぁ
兄貴の言う事信じ切ってましたよ」

「大丈夫よ」



僕は兄のというかおじいさんの思い込みをホントの事だと信じ切っていた

僕たちは結婚式をあのおじいさんの屋敷であげた
皆喜んでくれた

ナオミのお母さんと僕のお母さんたち四姉妹とも仲良くお話しているのを見てやっと安心できた


僕たち夫婦は今も幸せに東京という地で暮らしている
もうすぐ一人目の子供ができる


ちなみに
ホントは東京へはナオミのおばあさんしか一緒に行っておらず
確かにその東京で結婚したが
東京で出会った人
そしてあの夜は彼は家にはおらず
おばあさんとおじいさんしか知らない






ほな!

※この画像は作者の祖父であり
この物語とは一切関係ございません
イメージとして使用

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